スキル「共感覚」のおかげで最強の魔法使いになったので魔人を集めて魔王になることにしました 〜最恐魔王の手さぐり建国ライフ!〜

熊乃げん骨

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第五章 氷獄に吠ゆ

第17話 旅立ち

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「かんぱーーい!!」

 もう何度目は分からない乾杯の声が村の広場に響き、グラスがガチンと勢いよくぶつけられる。
 あまりの強さに中のお酒が地面にこぼれることなどお構いなしに村の人たちは繰り返し乾杯をし、強い酒を笑顔であおっている。

「たいしょー! のんでるかーっ!?」

 いや、村の人だけではなかったか。
 ヴォルクも負けじとガブガブ大量の酒を腹の中に収めている。明日にはここを出発することを理解しているのだろうか?

 ……まあ今回はよく頑張ってくれたから大目に見るとしよう。

「おや、マオ殿。こんなところにおられましたか」

 俺がそんな賑やかな様子を少し離れたところで見ていると、料理を持った村長に話しかけられる。
 ちなみに「マオ」というのは俺の偽名だ。魔王という身分を隠してる以上本名を伝えるわけにはいかないからな。
 ……名前の由来は言わなくても分かるだろ?

「酒は得意じゃなくて。飲んでるのを見ている方が楽しいんですよ」
「そうでしたか、ならばせめて料理を食べて下され」

 村長はそう言うと俺の隣の椅子に腰かけ、手に持った料理を差し出してくる。
 それは肉がごろごろ入ったスープで、置かれた瞬間鼻にとてもおいしそうな匂いを運んでくる。

「これは旨そうだ、いただきます」

 ちょうどお腹もすいていたので俺は遠慮せずそのスープを口に運ぶ。
 うん、城での食事もうまいがこれもうまいな。塩味が効いていて疲れた体に良く染みるぜ。
 ゴロゴロの肉もワイルドな味付けでいい感じだ。

「……差し出がましいのじゃが、一つお願いを聞いてくれませぬか」

 俺がスープに舌鼓を打っていると、神妙な面持ちした村長が急にそう切り出してくる。

「ワシらはこの村を捨てようと思っておる。そうすると長年引きこもっておった我々に頼るあてはありませぬ。どうか魔王国に引き取ってくれませぬか?」
「……随分急ですね、なぜ村を離れるのですか?」

 せっかく村に平穏が訪れたというのになぜだろうか。

「この村はもう『閣下』に目をつけられました。以前のような暮らしはもう不可能でしょう」
「閣下……ねえ」

 その名は良く知っている。
 なにせ魔力大規模感染《マジカル・パンデミック》発生以前からのロシアの統治者だ。社会の授業でも勉強したし、ニュースにもよく映っていた。
 確かな手腕とカリスマ性で君臨する優秀な人物のはずだ。
 そうでなければとても今の世界で国を守り続けることなどできない。

「あの人は裏切者には容赦しない、今回の件が耳に入れば絶対にワシらを許しはしない」

 その話は俺も聞いた事がある。
 元軍人だった彼は規律に厳しく、それに背いた者へ苛烈な罰を与えるという。ロシア軍の連携の強さはそんな彼がトップだからこそ為せる技なのかもしれないな。

「なるほど、ですがあなた方ならロシア軍を返り討ちに出来るのでは?」

 本当なら彼らが魔王国に来てくれるのは大賛成だ。
 しかし故郷を失う辛さは俺もよく知っている、だからそう簡単にその選択肢を取って欲しくなかった。

「確かに私たちならばそう簡単に負けはしないでしょう。……しかし国を敵に回せば無傷では済まない、絶対に何人かは犠牲になってしまう」

 村長はそう前置くと、決意に満ちた目で俺を見つめる。

「だから決めたのじゃ。次こそは選択を間違えぬ、規律に縛られず真に村の者たちが幸せになれる道を選んで見せる!」
「……そうですか」

 村を捨てる。
 故郷を自ら手放すその選択はそう簡単に取れるものではないだろう。
 きっと悩んで悩んで悩みぬいた末の結論。ならば外野がこれ以上口を出すのも野暮ってもんだ。

「わかりました。魔王の方には自分から提案してみます、安心してください絶対に首を縦に振らせてみせますよ」

 俺はドン! と自信満々に胸を叩き宣言する。
 まあ自分がその魔王なので断られることは絶対にないのだが。

「……ふふ。そうですな、お主ならできるでしょうな」
「ん? どういう意味えすか?」
「ふぉふぉ、年寄りのたわごとじゃ」

 なにやら意味ありげに口元を緩ませる村長。意味が分からん、こうなりゃ心を覗いて……

「たいしょう!! のんでるかっ!!」
「おわっ!」

 急に視界が回転し体が宙に浮く感覚に襲われる。
 どうやら酔っぱらったヴォルクに持ち上げられたようだ、すげえ酒臭い。

「お前! なにして……」
「はれ? 大将が三人いる……。分かった! 新しい魔法だな! 俺にも教えてくれよ!」
「お前が酔っぱらってるだけだ!! ええい離せ酒臭えっ!!」

「ふぉふぉふぉ、賑やかじゃのう」

 こうして最果ての村最後の宴の日は、最後とは思えないほど賑やかに過ぎていくのだった。











 ◇










「本当にいいんですね?」
「……うむ、別れなら昨日済ませた」

 宴の翌日の朝、俺と火凛とヴォルクと銀狼、そして村の人たち全員は村を出てすぐのところに集まっていた。
 集まった村の人たちはみな大きな荷物を持っており、その全員が寂しげな表情を浮かべ村を見ている。

「では……始めるとしよう」

 村長が手に集めた魔力を地面にかざすと地面に村を丸々飲み込むほどの大きさの魔法陣が浮かび上がる。その赤い魔法陣は次第に熱を帯び始め数分後には村のあちこちから火が上がり始める。

「うう……っ」

 故郷が燃え盛る姿に耐えられなくなったのかうずくまり泣き出す人も現れ始める。
 よく見れば毅然としてる人の目も潤んでいる。

「何も焼かなくてもいいんじゃないか?」
「これはけじめですじゃ。我々はこの村に依存し過ぎました、二度とあのような悲劇を繰り返さないためにもこれは必要なことなんじゃ」

 そう語る村長の目にも光るものが見て取れる。
 強い人だ。

「それに建物が無くなったところで故郷がなくなるワケではありませぬ、我々が生きている限り村はここにあり続けるのですから」

 村長は自らの胸をトントンと指差す。

「ここにある……か」

 建物が、土地が国の全てではないということか。
 そこに住む人、国民こそが国であり守るべきものなのだ。

 統治者として大切なことを学んだ気がする。 

「さてそろそろ連れてってくださるかな。我々の新しい故郷《ふるさと》に」

 気づけば全員がこちらを見ていた。
 赤く目を腫らしながらも期待の色を浮かべている。不安な気持ちもあるだろうに、強い人たちだ。

「……わかりました。行きましょうか、私の、私たちの故郷《ふるさと》へ」


 こうして、最果ての地はその存在を消し本当に幻の存在になった。
 しかし世界は知らない。

 その村は今も村人の中に、そして魔王国の中にあることを……
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