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茶会に必ず居る最恐

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 メイは、その日、家族と王都の教会に礼拝に来ていた。司祭長は、王宮魔法士から聴いていた【不思議な魔法の波動】を持つ少女と初めて対面した。
 教会の司祭は、魔法力の波動が黄色、つまり喜びの色が多く礼拝に来る者に祝福が訪れるよう祈る。
 司祭長室にて、魔法士長も同席した中でメイの魔法力を感じた司祭長は喜びに打ちひしがれて涙した。

 「あぁ、まさに代々の司祭長から伝わっている【聖なる力】と【安らぎの力】が……メイ様と呼ばせていただきたい」
 「あ、あの……司祭長さま? わたし、まだ魔法を学んでいて……そんなに制御も……お兄さま?」
 「メイを不安がらせないで欲しい!! 大丈夫だよ、メイ。このリゲルがメイを護るからな?」
 「リゲル殿は、立派な護衛魔剣士となりそうですね?」
 「なれるではなく、なるのです!! 魔法士長!!」
 「怖がらせようとしたわけではないのです、メイ様。司祭長のわたし自身でも、この様に安心する魔法の力は初めてではないのですが・・・・・・」
 「司祭長、それ以上は……はい、魔法士長。話の続きは、メイ様が学園で学ばれていく中で、理解していかれていくと思います」

 教会の司祭長室を出ると、司祭たちと話しをしていた両親が喜びの声で抱きしめてきた。
 母が最近、階段の上り下りをしきりに気にしたり、食事中に匂いを気にしていたりしていた。
 父も、母の体調をとても気にかけていた。この4カ月ほど……教会には、司祭の中にも医術に長けている者が居る。その司祭に、診て貰った後だった。
 医師に気軽に診察ができない家のものは、教会で司祭の診察や治療を無料で受けられる。その制度を作ったのは、前国王であった。その仕組みを、全領地へと広がるように改革したのは現国王。つまりシェノン殿下の父になる。
 領主の中には、領地の運営が芳しくない所に運営管理士が赴いて運営のいろはを叩き込んでいく。また、努力だけではどうにもならない干ばつなどの場合は、国が補佐や補助に入ったりする。
 ドライモス男爵家は、肥沃な土地ではないが小さな領地を任され領民との距離も他の貴族から見ると近しいと言われるが。それでも父は、代々受け継いでいる土地と領民の幸せのためにと彼らの話しに耳を傾けている。その運営方針を、国王は褒めている。
 今回は、フォンテーヌ嬢のシェノン殿下とのお茶会時期になっており『メイが同席しないと行かない!!』という事や、リゲルの剣指導の時期もあって王都に滞在していた。

 「メイ、リゲル!! 喜んで!! あなた達に、弟か妹ができるのよ?」
 「本当、お母さま!! ねぇ、お兄さま!! 兄さま? 嬉しくないの?」
 「妹は……メイだけでいい!! 弟だったら、ライバルじゃないか!!」
 「リゲル!! お前……いい加減にしないかっ!!」

 滅多に怒らない父が、瞳を真っ直ぐリゲルを見て肩を掴み言う。

 「これから生まれる、せっかく授かった命をっ……お前は、メイさえよければ良いのか?!」
 「俺は、メイだけでいい!!」
 「に、兄さま? メイは……メイは……」
 「メイ? 俺は、俺は……メイに、だって、俺は……」

 メイが泣き出すと、リゲルは酷く混乱し始め言葉がでない。ずっと、メイ中心で……メイを虐めていた時期もあったが、今は、彼女に心を渡したあの夜から、さらにメイだけになった彼には。メイ以外は、どうでも良いと考えていた。

 「いいかリゲル。メイは、お前がメイだけ良ければという言葉が寂しいのだ」
 「えっ?」
 「メイだけだったら、リゲル、お前はどうなる?」
 「俺? 俺は別に……」
 「メイは、兄さまもしあわせでないとイヤです!!」
 「っ、メイ? 俺も? か?」
 「だって……兄さま、約束してくれたじゃないですか!! ずっと、一緒に居てくださるって!! 嘘つきは泥棒の始まりです!!」

 父は、メイの最後の【嘘つきは泥棒の始まり】ということわざのような言葉を知らなかったが、そんな難しい言い回しをする娘が時々不思議だった。
 それに、リゲルは何かを隠している。メイに『ずっと一緒に居る』という約束しただけでなく……それ以上の、何かを。

 司祭長が、その日の帰り、母にお腹の子どもに祝福の魔法を与えてくれた。そして、魔法士長からは護り袋を、メイとリゲル達にも渡してくれた。


――王子との茶席――

 リゲルは父と王宮に登城し、父が執務に入っている間に王宮騎士団の魔剣士との剣稽古をしていた。その魔剣士は、ゲイリテル公爵で騎士団長でもあった。
 時折、「我が家にもリゲル殿と同い年の息子がいるが、どうも剣の稽古には真剣になろうとしなくてな」と言う。その度にリゲルは、「俺には心を渡した、護る人が居るからな!!」と返した。
 公爵は、幼い子供の約束だろうとは流しつつも、その気持ちで真っ直ぐに剣の稽古に取り組む姿勢と伸び行く成長が嬉しく思えた。
 一方で、ハロルドは父の想いとは裏腹に目の前にいる小さな男爵令嬢から目が離せないでいる。
 小さく愛らしい彼女は、今日は、やや白味がかった黄緑色のドレスを着ていた。それに合わせて、抑え気味の黄色の髪飾り。茶色い髪を軽くまとめているが、零れている髪の毛が風で柔らかく揺れる。
 隣の友人という、シェノンの婚約者候補は始終メイを守るような? 睨みつけている(正確には見惚れて見つめている)ハロルドから、護ろうという瞳で見かえしている。

 「あぁ、そうだ!! フォンテーヌ嬢、この間贈った本はいかがでしたか?」
 「本、あぁ、あの魔法学の本ですわね? とても役立っておりますわ。ねぇ、メイ?」
 「はい、魔法学を教えてくださっているドワーノ先生も喜んでくださって。授業も楽しいです」
 「メイとの勉強は、わたくしもとても楽しいわ!! やはり、お父様に頼んでメイのお屋敷の近くに小さな屋敷を借りて。わたくしが毎日行けるようにしていただかないと!!」
 「シェノン殿下? どうされました?」
 「いやいや、つくづくメイ嬢はフォンテーヌ嬢に愛されているなと。これは、わたしもうかうかしていられない」

 そういうと、シェノンは屈託なく笑い彼女たち2人の間の仲の良さに喜んだ。少々、嫉妬も混じった。これだけ、自分自身が、他の何かに執着し始めようとは思ってもいないで過ごしてきた。
 ただ、このフォンテーヌ嬢に対しては、目が離せない。仲の良い友人であろうと、同じ令嬢だろうと。愛しく愛して欲しいのは、自分だけだと。幼い王子は思い始めた。
 茶席で盛り上がる中、ハロルドは一言も発さないでいたがポツリと何かを呟いた。それは、隣のシェノンにしか分からず聞こえた彼は笑いを堪えるのに必死だった。
 彼の想いも、自分の想いも、互いに面と座っている小さな令嬢に言いたい言葉だった。

 『君ほど可愛いひとはいない』と。

 王都での殿下との茶会には、フォンテーヌ嬢の同伴でメイは一緒に行き。その茶席には、必ず乳兄弟のハロルドが同席をしている。
 相変わらず言葉を発しない、が9割だが。メイは、彼は決して怖がらせようという行動はしてこないことで安心感を覚えた。時折、「花が、綺麗で」と言ったり。「飾り、良く似合う」と言ってくれたりするようになった。
 話さない、ではなく、何を話すか考えに考えすぎて話すタイミングを逃していたのだと。
 メイにとって、彼との時間も大切な時間になり始めた。兄・リゲルとの時間も大事だが。違う大事だと。
 そう感じ始めた時、メイの記憶の奥底で何かが零れ始めた。王子たちが居る茶席で、その記憶の蓋が外れ魔力の波動が乱れた。

 「フォンテーヌ様!! ダメです!! そっちはっ!!」
 「メイ?! どうしたら……シェノン殿下、魔法士長さまをっ!! お願いです!! このままだと……」
 「いやぁぁぁ!! こわいっ!! お兄さま、お兄さまぁ!!」
 「魔法士長を今すぐ!!」
 「殿下、彼女の兄君は……」
 「お兄さま!! お兄さま!!」

 控えていた従者が、急いで魔法鷹を飛ばした。
 メイの波動がさらに乱れ、茶席の周りに風の渦ができ始めた。魔力の制御が乱れ始めている証拠だった。
 小さな渦が、ひとつふたつと増えていく。
 魔法鷹で呼ばれた魔法士長は、同時に魔剣士の指導を受けているリゲルも供に魔法移動で来た。

 「メイ、俺はここだ!! 大丈夫だ!!」
 「……に、ぃ、さ、ま……」

 荒れる風の渦を怖がることもなく、彼女を抱きしめ手を握る。彼女の額、頬、手の甲に口づけする姿に、ハロルドは何か違和感を感じつつも何もできないでいる自分に怒りを覚えた。
 茶席で好意を抱いた小さな令嬢が、目の前で苦しんでいるのに……彼女の傍に居るのは、自分ではない。彼女は、真っ先に「お兄さま」と叫び助けを求めた。
 魔法士長がメイに魔法の波動の乱れを抑えていく。同時に、リゲルがメイに自身の魔力の波動も加え、彼女にいつもしている【口づけ】を額や頬にと繰り返し行いながら声を掛けて抱きしめる。
 シェノンもリゲルの行為に違和感を感じた。それだけでなく、リゲルがメイを見ている時の瞳は妹を見ているのではなく……1人の令嬢として見ている事に。

――これは……厄介な事になっているな――

 シェノンは声に出さないよう気を付け、心の内で呟いた。恐らく、魔法士長も今の状況を見て理解したに違いないとも。
 ハロルドは、メイの波動の乱れが落ち着き茶席がお開きになった後も、その場に立ち尽くし彼女が泣き叫んでいた場所を見つめていた。

 「父上に頼もう」

 屋敷に戻ったハロルドは、王宮騎士団長で魔剣士の使い手である父に頼んだ。
 魔剣士としての稽古をつけて欲しい、と。
 初めて、本気で剣を学びたいと思った。目の前で、苦しんだあの子の表情が忘れられない。そして、彼女を助けたのは自分ではない。これから、彼女の横に、傍に立つに相応しい騎士になりたい。
 父は、息子のどこか堅い決意の瞳を見て「明日から厳しくなる。これから、剣の稽古では息子としては扱わん」と言った。
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