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第一章 チュートリアル
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第一王子が起こした騒ぎは彼自身によって鎮められた。無論、彼はそんなことは知らずに未だに自分が王に相応しいと主張し続けている。
しかし、彼の演説に参加する者はもはや極々少数、初日のあの賑わいがまるで嘘のように参加者が少ない。
彼が初日にやらかして以来、彼を支持するのは情勢が読めない王子と同等のアホか、もう引くに引けないヤツらばかりである。
そんなヤツらが持つ権力などたかが知れている。宰相のクラテーも平川の脅威となりえないと見て、授業を再開する準備をしていた。
そんな時、この国の『五巨頭』と呼ばれる権力者の一角が第一王子と密談していた。
「殿下こそがこのフリンソの王となられるお方。それを素性も知らないよそ者に奪われるとは、このダルキュシュトは誠に遺憾に思えて仕方ありません。」
ここは王宮より少し離れたところにある『普通のレストラン』……ということになっている。
その実態は『五巨頭』の一人『ダルキュシュト・バリケバルア』が密談に使う為に偽装された場所である。
普通に客の出入りもあるし、その客の殆どは何の事情も知らない一般人。故にこの場所も王に知られることはなかった。或いは知っているが違法の証拠が出てこなかったから踏み込めずにいたのだろう。
「全くそのとおりだ、何なのだあのたわけは!この余が帰ってきたというのに、この第一王子たる余が帰ってきたというのに、この国の正統な継承者たる余が帰ってきたというのに挨拶にも来ないとは!!」
(たわけはお前だ、平川様はわざわざお前のところにきたというのに、お前が「伝令役も介さない謁見などしない」と言って断ったのだろ。それとも平川様と気づいていないのか、このアホは?)
『ダルキュシュト』は数少ない最初から平川派の一人である。今の王宮は殆ど平川派が占めているが、それはむしろ第一王子の努力の賜物であり、最初から平川を王にしようとする者はかなり少なかった。
彼がその数少ない一人である。
その彼がどうして第一王子に会い、心にもないことを言っているのかというと、第一王子を殺す為に来たのである。
勿論、彼自身が手を下す訳ではない。今日、彼を殺す訳でもない。第一王子を殺すのは決定事項だが、殺すにも価値を最大限に引き出して殺さなければならない。
今の平川派は、平川に心服して従っている訳じゃない。第一王子と平川で選ばせた結果が、平川の方が幾分かマシだから消去法で付いただけだ。
もし第一王子が(万が一にも億が一にもありえないが)急に改心してまともになったとする。特段優秀じゃなくとも、今のような『脳内お花畑状態』が解消されただけでおそらく彼の支持者は増える。
そんな可能性を揺り籠の中で抹殺する為に『ダルキュシュト』は動いた。
彼は平川が召喚されたあの儀式にも参加した。国の要人をほぼ全員集めた儀式なので『五巨頭』も一人残らず出席した。
何の前触れもなく老王がいきなり王宮に彼ら集めたものだから、最初は何事かと思った。もしや崩御かと騒ぎ始めた者もいた。
老王の身体の状態を考えればその発想も無理はない。それ以外に国の要職を全員集める必要のあることも思いつかなかった。
そこでまたしてもいきなり召喚の儀式について説明しても、状況を飲み込める者は少なかった。第一王子を支持したい訳じゃないが、異界より素性も知らない者を王にするのは抵抗があった。
それでも、あの第一王子と素性は知らないが優秀な者を選ばせたら、多くの者は後者を選ぶのだろう。フリンソは王家が何回も変わったことがある。だからよそ者を王にすることもありえないことではない。
とりあえず様子を見てみると決めた者たちは平川が召喚された後に大きく割れた。
平川に何らかの可能性を感じた平川派、平川をヤバイヤツと思った平川反対派。
最初は後者の方が人数的に優勢だったが、それも第一王子自らによって崩壊させたれた。
しかし、支持者が少なかろうと彼はフリンソの第一王子である。王族を奴隷のように殺すことはできない。
フリンソでは奴隷でさえ殺すのには理由がひつになる、とは言っても「機嫌を損ねた」や「目障りだった」のような理由でも良い。
第一王子を殺すのにもそのような理由がいる。王族を殺せるような理由がいる。
しかし、彼の演説に参加する者はもはや極々少数、初日のあの賑わいがまるで嘘のように参加者が少ない。
彼が初日にやらかして以来、彼を支持するのは情勢が読めない王子と同等のアホか、もう引くに引けないヤツらばかりである。
そんなヤツらが持つ権力などたかが知れている。宰相のクラテーも平川の脅威となりえないと見て、授業を再開する準備をしていた。
そんな時、この国の『五巨頭』と呼ばれる権力者の一角が第一王子と密談していた。
「殿下こそがこのフリンソの王となられるお方。それを素性も知らないよそ者に奪われるとは、このダルキュシュトは誠に遺憾に思えて仕方ありません。」
ここは王宮より少し離れたところにある『普通のレストラン』……ということになっている。
その実態は『五巨頭』の一人『ダルキュシュト・バリケバルア』が密談に使う為に偽装された場所である。
普通に客の出入りもあるし、その客の殆どは何の事情も知らない一般人。故にこの場所も王に知られることはなかった。或いは知っているが違法の証拠が出てこなかったから踏み込めずにいたのだろう。
「全くそのとおりだ、何なのだあのたわけは!この余が帰ってきたというのに、この第一王子たる余が帰ってきたというのに、この国の正統な継承者たる余が帰ってきたというのに挨拶にも来ないとは!!」
(たわけはお前だ、平川様はわざわざお前のところにきたというのに、お前が「伝令役も介さない謁見などしない」と言って断ったのだろ。それとも平川様と気づいていないのか、このアホは?)
『ダルキュシュト』は数少ない最初から平川派の一人である。今の王宮は殆ど平川派が占めているが、それはむしろ第一王子の努力の賜物であり、最初から平川を王にしようとする者はかなり少なかった。
彼がその数少ない一人である。
その彼がどうして第一王子に会い、心にもないことを言っているのかというと、第一王子を殺す為に来たのである。
勿論、彼自身が手を下す訳ではない。今日、彼を殺す訳でもない。第一王子を殺すのは決定事項だが、殺すにも価値を最大限に引き出して殺さなければならない。
今の平川派は、平川に心服して従っている訳じゃない。第一王子と平川で選ばせた結果が、平川の方が幾分かマシだから消去法で付いただけだ。
もし第一王子が(万が一にも億が一にもありえないが)急に改心してまともになったとする。特段優秀じゃなくとも、今のような『脳内お花畑状態』が解消されただけでおそらく彼の支持者は増える。
そんな可能性を揺り籠の中で抹殺する為に『ダルキュシュト』は動いた。
彼は平川が召喚されたあの儀式にも参加した。国の要人をほぼ全員集めた儀式なので『五巨頭』も一人残らず出席した。
何の前触れもなく老王がいきなり王宮に彼ら集めたものだから、最初は何事かと思った。もしや崩御かと騒ぎ始めた者もいた。
老王の身体の状態を考えればその発想も無理はない。それ以外に国の要職を全員集める必要のあることも思いつかなかった。
そこでまたしてもいきなり召喚の儀式について説明しても、状況を飲み込める者は少なかった。第一王子を支持したい訳じゃないが、異界より素性も知らない者を王にするのは抵抗があった。
それでも、あの第一王子と素性は知らないが優秀な者を選ばせたら、多くの者は後者を選ぶのだろう。フリンソは王家が何回も変わったことがある。だからよそ者を王にすることもありえないことではない。
とりあえず様子を見てみると決めた者たちは平川が召喚された後に大きく割れた。
平川に何らかの可能性を感じた平川派、平川をヤバイヤツと思った平川反対派。
最初は後者の方が人数的に優勢だったが、それも第一王子自らによって崩壊させたれた。
しかし、支持者が少なかろうと彼はフリンソの第一王子である。王族を奴隷のように殺すことはできない。
フリンソでは奴隷でさえ殺すのには理由がひつになる、とは言っても「機嫌を損ねた」や「目障りだった」のような理由でも良い。
第一王子を殺すのにもそのような理由がいる。王族を殺せるような理由がいる。
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