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第一章

スイッタ 第4話

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 流石は『至高神特製』と言ったほうがいいのか、ダンジョンコアがどんどん周りを侵食して領域を広めた。
 地面に出ている部分だけを見ると、そんなに大きくないと感じられてしまうかもしれないが、中に入ってみればそのダンジョンの広さがわかるだろう。

 階層は全部合わせて10層ある。一層ごとに狭くなっていき、横から見ればコマのような形だろう。地上部から降りて直ぐの1層目が一番広く、ダンジョンのラスボスがいる10層目が一番狭い。
 本来なら、ダンジョンマスターである僕がラスボスになるのだが、現状を考えれば致し方なし。

 戦闘力どうこうというより、そもそもの話に僕は自分のダンジョンにいない。自分の作成したダンジョンに入れないダンジョンマスターは一体どれ程いるのだろう…………。

 …………てかいる?

 

 自分を守る為に戦力増強は必須。でも別に侵入者を皆殺しにする必要はない。というか、余程のイカれでも限りはそんなことをしない。
 メリットがあるように思えないし、逆にデメリットならいくつかパッと思いついた。

 侵入者を殺し過ぎると、色々面倒ごとが起こる。冒険者が全く来なくなり、ダンジョンが廃れてしまいかねない。
 それはまた良いほうだ。最悪の場合は冒険者ギルドがここを危険視して本気を出してしまった時だ。上級冒険者を派遣して、ここを潰しにかかる可能性すらある。

 もし、誰もこのダンジョンに来なくなると、僕はこの湖でずっと戦々恐々して死を待つ羽目になる。上級冒険者が来ると、あっという間にダンジョンは踏破されてしまうだろう。
 その場合、ダンジョンコアが破壊されてダンジョンマスターである僕は死ぬ。

 どのみち、僕は弱過ぎるが故に死ぬのだ。

 それは何が何でも避けなければならない。

 だから、多少…………かなり卑怯な手を使ってもバチは当たらない筈だ。
 そもそも、バチを下す側であるギャグ神が僕の味方なのだ。当たる訳がない。

 …………と信じたい。



 ダンジョンができて一週間。早速1組の冒険者が僕のダンジョンに来た。冒険者の等級についてはセットに付いていた説明書で知った。
 
 青色が三人、緑色が二人。等級の知識はあるものの、正直言ってそれがどれくらいの戦闘力なのかも分からない。

 片手でゴブリンをひねり潰し、オークを一撃で屠る程の力がある場合、今回はかなり危ないだろう。
 今の僕は初めてのお使いに行っているような心境になる。勿論、失敗すれば即死するお使いになど行ったことはないが。

 僕は死にたくないので、モンスター配置はそれなりに考えた。

 初っ端から手持ちの最強カードを出す程、僕はギャンブルに精通している訳じゃない。
 それを間違いとは言わないし、言えない。きっと、それでうまくやれる方法もあるだろう。
 だが、僕はそれをやってのける自信も、やろうとする意欲もない。ただただ、確実に僕ができる最良に思えることが実践するのみである。



 ダンジョンコアが周りを侵食する時に、貨幣のような物を発見した。ダンジョン内の静物は特殊な物を除けばほとんどダンジョンマスターが配置を決められる。
 その権限を使って、一定間隔に銀貨や銅貨を並べてみた。

 そしたら、冒険者たちは物の見事に引っかかった。銅貨一枚でその日の食にはありつける。銀貨一枚あれば、一月の内は飢え死にする心配は無いだろう。

 それが口コミで大量の冒険者たちがやって来た。しかし、上級冒険者どころが、中堅冒険者すら顔を見せない。
 それこそが僕の狙いだ。初級冒険者と中堅冒険者の収入には絶対的な壁がある。
 中堅冒険者にとって、銅貨は大した価値を持たない。銀貨にはある程度の魅力を感じるだろうが、不確かな情報を信じる程ではないようだ。

 それでも、偶にではあるが、中堅冒険者がちょくちょく入って来ることもある。
 それでも、それをあまり気にしたりはしない。ダンジョン経営は大成功だ。一度軌道に乗ってしまえばこっちのもの。

 例えば、100人このダンジョンにやって来る、そのうち20人が死んだって誰も気にしない。ここはこういう世界だ。

 このダンジョンで死んだ冒険者の経験値の一割ほど僕のものになる。
 ミジンコだからか、レベルがめちゃくちゃ上がりやすい。僕はホクホク顔?で今日の冒険者たちを見る。
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