17 / 45
第5章 生命線を保とう
幕間 その二
しおりを挟む
ワタシの名前はミズール・レグレン。
ヤドゥーユ領の領主ナポリタン様直属の伝令官です。
ナポリタン様はヤドゥーユ領の他に、あのルシェーラ領も国王陛下から賜っておられます。
この二領は王国の経済の命脈であり、国内で一番と二番の豊かさを誇っています。
ナポリタン様はきっと、国王陛下から厚く信頼されておられましょう。
ナポリタン様はあまりワタシどもとは話しません。ほとんどの場合はワタシのほうから事項を伝え、返答をもらいます。
けれども、ナポリタン様の優しさは伝わって来ます。
ナポリタン様から御命令を賜る度に、ワタシはそれを『はい』か『いいえ』かを聞き返しました。
主人をそのよう口調で問い質すなど言語道断、あり得ません。それなのに、ワタシは取り憑かれたのように、それを毎回必ずしていました。
不思議なことに、当時のワタシはそれを疑問とは思わなかった。
今思い返してみると、ワタシは恐ろしくて堪りません。
ですから、それを幾千回と赦し続けたナポリタン様はきっと、慈愛を体現した存在でございましょう。
この国は些か歪です。
これを口にしてしまうと、不敬罪や国家反逆罪で罰せられて当然ですが、それでもワタシはこの話を続けましょう。
まず、貴族位に値する“ぷれいや”の方々があまりに少な過ぎるのです。
隣国である『連合』や『帝国』の“ぷれいや”は王国の十倍と五倍くらい居ます。
それなのに、一般国民の数は両国の国民を足した数の数十倍にもなります。
戦争時、国民の半分以上は徴兵されます。
別に珍しい話ではありません。戦争が起これば、国民が兵となって国を守るのは当然のことです。
王国は国民がとにかく多いですから肉盾くらいにはなりましょう。実際、大多数の国民はそれをする覚悟があります。
しかし、王国はそれをしようとは思わなかった。我々を『艦隊』のクルーとすべく、訓練学校まで建てました。
ワタシたちは『戦艦』を操縦し、決して敵と直で刃を交えることはありませんでした。
ナポリタン様とその仲間たちは、我々を無駄死にすることは一度たりともありませんでした。
ワタシども、一般国民が死ぬのは極々稀。死をその身で受け止められるのはいつも“ぷれいや”の皆様でした。
彼らは死を恐れません。原因の一つとして、蘇ることができるからでしょう。
されど、まだこの世に戻れると分かっていたとしても、躊躇なく命を投げ出せる者は果たしてどれくらいいらっしゃいましょう。
ナポリタン様は、王国随一の権力と財力を所持しておられる。戦闘能力も、王国の上位十位には入れる。
恐らくその気になれば、政変くらいはお手の物かもしれません。
王国を倒せる程の力は無くとも、独立するのは問題ないでしょう。
それなのに、ナポリタン様はそんな素振りを全く見せなかった。
それどころか、彼は自分の私財を国に為に投げうち、帳簿を纏めたところ王国の国家予算の七十年分はありました。
そんなナポリタン様ですが、この頃数日はヤドゥーユ領に姿を見せていません。
ルシェーラ領にご滞在かと思って伺ったところ、そちらにもいらっしゃらない。
ナポリタン様は領民思いで、三日と開けずにやって来ては領の視察に来られた。
それを一週間以上開けてしまうのは、何か良くないことが起きてしまったのかもしれない。
そんな不敬なことに思い馳せていた時。
ナポリタン様はその愚かな考えを打ち消す為に来られたようにおいでなさった。
いや、ここはナポリタン様の所領。おいでなさるというのはおかしい。帰られたに改めましょう。
今回、お戻りになったナポリタン様は少々変わっていた。
前から普通の領主と違っていたところはたくさんございましたが、今回は少し性質が違うような気がします。
そんな些細なことよりも、ナポリタン様は何故かいつもより多くワタシに言葉を賜りました。
なんでも、国の為に確認したいことがあって、その為にヤドゥーユ領が大変革するかもしれない。
それを実行する時に迷惑をかけるかもしれないと、なんワタシごときに頭を下げられた。
嗚呼、慈愛深きナポリタン様。
あなたはきっと、何があっても国の為に動きましょう。逃げられても逃げずに最後まで戦い抜きましょう。
ワタシは煉獄でも、深淵でも、何処までもお供いたしましょう。
ヤドゥーユ領の領主ナポリタン様直属の伝令官です。
ナポリタン様はヤドゥーユ領の他に、あのルシェーラ領も国王陛下から賜っておられます。
この二領は王国の経済の命脈であり、国内で一番と二番の豊かさを誇っています。
ナポリタン様はきっと、国王陛下から厚く信頼されておられましょう。
ナポリタン様はあまりワタシどもとは話しません。ほとんどの場合はワタシのほうから事項を伝え、返答をもらいます。
けれども、ナポリタン様の優しさは伝わって来ます。
ナポリタン様から御命令を賜る度に、ワタシはそれを『はい』か『いいえ』かを聞き返しました。
主人をそのよう口調で問い質すなど言語道断、あり得ません。それなのに、ワタシは取り憑かれたのように、それを毎回必ずしていました。
不思議なことに、当時のワタシはそれを疑問とは思わなかった。
今思い返してみると、ワタシは恐ろしくて堪りません。
ですから、それを幾千回と赦し続けたナポリタン様はきっと、慈愛を体現した存在でございましょう。
この国は些か歪です。
これを口にしてしまうと、不敬罪や国家反逆罪で罰せられて当然ですが、それでもワタシはこの話を続けましょう。
まず、貴族位に値する“ぷれいや”の方々があまりに少な過ぎるのです。
隣国である『連合』や『帝国』の“ぷれいや”は王国の十倍と五倍くらい居ます。
それなのに、一般国民の数は両国の国民を足した数の数十倍にもなります。
戦争時、国民の半分以上は徴兵されます。
別に珍しい話ではありません。戦争が起これば、国民が兵となって国を守るのは当然のことです。
王国は国民がとにかく多いですから肉盾くらいにはなりましょう。実際、大多数の国民はそれをする覚悟があります。
しかし、王国はそれをしようとは思わなかった。我々を『艦隊』のクルーとすべく、訓練学校まで建てました。
ワタシたちは『戦艦』を操縦し、決して敵と直で刃を交えることはありませんでした。
ナポリタン様とその仲間たちは、我々を無駄死にすることは一度たりともありませんでした。
ワタシども、一般国民が死ぬのは極々稀。死をその身で受け止められるのはいつも“ぷれいや”の皆様でした。
彼らは死を恐れません。原因の一つとして、蘇ることができるからでしょう。
されど、まだこの世に戻れると分かっていたとしても、躊躇なく命を投げ出せる者は果たしてどれくらいいらっしゃいましょう。
ナポリタン様は、王国随一の権力と財力を所持しておられる。戦闘能力も、王国の上位十位には入れる。
恐らくその気になれば、政変くらいはお手の物かもしれません。
王国を倒せる程の力は無くとも、独立するのは問題ないでしょう。
それなのに、ナポリタン様はそんな素振りを全く見せなかった。
それどころか、彼は自分の私財を国に為に投げうち、帳簿を纏めたところ王国の国家予算の七十年分はありました。
そんなナポリタン様ですが、この頃数日はヤドゥーユ領に姿を見せていません。
ルシェーラ領にご滞在かと思って伺ったところ、そちらにもいらっしゃらない。
ナポリタン様は領民思いで、三日と開けずにやって来ては領の視察に来られた。
それを一週間以上開けてしまうのは、何か良くないことが起きてしまったのかもしれない。
そんな不敬なことに思い馳せていた時。
ナポリタン様はその愚かな考えを打ち消す為に来られたようにおいでなさった。
いや、ここはナポリタン様の所領。おいでなさるというのはおかしい。帰られたに改めましょう。
今回、お戻りになったナポリタン様は少々変わっていた。
前から普通の領主と違っていたところはたくさんございましたが、今回は少し性質が違うような気がします。
そんな些細なことよりも、ナポリタン様は何故かいつもより多くワタシに言葉を賜りました。
なんでも、国の為に確認したいことがあって、その為にヤドゥーユ領が大変革するかもしれない。
それを実行する時に迷惑をかけるかもしれないと、なんワタシごときに頭を下げられた。
嗚呼、慈愛深きナポリタン様。
あなたはきっと、何があっても国の為に動きましょう。逃げられても逃げずに最後まで戦い抜きましょう。
ワタシは煉獄でも、深淵でも、何処までもお供いたしましょう。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる