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第三十七話 寝耳に水
しおりを挟む階下が騒がしくなった音で美留來が先に目を覚ました。
美留來:ん・・?何の音?
びす子:あれ、横になった後に寝ちゃったのか。下の階がなんだか騒々しいな。
美留來:うん。
美留來が目を擦りながらベッドの淵に座り、びす子は体を起こすと両手を天井に掲げ伸びをした。
びす子:うー。メイはまだ寝てるのかな?
美留來:見て来る。
美留來は中ドアを抜けてメイの様子を見に行った。
びす子:(ちょっとした旅行だと思ってたけど甘かったな・・爺ちゃんの偉大さが身に染みるわ。)
祖母の蒔絵が今回は行く事には反対しなかったが、今更ながらびす子はパヨペウン国に来た事を後悔し始めていた。
そこへまだ目が覚めてないメイを連れて美留來がやって来た。
メイ:もうお夕食の時間なの・・?
びす子:いや、下の階が何やら騒がしいから見に行くところだよ。
美留來:メイちゃん一緒にいこ?
メイ:分かった・・。
メイを挟んで手を繋ぎ階段を降りて行くと玄関ホールにマツダとユイとカイが何やら話している最中だった。
メイ:兄様!
メイは兄の姿が見えるとパッと手を離してマツダに走り寄った。
マツダ:メイ、降りて来たのか。びす子様、美留來様も・・。
するとカイがサッと美留來の前に来ると両膝を床につけた。
カイ:美留來様、大変申し訳ありません。お父様を見失いまだ見つかっておりません。
美留來:お父さんどこに行っちゃったんだろ・・。
カイ:梅男様の携帯電話のGPSを辿ってみたのですが、商業地区内にあるお店のゴミ箱に捨てられておりました。
カイがポケットから梅男が持っていたであろう携帯電話を美留來に差し出した。
渡された携帯電話の電源を入れると画面には母がまだ生きていた頃の家族写真が映っていた。
美留來:お父さん・・・・。
美留來は携帯電話を握りしめ涙をこぼしているのを見て、びす子はどうにかならないのかと思わずカイに詰め寄った。
びす子:もっと捜索範囲を広げてくれないか?何か手がかりはないのか!
カイ:私が至らないせいで本当に、本当に、申し訳ありません!!
カイは大きく頭を下げ何度も謝っていた。
マツダ:カイが目を離したのは許されるべき事ではないですが、あれからずっと寝る間も惜しんで捜索していたと思いますので少し休ませてあげたいのですが。
カイの憔悴しきった顔を見ると各国からの来賓客や観光客で溢れかえったレース場や商業施設での捜索は困難だったと想像は出来る。
そんな彼に対して当たりの強い言葉を発してしまった事に申し訳ない気持ちになった。
びす子:ごめん、言い過ぎた。
美留來:私の方こそ。お父さんが皆さんに迷惑かけて本当にごめんなさい。
美留來は涙ぐみながらぺこりと頭を下げた。
マツダ:謝らないで下さい。捜索は引き続き行いますので。
カイ:それなんですが・・。
マツダ:カイ、どうした?
カイが立ち上がると申し訳なさそうに説明し出した。
カイ:実は捜索は打ち切りになったんです・・。
マツダ:なんだと?!
カイ:先日のクーデターでチャット様のお父様のマツダ副隊長が数時間前に逮捕されて・・。
それを聞いたびす子と美留來は顔を見合わせた。
メイ:父様が!!お兄様、ほんとなの?
マツダ:そ、そんなバカな!何かの間違いだ!!今すぐ司令部に伝えなければ。
マツダが司令部とコンタクトを取ろうとした時、カイが制止した。
カイ:待って下さい!
マツダ:何故止める!
カイ:私がここに来たのは梅男様の事だけを知らせに来た訳ではないのです。
マツダ:どういう事だ!
カイ:こちらに向かってる際に副隊長の奥様も逮捕されたと通達が来たんです。もうすぐ報道されると思います。
マツダ:濡れ衣だ!
カイ:そんな事は分かっております。だから、先回りをして知らせに来たのです。
メイ:お兄様・・私も捕まるの?
メイは悲しそうな声で兄のコートの裾を引っ張った。
マツダ:捕まらないよ。大丈夫。
マツダはその場しのぎだと分かっていたがメイに心配かけまいと軽く抱きしめ背中をさすった。
カイ:それと・・大変言い難いのですが・・。
ユイ:カイ、お前いい加減にしろ。まだ何かあるのか。
ずっと隣で見守っていたユイがさすがに黙ってられないとばかりにカイの肩を押した。
カイ:俺だってこんな事を報告したくない・・。
びす子:とりあえず、全部報告して。
びす子はこの国に来てから色々あり過ぎたせいか何が起きても驚かない自信があった、その時までは。
カイは本当に言って良いのだろうかと戸惑っているようだったが、びす子の前に来ると覚悟を決めたのか両膝をつきギュッと目を瞑り報告し出した。
カイ:申し訳ありません、先に謝ってきます!軍はびす子様が女王になる為にマツダ親子を使ってクーデターを起こしてると疑いをかけられております・・。
びす子:はーいー?
カイの言葉に寝耳に水でさすがのびす子も驚きを隠せないでいた。
つづく
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