だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

文字の大きさ
26 / 211

13

しおりを挟む


    ダナー・ステイ領十枝の一族であるフランビア侯爵家は、調停官と呼ばれている。護衛と兼任し、家庭教師の一人でもあるルール・ラングから学びを受けたリリーは、授業中に何かを言った。

   「これって、『カウンセラー』みたいな感じ?」

   争い事の調停として特化したフランビア家だったが、譲歩や和解の授業中、ある項目で聞きなれない言葉にルールはまじまじとリリーを見た。

   「なんですって?」

   『カウンセラー』

   「??」

   靄がかかったように、そこだけがはっきりと聞き取れない。首を傾げながらもルールはその日の授業を終了した。

 *

 孤児院の運営を任されたリリーは、院長を始めとする職員の身体検査を行った。

   学力、生育歴、奉仕活動の有無、暴力行為の有無、性犯罪歴の有無。そして審査を通過した者には、新たな誓約書に署名させられた。

   暴行を行った者は、解雇及び厳罰を与える。

   それは入所する子供も同様で、暴力行為を行う者は病人として、病院施設に移動させるというものだった。

   この規則には職員も子供も困惑し、上手く行かないと思っていた新体制だったが、意外にも、今のところは問題なく進んでいるという。

   審査官が要因を問うと、それはフランビアの調停官の役割も大きいと、孤児院のもの達からの声でわかった。

   「本来の役割とは少し違うのですが、我々は主に皆さんの悩みを聞いて、それをまとめ、院長と管理者様に報告しています」

   「悩みを聞く…」

   「そうですね。人間関係から配給菓子の量に至るまで、それぞれ様々です」

   リリーは、フランビア領で学んだ学生を孤児院に数人配置させ、彼らは主に、職員と子供たちの愚痴を聞かされているという。

   厳しい顔の審査官を前に、始めての審査に緊張が隠せないリリーは、息をつめて結果を待つ。数枚の用紙を確認した審査官は、厳かに口を開いた。

   「まだ数ヶ月ですので、今後どうなるかは分かりませんが、現在の運営に問題はないと、大公閣下に報告致します」

   「良かった、皆様のおかげね! ……でも一番は、私が優秀だからと、お父様にお伝えしてね!」

   だがこの評価に、一緒に審査官の評価を聞いていた孤児院の院長は、子供たちと遊びに行ったリリーの姿を見送って、ふと表情を曇らせて打ち明けた。

   「管理者様の事なのですが…」

   週に二度の訪問で、リリーが必ず子供たちに教える言葉がある。

   ーー「強くならないと駄目なのよ。殺されないように、強くなるの。殺されてからでは悲しいでしょ?」

   この言葉に、運営を任されている院長は、リリーからの信用を得ていないと落ち込んでいた。



 **



   左側の枷は、同じく右側にもあると知っている。

   彼らは、王による直接の言葉に逆らう事が出来ない。

   それを利用して、右側を操る事の手駒にしようと、リリーに手紙を送り続けた。


 **

   
   入学してから絶え間なく、女子生徒から様々な集いに誘われているグランディア。表向き穏やかに断りを入れているが、溜まった苛立ちは剣術により同級生に容赦なく吐き出される。

   自律と融和、創造性を掲げる学園の方針により、どの立場のものも、基本的に命に関わる争い事を禁じられているが、優劣を測る授業は、才能の開花と称して限度がない。

   グランディアはこれを利用し、剣術の授業で容赦なく対戦相手をいたぶり、打ちのめしてきた。

   その二面性を見守ってきた護衛のサイだったが、珍しく音を立てて走り寄ってきたグランディアに、何事かと緊張した。


 *

   
   「サイ、聞いてよ!」

   今までのグランディアには見たことのない、純粋な少年の笑顔。

   「あの娘、僕の手紙を捨ててるんだって!」

   「…それは、何かの間違いでは、」

   王子からの手紙を捨てるという衝撃の内容に、困惑したサイは思い違いだと否定する。しかしグランディアは、証拠だと言って焼かれた紙切れを取り出した。

   焼け焦げた高級な用紙の一片に、確かにグランディアの筆跡が残っている。それを見て蒼白になったサイは、ハッと気がついた。

   「これは、また左側アトワの諜報を、右側ダナーに使ったのですか?」

   「変わった娘だとは思っていたけど、ここまでとはね」

   言葉とは裏腹に、グランディアはとても嬉々としている。

   以前から、右側ダナーに放ったスパイにより、グランディアの手紙はリリーに渡っているとは知っていた。

   返信を返さないのは本人の意思ではなく、婚約に乗り気ではない、大公の命令だとも思っていたのだが、詳細を調べさせると、リリーはグランディアの手紙を自ら暖炉で燃しているという。

   これに激怒したグランディアだったが、なぜかそれを護衛のサイに、とても嬉しそうに語っていた。

   「面白いね。あの娘、本当に面白い」

   そう言ったグランディアは、同じ様に火にくべようと溜まった手紙を暖炉に運んでいたが、何を思ったのか立ち止まると、戻って再び箱にしまっている。

   「ここまで苦労したんだもの、なんとしても利用しなくてはね。その資料として、これはまだ、とっておくよ」

   「…そうですね」

   グランディアは言ったが、風に舞って偶然サイが手にしたリリーの手紙の一枚には、ステイ領にしか咲かない花の押し花が挟んであった。

   「何か見た?」

   「いえ。何も」

   素早く回収すると貴重品箱に向かう。その途中、あっと、何かを閃いたのか、笑顔でサイを振り返った。


   「そうだよ、ダナーに行けないのなら、こちらに来てもらえばいいよね」


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...