だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

文字の大きさ
61 / 211

32

しおりを挟む


   リリーの身体を気遣って、秋期休暇が明けるまでダナーの領地に引き上げた。

   王都からの道のり、それぞれが途中で各自の領地に戻り、残すはダナー家と四家がリリーの馬車を取り囲む。

   まだ雪は降らないが、息は白くなり肌を刺す空気へ気候が変わる。肺に染み渡る心地よい清浄な冷気に、メルヴィウスは大きく深呼吸した。

   石の門を潜り抜け、ダナーの城下町にたどり着く。領民が黒衣の騎士団を恭しく見つめる中、サテラの広場に差し掛かったところで街の警備兵が一行に駆け寄った。

   「なんだ?」

   リリーの乗る馬車を先に城に進ませ、メルヴィウスは馬首を返す。後方で警備兵の報告を聞いていたセセンティアは、怪訝な顔で馬上のメルヴィウスに告げた。

   「先程、サテラの噴水広場前で、怪しい女を一人捕縛したそうです」

   「サテラ……、まさか、」

   「はい。その女、フェアリーエム・クロスと名乗ったそうです」

   「そうか、リリエルの怪我に関与した者だ。よくやった」

   リリーを突き落とした犯人であるエルストラは王太子によって捕縛され、貴族を捕らえる塔ではなく、庶民と同じ獄舎に入った。

   だがもう一人、リリーに詰め寄り事件に関与したフェアリーエル・クロスは、学院で取り調べを受けて直ぐに、何処かに消えて姿を見せなくなったという。

   境会が匿っていると捜査を主張したが、それは無いと完全否定し、そこで国王がそれ以上の追及を阻んだ。

   「まさか追われる者が追う者の足下に潜むとは。ある意味盲点か? 学院の者たちはクロスの関与は無いと判断したが、それを覆してやろう」

   獲物をいたぶる猫の目のように冷酷に碧く光る。だがそれに、警備兵は逡巡しながらも報告に付け加えた。

   「その者なのですが、実は様子がどうも…」

   「?」

   「妙な格好で、国外から来たと主張するのですが、……その、」

   「なんだ?」

   「おそらく、頭がおかしいのです。何度も何度も、次期様に会わせろと」

   「兄上に?」

   
 **


   捕らえられた女は、ダナー領地の外れにある犯罪人の刑務場に街から移された。

   かつてケーブ・ロッドという女の養父をリリーが収監した場所だが、その男はもう居ない。

   『…………』

   その場所は、養女である女は知っているはずなのに、養父の事を問いかけず、無事も生死も全く関心が無いようだった。

   「……なんだあれ」

   小さな格子窓から確認したメルヴィウスは、報告通りの奇妙さに首を傾げる。

   袖は長く、身体に見合わない大きく袋の様な上着は、幼女の寝具の様な薄いピンク色。更に下衣なのか、袋の裾から短い布、腿がむき出しに晒されていた。

   「娼婦か?」

   「いや、娼婦にも居ませんよ、あんなの」  

   これから拷問を受けるのに、女は壁を背に地べたに座り込み、手枷のまま、長く茶色の髪を何度も指ですいていた。更に毛先を眺めては、それを指で千切っている。

   「見た目にはとても美しいので、残念です」

   牢番の言葉に、メルヴィウスとセセンティアは何とも言えない顔をした。

   「お前には、あれが美しく見えるんだな」

   言われた兵士は思わず漏れ出た感想に慌てて口を閉ざし、メルヴィウスは不快に眉をひそめる。

   女は、今も姿を眩ます術を使っている。

   メルヴィウスを支持する騎士団は、災いを避けるために、身体に入れ墨を刻んでいた。その効果なのか、メルヴィウスは女の姿に苛立ちを覚える。

   「意識して見ると、顔がぶれていて、気味が悪いな」

   セセンティアにも、メルヴィウスと同じく魔除けの護りが身体に刻まれており、改めて格子内を慎重に観察した。
   
   「確かに、はっきりと顔が分かりません。それに、俺はフェアリーエル・クロスを何度か間近で確認しましたが、は、それとも別人だと思います」

   「別人?」

   「報告でも、フェアリーエルではなく、フェアリー・クロスと名乗ったとあります。これは言い間違いではないのかも」

   「ははっ、フェアリーエルに、フェアリーエムか。増えんのかよ。……ふざけてやがるな」

   女たちは、メルヴィウスの大切な、妹の面影を利用する。

   苛立ちに足で蹴り開かれた地位さ格子付きの扉。だが怒れるメルヴィウスを前に、奇妙な女はパッと笑顔を見せた。

   「もしかして、あなたメルヴィウスじゃないの?」

   「…………」

   「よかったー…。突然こんな所に監禁されて、すごく困ってたの」

   この場の空気も分からずに、何かの自信を持って笑う女。だがその後すぐに、格子窓から女の絶叫が響き渡った。

   
  
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...