だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

文字の大きさ
93 / 211

50

しおりを挟む

   
   乗りかけの馬車から軽やかに降りてきたリリー。

   「こんなに早く対応して頂いて嬉しいわ」

   そうは言ったが、やはりアエルを見つめていた今までの女達とは違う。頬は赤く染まらず、照れて目線を外す事も無い。

   「ご用とは、何ですか?」

   「王警務隊デルフェルメ卿、貴方、奴隷の方を見た事があるかしら?」

   「??」

   わざわざ仕事中に声をかけて注目し、名前まで聞き出したダナー大公令嬢。だがその関心は、アエルではなく全く別のところにあった。

   (俺でもなく、王警務隊でもなく、奴隷の方って、なんだよ…)

   苦笑いにリリーを見下ろすと、その背後から殺気が放たれる。

   「それはどうでしょうねー…。もう少し、親しくなれば、俺の事は分かるかもしれないですが」

   「?」

   「他にはないんですか?」

   「貴方の事ではなくて、奴隷の方についてお訊ねしているのよ。では森の中で、彼らが競りにかけられてるって、それはご存知?」

   「森の中の、競り? …あー、あれ…」

   「その事について、貴方はどうお感じになるの?」

   「お感じって、俺は今、貴女の事でいっぱいいっぱいなんですけど」

   「??」

   アエルは襲い来る殺気に負けず、いつも女達が喜ぶ微笑みをにっこり浮かべた。だがそれを受け取ったリリーは、汚物を見た顔をする。

   「やっぱりお互いの内容は、より親しくなってからでないと。ね、」

   「…………」

   蒼い瞳は半眼になり、そこで侍女姿のナーラ・フレビアが前に出た。

   「姫様、そろそろ」

   呼び掛けられたリリーも、アエルに未練なく背を向ける。

   「え? マジですか? これで終わり!?」

   主張に一歩踏み出すと、アエルとリリーの間には、屈強な三枚の壁が立ち塞がる。

   目線だけでアエルを制した者達は、言葉を発する事もなく、速やかに黒の馬車は去って行った。
   
   
 **


   「父上の元に、ナイトグランド総帥から手紙が届いたらしい」

   その内容は他国との燃料資源の取り引きに関する契約で、ダナー領にとっては、バックス国やダエリア連合国と個人で取り引きするよりも、ナイトグランドを通した方が得になるという条件だった。

   「素直に受け取れない内容ですね」

   「それがそうでもない。ナイトグランドの総帥は、跡継ぎを決めかねている」

   犯罪者として国を追われた長男グラエンスラー、そしてその長男の残した組織に手を焼く次男、アーナスター。

   「グラエンスラーが右側こちらを頼っている事に関して、それがこの燃料取り引きに有益に働いていると、父上はお考えだ」

   「成る程。ではこれも、姫様のお手柄ですね」

   「そうなるか?」

   満足げに頷いたグレインフェルドに、執事のアローも深く頷き返す。そこに、新たな手紙がやって来た。

   ナイフで切り開き中身を確かめる。グレインフェルドは話題に狙って届けられたかの様な内容に、軽くため息した。

   「長男からの手紙だが、次男の動向と、境会アンセーマの聖女に関するものだった」

   「ほう。成る程。ナイトグランド総帥が、長男を手放したくないわけですな。仕事が早い」

   「ふむ……」

   同意せずに思案したグレインフェルド。それにアローは首を傾げる。

   「何か問題でも?」

   「リリーの探す友人候補は、どうやら国外に出荷されたらしい」

   「……成る程」

   フェアリーン・クロスを探し回っていた妹の、落ち込む顔が目に浮かぶ。

   それにグレインフェルドは、再び軽くため息を吐いた。


 **


   いつもの慣れた帰り道。先を行く馬車が速度を落とした事に、御者のアデンは手綱を軽く引いた。

   (何だ…?)

   御者台から見渡す前方。暴走車の様に速度を上げた数台の馬車を見て、同じ様に警戒していたトライオンに警告する。

   「クレルベ様、敵です」

   周囲の馬車を襲って邪魔者を排除し、四方から黒い馬車を取り囲む。現れた破落戸達に抜刀すると、馬首を返して三人の騎士は一人二人と斬り捨てた。

   次から次に現れる敵の数を見て、一度停車した黒い馬車。思ったよりも多い破落戸の数に手間を取ったが、程なく落ち着きトライオンは馬車の中を覗き見た。

   「…………」

   リリーは祈るように手を握り、椅子から立ち上がって蒼白な顔で窓の外を見つめている。

   初めての殺傷現場に震えるリリーの姿。それを見たトライオンは、腹の底に怒りが落ちた。

   「先行して下さい。奴らが来ました」

   トライオンの背後から、同じものを見ていたセセンテァが低く告げる。

   セセンテァの言葉に振り返ると、後方から、騒ぎを聞き付けた王警務隊の数騎が見えた。

   「任せた」

   動き出した馬車に同伴したエレクトも軽く頷いて、トライオンはそれに向かって騎乗する。セセンテァは、遅れてやって来た王警務隊、その中の見知った顔の男を指で呼びつけた。
  

  
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...