だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

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   教師に頼まれ席を外したリリーだったが、程なく教室に戻り、無言で着席する。

   そして不自然に口を噤む姿を見て、エレクトとメイヴァーは何かが起こったと周囲を探らせた。


   「左側アトワが、別棟に左の不可侵領域権を発動した」


   右と左の不可侵領域権とは、右側ダナー左側アトワだけが持つ、何人たりともその領域に踏み込めないという治外法権である。

   これは王が行使する警務隊にも当てはまり、彼らは王都内においても左右の者には手を出せない。

   学院内では融和を元に全ての場所に誰しもが入場可能なのだが、左側アトワは、今回それを限定的に行使した。

   「フィエル公子の件だろう」

   強い箝口令が敷かれ詳細は不明だが、公子は何者かに襲われたらしい。

   周囲は右側ダナーを疑ったが、全く心当たりが無い事に、エレクトとメイヴァーも首を傾げた。

   「おそらく、姫様は何かを知っているだろうが…」

   「あれは、誰かを庇っておられる」

   「例の教師だろう。あの後、行方知れずになったと聞いた」

   「ふむ」

   窓から景色を眺めるのは、いつものリリーの姿。おそらく何かを目撃したのだろうが、本人は何も語らず負傷したのは左側アトワの公子。

   無傷のリリーを確認している護衛の二人は、しばらく左側アトワの様子を見る事にした。


 **

   
   歴史を重ね、修繕を繰り返し、古びてはいるが荘厳で美しい建物。旧教会を訪れたグレインフェルドは、人気の無い聖堂の中、エルロギア神に仕える神獣の石像を見上げる少年を目指す。

   「金の鬣、緑と金の変光眼を持つ第一神獣フィレスタ」

   尖った耳にしなやかな躯体。鹿のようでもあり、狼のようでもある、幻獣の王と謳われる神獣。呟いた少年の横に立ったグレインフェルドは、同じ様に羨望をこめて石像を見上げる。

   「第二神獣フロートは漆黒の鬣、美しい蒼と碧の変光眼を持つ」

   馬の様に大きな神獣だが、身体は猫の様に細身で美しい。鋭い目に嵌められた深い蒼の石は、光の加減で碧く煌めく。

   「第三神獣プレイムロースター。白翠の毛、赤と翠の双眼は、金色の炎を宿す」

   巨大な獅子はたくましく、大きな翼を広げている。そして鋭い牙を剥き出しに、周囲を威嚇していた。

   「何れも、強靭で美しい」

   「はい。彼らはエルロギア神に仕え、そして我々を護り、いつも力を与えてくれています」

   振り返った少年は、本来の薄い翠色の髪色と、淡いピンク色の瞳を魔術で隠している。

   神獣の恩恵を一身に受ける少年に、グレインフェルドは片膝をついて目線を合わせた。

   まるで妹のリリーの様に、グレインフェルドの冷たい蒼の瞳から目を逸らさず、出会えた事を純粋に喜ぶ瞳。

   笑顔を見せる少年は、今年、無事に七つの年を迎えることが出来た。それにグレインフェルドも、敬意を表し心からの祝福を送る。

   「我が名はグレインフェルド・ダナー。ステイ大公国を代表して、ご挨拶申し上げます」

   「初めてお目にかかります。私は、ファンと申します」
   

 **


   ダナー専用の服飾職人は、門外不出の腕利きで、外からの注文は一切受け付けない。そのためアーナスターは、外国から優秀な職人を引き抜いて、自分のための衣服を作らせた。

   出来上がった物を厳しい目で見つめ、裏地にいたる縫製まで確かめる。

   「同じ生地、同じ糸、縫い方、模様、……合格だね」

   ナイトグランドを初めて訪れたリリーの私服と、寸分違わない装飾のドレス。肌の色合いの違いから、色は淡い灰色ではなく全体が漆黒。刺繍や花飾りの位置まで、記憶通りに再現したドレスに満足したアーナスターは、職人の手を取り労った。

   そのドレスを身に纏い全身鏡の前に立つ。そして手にした神獣のブローチを、金色の瞳で見つめた。

   第二の神獣フロートの瞳は蒼と碧の変光眼で、リリーと同じ色を持つ。それを陽に翳し、うっとりと眺める。アーナスターがリリーに贈ったブローチは、瞳の色を自分と同じ金色の石に入れかえた。

   普通に送っては、検閲で排除されたアーナスターからの誕生日の贈り物。

   知人を利用し、リリーの手に無事に渡っていると願ったまま、アーナスターはお揃いのそれを襟元にしっかりと留めた。

   (私は今、リリー様と同じ)

   休日はこれを全て身に付けて、リリーと価値観を共有する。心が満たされたアーナスターは、そのまま機嫌良く金銭の回収に街に繰り出す事にした。
      
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