だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

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   「またご一緒しましょうね」

   両手を握って別れたリリー。手に残る温もり、黒の馬車に乗り込む姿を名残惜しく見つめていたアーナスターだったが、その背に、硬質な声が問いかける。

   「なぜ彼が追われる者エルローサだと分かったのだ?」

   (プランの尋問官、アストラ家のエレクト)

   学院では常にリリーに侍る十枝の一人。ダナーを調べると分かった十枝内の婚約者候補の話。エレクトもその対象だと直感したが、アーナスターは顔には出さずに口の端を上げた。

   「勘です」

   「勘?」

   「王警務隊が乗り込んで来るまで、確信はありませんでした」

   セオルと話すのは奴隷の特徴のない、黒髪、赤い瞳の少年。

   「今は、見た目にあの特異な特徴みどりは見えません。高位の術者が居るのでしょう」

   「それにしては初めから注目していたな?」   

   「私は多くの奴隷ものを見ています。そして姿隠しの術を使用する事も知っています。だけどやはり、身体の線、一族の骨格は、見る者が見れば分かるでしょう」

   「だから王警務隊やつらにも気付かれたのか」

   「……いえ、これは噂話ですが、王警務隊は、姿隠しを見破るすべを持っていると聞いた事があります」

   「!」

   思い浮かぶのは、フェアリーの姿隠しを見破る魔除け。それはメルヴィウスとセセンティアの部隊が身体に刻んでいる。

   (旧教会へーレーンの術者に施術されたと言っていたが…)

   少し考えたエレクトだが、動き出したダナー家の馬車。それを見送っていた奴隷の少年が、護衛騎士の馬上に引き上げられる姿を目で追う。

   「はうちの商品ではありません。入手先をお聞きしても宜しいですか?」

    アーナスターの目線の先の少年。だがエレクトはそれに答えず質問を逸らした。 

   「なぜ助けた?」

   「連れ歩く事情があるのだと察し、 右側ダナーに恩を売りました」

   獲物を見定める様に、ファンから不気味に目を離さない。だがアーナスターの金の瞳は、侮蔑に目を眇めたエレクトを振り返って笑った。

   「冗談です。見返りは要りません。私は、リリー様のお身内には優しいのです。もちろんアストラ卿にも、新しいお友達にも」


 **


   グレインフェルドが屋敷に戻ると、出迎えたリリーの横に、教会で別れたはずの少年が立っていた。

   「行き掛かり上、しばらく右側うちが保護する事になりました」

   ローデルートの報告を受けたグレインフェルドは、増えた客人に喜ぶリリーの姿を見て許可を頷いた。

   「なんだあいつ」

   大きな声と共に騒がしく帰宅したメルヴィウスは、予定を切り上げ早めに王都に戻ってきた。グレインフェルドは、リリーとお茶をする少年に悪態をついた弟に溜め息する。

   「アイファンス・イル・エルローサ殿下だ。身なりを整えろ」

   だらしなく襟元は開き、首の入れ墨が見えている。きょとんと兄を見つめた碧の目は、次に黒髪の少年に移った。

   「……!? イルって、直系の? 真の王族じゃないか」

   旧王国の王太子。それに畏まったメルヴィウスは、身に纏った埃を払うために風呂場で清めて着替えると、正式にファンの前に片膝をついた。

   
 **
   

   連絡通路が入り交じる複雑な学院の内部は、部外者が一度来ただけでは把握出来ない。だが迷いなく走り逃げた犯人に、フィエルは学院関係者だと推測していた。

   「目撃者の証言、犯人の逃げた方角から、境会アンセーマの者が疑わしいです」

   更に続くラエルの報告では、退職した語学教師は、グランディアの名を出されて、それによりダナー家の大公令嬢を選んだという。

   「また境会アンセーマ、そしてグランディアめ…」

   一族でも立場の弱い者がつけ入られた。既成事実に王族に取り込まれたシベル家、左側アトワを母に持つ王子。

   休日明け、苛立ちを隠さず、フィエルはグランディアの元へ向かうために王宮の中庭に差し掛かる。

   光射す庭園。だがそこに、既に三人の先客がいた。

   「破棄など、私の一存では決められない」

   穏やかではない、聞き覚えのある声が耳に飛び込んで足を止める。

   「君との婚約は、国王陛下のお気持ちにより、今に至るのだから」

   グランディアは、俯く女子生徒を背に庇う。そして二人の前に孤立するのは、黒髪を結い上げたリリーだった。


   
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