だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

文字の大きさ
114 / 211

64

しおりを挟む


   ダナーの馬車を襲わせたが、標的の令嬢は無事だった。そして学院内で、再び令嬢が襲われたが、それはエンヴィーの知らぬところで計画が進められていた。

   「何度も何度も失敗ばかり、この、役立たずめ!!」

   怒りに投げ付けられた銀色の杯は、エンヴィーの額を掠め音を立てて床に転がっていく。

   「無駄にネルを使うとは、ダナーとアトワの領地へ行って、お前が、残りをすべて盗ってこい!」

   「…………」

   切れた額から頬を伝い流れ落ちた赤い血。エンヴィーは、身に覚えのない事に、顔を歪める赤外套の老人を見上げた。

   「簡単だろう? 他とは違う。それが血統だからな」

   「……」
   
   同じ灰色の外套を身に纏い、壁際に立っている。学院で令嬢を襲った数名は、言い訳をしないエンヴィーに胸を撫で下ろし、内心では笑う。

   学院の厚い硝子窓を砕くため、試しにネルを使ってみた。魔力の干渉により、簡単に粉々になった硝子。

   失敗しても、やはりエンヴィーの所為にされた。

   それを他の者に指示した祭司クラウンは、立ち竦むエンヴィーに「下がりなさい」と冷たく言い放った。

   そして苛立ちが収まらない祭司オーカンを見て、背後に待機する者に目で合図する。

   「そういえば、今回の召喚異物オーは、今までで一番使えるかもしれません。ネルそのものが、攻撃物質にならないのかと、提案したのはオーなのです」

   今回の実験では、数個の設置で学院の強化硝子を破壊できる事が判明した。

   そしてオーはフェアリオと名を与えられてからも、自分勝手に行動せずに境会の祭司に従順だった。

   「残念ながら、核爆弾に関する製作知識はありませんが、兵器開発にネルを使用するのは良い考えかもしれません」

   祭司クラウンに、年老いた祭司オーカンは否定に首を振る。

   「だが街一つ壊滅させる量が無い。実験などしなくてもすむ様に、異界からの兵器召喚が目的だったのだ。我々で造り出せる程度ならば、そもそも召喚などしてはいない」

   「確かに」

   「それもあるが、王への献上品を早く形にせねば、我ら境会アンセーマに、不審を抱かせてはならないぞ」

   「そうですね。それに、近頃は結界が不安定な事も気になります」

   国を覆う結界の不具合が次々と報告されている。再び始まった左側アトワの境会に対する追及、未だ生きている右側ダナーの令嬢、山積する問題にクラウンは溜め息したが、現れた灰色の祭司の姿を見て、取りあえず目の前の面倒事を片付けようと老人に声をかけた。

   「祭司オーカン、お気持ちを整えましょう」

   歴代の主祭司は、若い少年を好む。

   奥の部屋に用意されるのは、見た目が整った灰色祭司達の子供たち。

   気難しい老人をその部屋に導くと、厚い扉は閉められた。


 **


   「いつもお邪魔してごめんなさい。私、人見知りなので、新しい場所に、簡単には馴染めなくて…」

   控えめだが、柔らかな笑顔。

   「私に出来る事なら、なんでも言って下さい!」

   積極性はあるが器用ではない。

   「こんな事しか出来なくて…」

   従者の代わりにお茶を運んで恐縮した。そのお茶は、とても渋くて飲めたものではなかった。

   「グランディア様が王太子様なら、きっとこの国は安心ですね」

   耳に伝わる、軽く心地よい声。

   「だって、いつもそんなに忙しく国の為にお仕事されて、頼もしく思わない国民はいないと思います!」

   言葉は常に勇気づける。グランディアだけを見つめ、追いかけてくる空色の瞳。

   数日前に出会ったばかりのフェアリオは、グランディアの心に入り込んだ。

   「グランディア様、今日もお昼をご一緒してもいいですか?」

   境会で聖女としての学びを受けると、定時に執務室を訪れる。明るい笑顔に、それを断る理由のないグランディアだったが、フェアリオと歩く王宮の中庭に、いるはずの無い人物を見て足を止めた。

   ドキリと鼓動が強く打った。

   「……」
   
   暖かい陽の満ちる庭園に、それには一切溶け込まず、その場に反する姿の黒の制服。

   『あれは、』

   何か呟いたフェアリオが、物怖じして背後に下がった。その気持ちを、グランディアは理解できた。

 
    
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...