だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

文字の大きさ
125 / 211

71

しおりを挟む

    時を告げる鐘の音に、生徒たちは息抜き思い思いに動き出す。だがこの日、異様に静まり返った教室内に入り口を見ると、生徒ではない制服の男が立っていた。

   恐れるように道が開ける。それを構わず乗り込んで来たアエルは、奥の席でこの場の主の様に座ったままの、リリーの前にやって来た。
   
   「王警務隊アエル・スペース・デルフェフメがご挨拶致します。令嬢、お時間を頂きたい」

   「卿との、約束は特に無い」
   「職務に戻られよ」

   立ち上がったエレクトとメイヴァーが退場を告げたが、それを軽く上げた右手が止めた。

   「良いわ」

   「奴隷について、聞きたい事があります」

   「私もよ。丁度良いところで現れたわね」

   リリーの挑戦的な言葉に、アエルの口の端がスッと下がる。緊張に包まれた教室内。気づけば、他の生徒は誰一人居なくなっていた。

   「では、質問をどうぞ」

   「ナイトグランドとの交渉は、上手くいきましたか?」

   「ナイトグランド? ……アーナスターさんとのお茶会の日を言っているの?」

   「はい」

   「しつこいのね。支払いに関する事は、王都の家の代表、兄に直接聞いていただける? だけどそれは、本格的に我が家を侮辱したものとして、貴方がどうなるかは分からないけれど」

   「それは申し訳ありません」

   リリーの言葉に、アエルは再び笑顔を見せる。王警務隊の中ではよく表情の変わる男。

   警務隊は貴族の跡継ぎ以外が多く入隊する。名誉職である以上に、王の犬として感情を消されるほどの過酷な訓練を強いられる事で有名だが、目の前の男は違った。

   「あの日、我々がお邪魔したことで、取り引きが上手くいかなかったのではと、心配しておりました」

   神妙な顔をしてみせた。だがそれに、リリーはにっこりと意地悪に笑う。

   「王警務隊デルフェフメ卿、謝ってすむ立場ではありませんよね?」

   「「??」」

   珍しくリリーが謝罪した者を追及した。主を目だけで確認したエレクトとメイヴァーは、その後に同じ様な疑問に目を合わせた。

   言われたアエルは困った顔をしてみせ、考え事に顎を触れていた長い指は、閃きと同時に下ろされた。

   「ならば謝罪として、一つ差し出しましょう」

   笑う男は何かを企んでいる。

   「どの立場で物を言っている」

   「姫様、お帰り頂きましょう」

   「貴方の、差し出すものにもよるわね」

   止めようと前に出ようとしたエレクトとメイヴァーに、リリーは許可を出さない。

   「右側そちらが知りたがっている情報、それを」

   なぜ少年を奴隷だと見抜けたか、王警務隊の奴隷狩りの手段を、ダナーが探っていることをアエルは知っている。

   リリーは、それに「いいわよ」と頷いた。

   「は、描き手によって違うと聞くので、特別に、お見せしましょう」

   数少ない彫り師の術使い。一人一人描き方に癖があり、図柄を見れば、誰が彫ったか特定は容易である。

   襟元を留める金具を外し、硬い制服の上着を脱ぐ。そしてシャツの釦を外し始めると、初めてリリーは怪訝に眉を寄せた。

   脱ぎ捨てたシャツ、割れる腹筋、鍛え上げられた身体にびっしりと呪文が刻まれる。

   若い娘、特に男性経験の無い令嬢などは、身体を見ただけで驚きの悲鳴を上げて見ないふりをするが、意外にもリリーはそれを静観して見つめていた。

   (思ったよりも、男の身体を見慣れているということか?)

   護衛の二人よりも、何の反応も示さない。アエルの身体に興味が無いとでもいうように、蒼い瞳は揺るがなかった。

   (つまらないな)

   腹の下まで続く入れ墨、それを見せたらどうなるだろうと興味がわいた。革のベルトに手を掛けて、素早くバックルを外す。

   護衛が動き出す前に露出しようと思ったが、腰に手を掛けたところで窓の外に影を見た。

   ーーパンパンパンパンパンパンパンパン!!
   
   「っつ、」

   高速で窓硝子を突き抜けた小さな矢が、それを躱すアエルを連射で狙って壁に突き刺さる。全てを躱しきったと髪をかき上げたところで、グサッと一矢が頬を掠めて背後の書棚に突き刺さった。

   (パイオドの射手)

   突然の攻撃に焦ったが、息を整えたアエルは、背後に穴の空いた窓硝子をちらりと見ただけで、表情の変わらないリリーに驚いた。

   (思ったよりもお嬢様は、色々な経験をしているようだ)

   後ろに控える護衛よりも、アエルを平静に見つめる蒼い瞳。

   「フッ…」

   自分の醜態に笑いが出たが、それすらにも興味がないと、リリーは無反応を示すだけ。アエルは、上着を拾うと袖を通して襟を正し、会釈と共にその場を後にした。

   「姫様……」

   「平気よ」

   入れ墨の確認、その後の行きすぎたアエルの行動にリリーは動揺も何もない。むしろ大切なリリーの心が汚されたのではと二人の護衛は考えていたが、本人は意外と強かった。


 **

   
   「……今日も王太子様に会えないのですか?」

   中庭の件以降、グランディアに会いに行くと体調不良を理由に護衛のサイに断られる。数日様子を見たフェアリオは、それを境会に相談した。

   「先日、貴方から王太子殿下とダナー大公令嬢の婚約破棄の報告がありましたが、それは間違いのようです」

   『え?』

   「なんでも、二人が談笑していたと、一部から聞きました」

   灰色の外套の祭司は顔が半分以上隠れている。だが見える不満な口元に、フェアリオは内心で動揺した。

   『嘘じゃないです』

   「一時の仲違いなど、よくある事です。……それよりも、その大公令嬢なのですが、一人で王宮に来られたのですね?」

   『……はい。初めは一人でした』

   「……ならば貴方に、頼みたい事があります」

   ひそひそと耳打ちした内容に、フェアリオは気乗りなく上目遣いに祭司を見上げる。

   『それ、私が行かないと駄目ですか? なんか、直接会うの怖いんです…』

   「これは後々、貴女と王太子殿下のためになるのです。内容は簡単じゃないですか」

   『……ですけど、……ですよね』


   この翌日、リリーの前にフェアリオが現れた。

   
     
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...