だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

文字の大きさ
132 / 211

75

しおりを挟む


   「思っていたよりも、早い展開だ」

   東沿岸を船から眺めたオルガンは、山脈の狼煙を確認し呟いた。

   「砂漠の連中もそうだが、厳しい山岳地帯に住む者たちは、肥沃な大地を常に虎視眈々と狙っている」

   「次代、総帥からです」

   今は穏やかな波に揺られる客船、渡された手紙を広げたオルガンは内容を確認すると顎に手をあてた。

   「親父殿は、アーナスターを心配しているな」

   「ギルドは、弟さんを西の戦線に配置するそうですね」

   「そう。あれは西との交易がある。私は東トイ国と。ナイトグランド我らは常に、中庸に、お客様を選ばずに商売しているからな。だが」

   組んだ腕、軽く顎を支える指、オルガンは困ったものだとため息した。

   「可愛い弟は昔から、欲しいものが見つかると視野が極端に狭くなっていけない。きっと今、アーナスターは右側ダナーに偏りすぎている。それを親父殿が気にしてるんだが、さて、手を貸すべきか……」

   「我々もトイ国は片手間に出来ません。あそこの王子、次代の恩人を本格的に狙ってますよ。西のバックスでも、その噂話が聞けるそうです」

   「秘されたものには注目が集まってしまう。戦利品として、美しいお姫様の略奪は良い行事だ」

   ステイ大公領に、長年隠されてきた美しい令嬢の噂は、商人や詩人を介して暇な貴族、他国の王族の間に知れ渡る。
   
   「秘された宝ってところが、なおさら興味が沸きますよね」

   「宝、ね」

   口を開かなければ氷の人形の様に美しい見た目。

   弟を妹と思い違い、自分を睨んでいた蒼い瞳を思い出してオルガンはフフッと笑ったが、視線を移したスクラローサ上空、雲の切れ間に見えた赤色の矛を見た。

   この争いの引き金。

   砂漠化が進む西のバックス国、寒冷地が広がる東のトイ国。続く各国の自然災害は、百年より前、スクラローサが結界を張り巡らせた後に顕著にあらわれていると、南のダエリア諸島の学者は見ている。

   何かに、歪められている。

   オルガンは、不自然に空に突き刺さる赤色の矛に、金色の瞳を眇めた。


 **


   「境会アンセーマと聖女は、いつの時代も、よく我がスクラローサを護ってくれている」

   王宮の謁見の間、豪奢な椅子に腰かける国王は、跪く赤色の外套を纏う祭司を労った。
   
   「迫る北国セントーラとの戦争、それに間に合うように結界を強化してくれた事、境会アンセーマの貢献を大いに評価しよう」

   「有り難き幸せ。国王陛下、全ての祝福を感謝致します」

   謁見の間を退出した祭司オーカンとクラウンは、窓から赤色の光を見上げた。

   「次々と触媒石が右側ダナーに破壊され、新しい献上品も作れず、一事はどうなることかと思いましたが、今までになく結界が強まりましたね」

   「私が子供の頃に見た矛より赤く強い。確かに、初めて見る強さだな」

   老いたオーカンも見たことが無い強い魔方陣、三叉の矛の全身は、天に穴を空ける様に煌々と輝く。

  「文献には、この世に貢献した異物が役目を終え国を支える柱となった時に、結界の力が更新されて強まるとあったのだが、異物は召喚したばかりで、まだ王太子を操る事も出来ていないが…」

  「主祭司様!」

   王宮の廊下から境会の聖堂にたどり着くと、年若い灰色の外套の祭司が走りよってくる。

   「祭司デオス、どうされましたか?」

   「また、オーが、フェアリオが居なくなりました!」

   「馬鹿な、今度の異物は外には出さず、近場で管理していたはずですよね?」

   度重なる異物の紛失に、境会はフェアリオの行動範囲を制限していた。王太子の執務室と学院、境会のごく一部のみの異物の動線。

   「迷って、学院内に居るのではないですか?」
   
   「それが隈無く探しましたが、食事時にも自室にも現れず、聖女と思われる人物が、男と二人で歩いていたと庶民の生徒スクラディアの証言もあり」

   好みの者の姿に変容する異物は、良くも悪くも人の目をひく。更にそれは貴族ではなく深緑色の制服スクラディアを身に纏い、男と歩いていればなおさら。

   「あれほど王太子の元へ通っていたのに、他の男に声を掛けられれば直ぐに付いていくとは……、やはり異物フェアリオも、使えないただの女ということか」

   珍しくクラウンが怒りに震えたが、そこに更なる凶報は飛び込んだ。

   「大変です!! 主祭司様!!」

   「今度は何だ!!」

   「保管していたネルが、全て、全て失くなっています!!」

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...