だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

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フィエル編

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   放てとは言われたが、正面から走り来る二人の騎士に動揺し逡巡した。

   「ぐぁ!」「がっ!」

   「!?」

   命じたはずの矢は放たれず、見えない速度で斬り飛ばされた。異様な声を出してドサリドサリと地に落ちるのはボーガンを手にする腕。振り返ったクラウンは、悲鳴を上げた灰色の祭司の腕から吹き上がる血を目に愕然とした。

   「これは、」

   二人の騎士に、控える祭司が為す術なく斬り倒される。それに息を飲み込み後退りすると、今度は背後から冷たい声がかかった。

   「どれほど訓練したのかは知らんが、祭司やつらが無様に構えたボーガンの軌道は、当たらないと見てわかる」

   「…そんな、こんな、馬鹿な、」

   悲鳴と共に灰外套の祭司たちは倒れていく。

   「武器を手にして騎士を前にするということが、何を意味するのか分かっているのか?」

   「くそ!」

  次々と斬り伏せられるが、まだ武器を持つ祭司は残っている。クラウンは、「急げ、早く、殺れ!!」と大声で叫んだ。

   発射するが、的に当たらず腕を飛ばされる。アトワの騎士が灰外套の数を減らすその間に、物陰の無い泉から離れようと、リリーはエンヴィーを連れて森へ向かって動き出した。

   ボーガンでは当たらないと思った祭司の数人は、腰の剣を抜き身に石像の影に隠れ、次に泉周辺の茂みに移り忍び寄る。

   「こうなったら、絶対に、令嬢だけは、確実に仕留めろ!」

   クラウンに言われて、捨て身に走り出した灰色の外套祭司たち。フィエルがそれを斬りつけたが、取りこぼした一人が足を引きずるエンヴィーと、背を押すリリーの背後に追い付いた。

   「アイの不幸を!」

   「!!」

   頭上に振り上げられた長い刃を、振り向き見上げたリリーは咄嗟に、護るようにエンヴィーに抱き付き押し倒した。

   ーーカァン!!

   軽い音に弾かれ舞い上がった剣と共に、倒れた灰色の祭司の背後にはエレクトが立っている。そしてグサリと剣が地に突き刺さると、リリーの真上から女騎士の声がした。

   「遅くなり、申し訳ありません」

   「ナーラ様! エレクトくん!」

   現れた護衛騎士たちに安堵し全身の力が抜ける。地面に強かに身体を打ち付け、痛みに顔を歪めて半身を起こしたエンヴィーは、自分に覆い被さる温かい体温が、ナーラによって剥がされたのを見た。

   「ご無事で」

   「ナーラ様、エレクトくんも、良かった…」

   「祭司にやられるとは、笑える」

   森から現れた灰外套を斬り捨てたエレクトを、ヴァーリアル家のヘイリエルが鼻で笑った。それを苛立ちに睨んだが、この場に遅れた言い訳はしない。

   エレクトとナーラを見つめたリリーは、しっかりと立っている二人に涙ぐむ。その背に、エンヴィーが問いかけた。

   「なぜ庇った」

   振り返ると、出血に真白い顔が蒼白となったエンヴィーがゆっくりと立ち上がる。言われたリリーは小首を傾げたがほどなく軽く頷いた。

   「そこに貴方が居たからよ」

   「私は境会アンセーマの祭司だ」

   何の事かと黒の瞳を見つめた蒼の瞳。それは数回瞬くと、結ばれていた唇が開かれた。

   「境会それ怪我これは別なのよ」

   言われたエンヴィーは意味が分からずその場に立ち竦む。少し離れた泉の岸辺では、フィエルとエレクトが灰色の祭司と切り結び、教会跡地の瓦礫の中ではクラウンが短外套の少年に「主祭司様に連絡を!」と叫んでいた。

   「……」

   エンヴィーを置き去りナーラの元へ歩き出したリリーの背に、すがるような声がかけられた。

   「思い当たる節がある、貴女はそう言った」

   「?」

   振り返った蒼の瞳は少し何かを考えた後、思い出したと頷いた。リリーは、エンヴィーに自分の謎を与えたままだった。

   「そうね、まだ答えを言っていなかった」

   背後でナーラが眉をひそめるが、リリーはエンヴィーに向き合うと、何故か両手を腰に胸を張る。

   「貴方と私の共通点、それはね、悪役だからなのよ」

   「??」

   「間抜けにやられる事が仕事なの。だからそんなに怪我をした」

   「???」

   リリーの答えに間の抜けた表情をしたエンヴィーの、心中を理解できたのはナーラだけ。言った本人は満足ににっこり笑ったが、それをエンヴィーは不満に呟いた。

   「私の考えとは違う」

   握ったままの胸元から、握りしめた手の平を前に出した。それにナーラは身を固めたが、リリーは疑問に首を傾げる。

   「どうぞ、これが私の答えです」

   「?」

   「姫様!」

   嫌な予感にナーラは叫んだが、「どうぞ」と言われたリリーは素直に手の平を差し出した。

   真白い手が重ねられ、エンヴィーが手を引くと緑の石が残された。リリーの手の平の半分ほどの大きさ。何処かで見たことのある美しい緑色は、破片の縁に光を宿し、見つめていると、光は石の中央に急速に集積された。

   「?」

   ーーカッ!!!

   「キャア!!」

   真白い光が辺りを包み込み、石から光が迸る。叫んだが、手から石は離れない。リリーの持つ石の光は二ヵ所に分かれると、教会跡地の瓦礫の地中、聖女が座る穴に吸い込まれていく。

   「なんだ!?」

   異変に光を目で追う者達は、二つの穴から空に伸ばされた光の柱が、赤く光る魔法紋に突き刺さるのを見た。

   「矛が、三叉に、」

   触媒の破壊により一つ失われていた刃先が、再び三つとなり空に浮かんでいる。魔法紋の力が漲るそれにクラウンは笑ったが、誇らしく見上げた境会を護る矛は、ビシッとひび割れに瓦解した。

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