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フィエル編
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しおりを挟む「……え?」
淡々と告げられた内容に、リリーはそれを聞き返す。
「私の思い付く方法は、異界と繋げられた力の供給源、それを破壊する事だけです」
「破壊って、破壊って?」
「ボーガンで頭蓋を撃ち抜くか、剣で突き刺すか、幸いここには武器は沢山ありますので」
「……ええ?」
ーードォン……。
破片が地上にたどり着き、倒れた近くに土の山が見える。頻りにその場所を気にするリリーを見て、セオルは問いかけた。
「召喚された聖女、穴に、二人が居るのですか?」
見渡すと直ぐに分かる石畳の剥がれた場所に、不自然に彫られた二ヵ所の穴。眉間を寄せたセオルに、エンヴィーは軽く頷いた。
「異界との接点、そして魔法紋に魔力を供給する触媒として設置しました。口に嵌めた核を、外すだけでも効果はあるかもしれません」
「核……あの緑の石ですね? 境会に持ち運び、聖女に様々な商品を作り出させる」
「さすがによく知っていますね。そうですが、献上品を作る通常の核でははない。それには魔法紋に繋がる刻印が彫られています。先ほど貴女に渡した物と同じ。異界の者に強く反応する」
「……私に? あの、緑の石!?」
リリーは、エンヴィーに手渡された光る石を思い出した。それは放り投げて、光を失いひび割れた。
「核は元々、幻獣の心臓です。魔力の媒介品として役立ちますが、長く生き物に持たせるとそれを宿主と認識し同化する。離せば、心臓が止まるように宿主の命も止まるでしょう」
それを握った手を見つめ、リリーはゾッと身を縮めた。
「私、生きてる…」
「長く持てば、と言いました。……復唱はしないと何度も言ったのですが」
苛立ちに目を眇めたエンヴィーを、リリーは不満の上目遣いで見上げた。
「でもそうだ、貴方はさっき、土から出して、あの石、核を外せば二人の命がどうのこうの言っていた。ならば破壊って、つまり、やっぱり、二人を犠牲にしろって言ったのね?」
「ようやく理解出来た。しかも私の話を記憶していたことに感動です」
半笑いのエンヴィーに嘲られたとリリーは憤まんしたが、それをセオルが掴んで宥める。
ーーズズン…、
「あ!!」
パキンと響いた空を見上げると、赤い大きな支柱の破片が瓦解して、原型を留めなくなった。それを焦燥に見上げたセオルは、翠がかる瞳をエンヴィーに向ける。
「エンヴィー祭司、境会の祭司である貴方が、リリー様に協力するとは思えないのですが」
「……」
セオルの真横、同じ様に自分をひたと見つめる大きな蒼の瞳から、エンヴィーはふっと目を逸らした。
「……もう、どうでもよくなりました。全てが」
「?」
「その人に、訳のわからない事ばかり言われて。少し疲れて、どうでもよくなったと言ったのです」
「??」
その人と言われた本人は、エンヴィーの告白を聞いていたのかいないのか再び空を見上げる。そして指定された二つの穴を不安げに見つめた。
「……ハァ」
軽い溜め息が出た。エンヴィーは、蒼の視線の行方に振り回される様になった自分に苛立ち、そして本当に困惑していた。
ーーズズン…、ズーン。
徐々に、落下する破片の量が増えていく。限られた時、少ない情報の中でセオルは決断した。
「リリー様、私が」
「そういえば、気になることは……!!」
エンヴィーに剣の切っ先が届く前に難なく躱された。いつの間にか縮まっていた距離、因果律に逆らって血を吐く者達は膝をつく。
「核、幻獣、全て聞いたぞ。我が領地、幻獣が減ったのは、境会の、仕業だと」
言って赤い瞳はエンヴィーを睨み付けたが、再び血を吐き両腕を地についた。黒の瞳はフィエルを横目で確認すると、それを無視して再びセオルに向き合った。
「……貴方がここに居る、このあり得ない状況の説明です」
「ここに? それは、空の魔法陣が崩れたから、」
「違います。なぜ貴方も支配されないのか」
「??」
「因果律に逆らう秘術、それはとても気になります」
「因果律?」
首を傾げたセオルにエンヴィーは眉をひそめ、エレクトとナーラは怒りに再び一歩前に進む。
「見て!!」
口を開けて空を見上げていたリリーが指差した先、泉を塞ぐほどの大きな赤の塊が落下すると、ザアンと音を立てて溢れ出た飛沫。そして同時に、地面が揺れるほどの衝撃にたたらを踏んだ。
しっかりとリリーを支えたセオルは、祭壇に立つエンヴィーを振り返った。
「核を、聖女から奪えばいいのですね?」
「或いは、身体を破壊すれば同じかと」
「行きます」
「セオ!!」
リリーを置いて、セオルは目指す穴に走り出す。そしてたどり着いた不自然な穴の一つ。中を覗き込むと、動かず座り込む女の姿に息を飲んだ。
意を決して入った穴の中、思ったよりも深くはなく、セオルの腰半分が隠れる程度。手狭な穴に座り込む少女の肩に手をかけると、定まらない焦点、ぐらりと頭が傾げる。
「……っ、」
慣れない作業に息を詰め、後頭部で括られる紐を外すと口からポトリと核が外れた。冷や汗に軽く息を吐き、項垂れる少女の手元に落ちた緑の石を拾おうと伸ばした手は、何かを思い出して触れる寸前で止まる。
「……」
セオルは、剣の柄で石を弾くと、地に落ちたそれに刃を突き刺して破壊した。
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