この身が朽ち果てる前に

レン太郎

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ブログのブルース

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 数年前、私はとあるコミュニティサイトで、ブログを書いていた。その頃の私は、ブログというものに、すっかり夢中になってしまい、ブログに書くネタを探すのに躍起(やっき)になっていた。
 そんなある日、私はあるタイトルを思い付き、ブログを書き始ることなる。

 そのタイトルとは、
『自殺願望の強い女』である。

 といっても、ホントに自殺するわけではない。出会い系サイトでドタキャンされた女が、

「ドタキャンされたからアタシ寂しくて死にそうよ」

 と、自殺めいたことを言い、男を誘い出すというお話である。そう、要するにコメディなのだ。

 私は、その話の主人公を『まつこ』と名付けた。いくらコメディでも、自殺を題材にしているので、よくある名前ではいけないと思ったからだ。
 男が来るまで「来てくれないとアタシ死ぬわよ」と、待ち続ける女『まつこ』。そのブログは大好評になり、「続きを早く書いて下さい」との声が、数多くコメントされた。

 しかし、その日の夜の12時に、私のブログに対する苦情のメールが届いてしまったのだ。その苦情メールの内容とは、こうだ。

「アナタのブログをいつも拝見している者です。今回の主人公『まつこ』という名前ですが、私のあだ名と被るので止めて貰えませんか?」

 私はこのメールを読んだ時、

「しまった! 人を傷つけてしまった!」

 と、調子に乗り過ぎていた自分を、呪わずにはいられなかった。
 メールをくれた人は、女性の方で『ハルナさん(仮名)』という方だった。私はすぐに、お詫びのメールを書き、その内容に「『まつこ』は止めて『おまつ』にします」と、ハルナさんに返信したのだ。
 すると早速、ハルナさんから返信メールが届いた。

「『おまつ』も止めて下さい。昔そう呼ばれたことがあるから」と。

 私は自分の発想を嘆いた。「俺のバカ! 死ね!」と。『おまつ』も『まつこ』も似たような名前じゃないか。でも、私の中では“待つ女”のイメージを拭い去ることが、どうしても出来なかった。
 そして私は「これならどうだ?」と言わんばかりに、ハルナさんに返信メールを送ったのだ。

「『マッティ夫人』というのは、どうでしょうか?」と。

 はっきりいって『マッティ夫人』は、ありえないだろう。だが、ハルナさんの為に、私は『マッティ夫人』にしようと、心に決めたのだ。
 すると、またすぐにハルナさんからメールが届いた。

「かなりふざけた名前ですね。でも『マッティ夫人』も言われたことがあるので止めて下さい」と。

「言われたことあるんかい!」

 私は深夜にもかかわらず、おもいっきり声に出して突っ込んでしまった。と同時に、

「ハルナさん……なんて哀しい人なのだろう」

 と、同情の念を抱いた瞬間でもあった。
 私はすぐさま、自分の汚れた脳細胞に喝を入れ直し、次の名前を考えた。そう、60億人以上がひしめくこの世界で、誰も呼んだことのないような名前を──。
 そしてついに、ある名前を考えついた。「これなら絶対に大丈夫」と、確信した私は、早速ハルナさんにメールを送った。

「『まいっちんぐマンティコア先生』というのはどうでしょう?」と。

 大丈夫だ。『まいっちんぐ』に『マンティコア』と続いて『先生』なんて、誰も考えつかない。だいたい『マンティコア』って何だ? 自分で書いてて意味不明なワードだった。
「そうだ、後でネットで調べてみよう」と思ってる矢先に、ハルナさんから返信のメールが届いた。
 そして私が、ドキドキしながらメールを開いてみると、私の気持ちを踏みにじるかのように、こう書かれてあったのだ。

「なんか気に入らないので、もっと真面目に考えて下さい」

 ふざけんなよ! このメスブタがーっ!

 私はついにキレてしまった。

 私は意地でも、ハルナの許可を取ろうとメールを送り続けた。

「『マタニティ横丁』っていうのはどうですか?」

 ダメだった。

「『まつぼっクリスティ』っていうのはどうですか?」

 ダメだった。

「『マッティのマーティはあなたのマティにマッティする』ってのはどうですか?」

 ダメだった。

 私の考えた名前は、ハルナによりことごとく粉砕されてしまったのだ。そこで私の脳裏に、あることが過ぎってしまう。

「ひょっとして、おちょくられてるのではないか?」と。

 そうだ、きっと私は、ハルナにおちょくられているのだ。そう思った私は、結局、

「『マグマ大使』に決定します。もう変更はしません」

 と、ハルナにメールして、この不毛な『ネーミング合戦』に、ピリオドを打ち付けたのだった。

 時刻は深夜3時を回っていた。私は『マンティコア』の意味を調べて床に着くことにした。

・マンティコア
 インド生まれの架空の怪物で、森林に住家を構え、人間を襲うこともある。

 ……だそうだ。このままではシャクなので、私はハルナに対して、ささやかな復讐をすることにした。ブログの主人公の名前を『まつこ』のまま変えずに、通したのである。
 なので、私とハルナが深夜に『ネーミング合戦』をしていたことを知る者は誰もいない。ハルナが誰かに、言わなければの話だが。

 そして、この『ネーミング合戦』から二ヶ月を過ぎたくらいに、私はある事実を、目の当たりにすることとなる。
 知り合いがブログを書いていたので、私は読みにいくことにした。そして、そのブログにはこう書かれてあった。

「このサイトで知り合った『ハルナさん』と付き合う事になりました(はぁと)」と。

 私はガク然とした。
 ハルナ……ハルナ! ハルナ!
 きっと生涯忘れないであろう、その名前。二ヶ月前に、私のブログにケチをつけ、さらにはおちょくり、私を寝不足にまで追いやった、にっくき女ハルナ!
 その知り合いの彼は、私の『まつこが主人公』のブログにも「面白い」とコメントしてくれた人だ。たぶん彼は、ハルナの本性を知らない。だが私は、そのことを彼には告げず、そのブログに、

「おめでとう、お幸せに」

 とだけコメントし、そのコミュニティサイトを退会した。

「ハルナの運命に幸あれ!」と、皮肉めいたことを考えながら──。

 ただ、私の願いを一つ言うのであれば、このエッセイを「ハルナが読んでいませんよーに」と、いうことだけである。
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