8 / 45
ブログのブルース
しおりを挟む数年前、私はとあるコミュニティサイトで、ブログを書いていた。その頃の私は、ブログというものに、すっかり夢中になってしまい、ブログに書くネタを探すのに躍起(やっき)になっていた。
そんなある日、私はあるタイトルを思い付き、ブログを書き始ることなる。
そのタイトルとは、
『自殺願望の強い女』である。
といっても、ホントに自殺するわけではない。出会い系サイトでドタキャンされた女が、
「ドタキャンされたからアタシ寂しくて死にそうよ」
と、自殺めいたことを言い、男を誘い出すというお話である。そう、要するにコメディなのだ。
私は、その話の主人公を『まつこ』と名付けた。いくらコメディでも、自殺を題材にしているので、よくある名前ではいけないと思ったからだ。
男が来るまで「来てくれないとアタシ死ぬわよ」と、待ち続ける女『まつこ』。そのブログは大好評になり、「続きを早く書いて下さい」との声が、数多くコメントされた。
しかし、その日の夜の12時に、私のブログに対する苦情のメールが届いてしまったのだ。その苦情メールの内容とは、こうだ。
「アナタのブログをいつも拝見している者です。今回の主人公『まつこ』という名前ですが、私のあだ名と被るので止めて貰えませんか?」
私はこのメールを読んだ時、
「しまった! 人を傷つけてしまった!」
と、調子に乗り過ぎていた自分を、呪わずにはいられなかった。
メールをくれた人は、女性の方で『ハルナさん(仮名)』という方だった。私はすぐに、お詫びのメールを書き、その内容に「『まつこ』は止めて『おまつ』にします」と、ハルナさんに返信したのだ。
すると早速、ハルナさんから返信メールが届いた。
「『おまつ』も止めて下さい。昔そう呼ばれたことがあるから」と。
私は自分の発想を嘆いた。「俺のバカ! 死ね!」と。『おまつ』も『まつこ』も似たような名前じゃないか。でも、私の中では“待つ女”のイメージを拭い去ることが、どうしても出来なかった。
そして私は「これならどうだ?」と言わんばかりに、ハルナさんに返信メールを送ったのだ。
「『マッティ夫人』というのは、どうでしょうか?」と。
はっきりいって『マッティ夫人』は、ありえないだろう。だが、ハルナさんの為に、私は『マッティ夫人』にしようと、心に決めたのだ。
すると、またすぐにハルナさんからメールが届いた。
「かなりふざけた名前ですね。でも『マッティ夫人』も言われたことがあるので止めて下さい」と。
「言われたことあるんかい!」
私は深夜にもかかわらず、おもいっきり声に出して突っ込んでしまった。と同時に、
「ハルナさん……なんて哀しい人なのだろう」
と、同情の念を抱いた瞬間でもあった。
私はすぐさま、自分の汚れた脳細胞に喝を入れ直し、次の名前を考えた。そう、60億人以上がひしめくこの世界で、誰も呼んだことのないような名前を──。
そしてついに、ある名前を考えついた。「これなら絶対に大丈夫」と、確信した私は、早速ハルナさんにメールを送った。
「『まいっちんぐマンティコア先生』というのはどうでしょう?」と。
大丈夫だ。『まいっちんぐ』に『マンティコア』と続いて『先生』なんて、誰も考えつかない。だいたい『マンティコア』って何だ? 自分で書いてて意味不明なワードだった。
「そうだ、後でネットで調べてみよう」と思ってる矢先に、ハルナさんから返信のメールが届いた。
そして私が、ドキドキしながらメールを開いてみると、私の気持ちを踏みにじるかのように、こう書かれてあったのだ。
「なんか気に入らないので、もっと真面目に考えて下さい」
ふざけんなよ! このメスブタがーっ!
私はついにキレてしまった。
私は意地でも、ハルナの許可を取ろうとメールを送り続けた。
「『マタニティ横丁』っていうのはどうですか?」
ダメだった。
「『まつぼっクリスティ』っていうのはどうですか?」
ダメだった。
「『マッティのマーティはあなたのマティにマッティする』ってのはどうですか?」
ダメだった。
私の考えた名前は、ハルナによりことごとく粉砕されてしまったのだ。そこで私の脳裏に、あることが過ぎってしまう。
「ひょっとして、おちょくられてるのではないか?」と。
そうだ、きっと私は、ハルナにおちょくられているのだ。そう思った私は、結局、
「『マグマ大使』に決定します。もう変更はしません」
と、ハルナにメールして、この不毛な『ネーミング合戦』に、ピリオドを打ち付けたのだった。
時刻は深夜3時を回っていた。私は『マンティコア』の意味を調べて床に着くことにした。
・マンティコア
インド生まれの架空の怪物で、森林に住家を構え、人間を襲うこともある。
……だそうだ。このままではシャクなので、私はハルナに対して、ささやかな復讐をすることにした。ブログの主人公の名前を『まつこ』のまま変えずに、通したのである。
なので、私とハルナが深夜に『ネーミング合戦』をしていたことを知る者は誰もいない。ハルナが誰かに、言わなければの話だが。
そして、この『ネーミング合戦』から二ヶ月を過ぎたくらいに、私はある事実を、目の当たりにすることとなる。
知り合いがブログを書いていたので、私は読みにいくことにした。そして、そのブログにはこう書かれてあった。
「このサイトで知り合った『ハルナさん』と付き合う事になりました(はぁと)」と。
私はガク然とした。
ハルナ……ハルナ! ハルナ!
きっと生涯忘れないであろう、その名前。二ヶ月前に、私のブログにケチをつけ、さらにはおちょくり、私を寝不足にまで追いやった、にっくき女ハルナ!
その知り合いの彼は、私の『まつこが主人公』のブログにも「面白い」とコメントしてくれた人だ。たぶん彼は、ハルナの本性を知らない。だが私は、そのことを彼には告げず、そのブログに、
「おめでとう、お幸せに」
とだけコメントし、そのコミュニティサイトを退会した。
「ハルナの運命に幸あれ!」と、皮肉めいたことを考えながら──。
ただ、私の願いを一つ言うのであれば、このエッセイを「ハルナが読んでいませんよーに」と、いうことだけである。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる