この身が朽ち果てる前に

レン太郎

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運動会のブルース

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 運動会には、あまり良い記憶がない。小学五年生の時の学年別の出し物には、心ない先生の独断と偏見により、なぜかソーラン節をするハメになった。
 まだ羞恥心があふれている盛りの、いたいけな我々小学生は「やーれんソーランソーラン、ハイハイ!」と、半ば強制的にソーラン節を踊らされた。これがけっこう恥ずかしい。巷で流行っていた『ダンシング・ソーラン節』ならば、まだカッコイイと思ったのかもしれないが、私達が踊らさたのは、昔ながらのコテコテのソーラン節である。
 好きな女の子にカッコイイところを見せたい年頃なのに、ガニ股に足を広げ「ホイサ! ホイサ!」と踊る様は、拷問意外のなにものでもない。

 あと、組体操というのがある。二人組またはそれ以上で陣形を作り、人と人とが組み合わさる事により、何かに見立てるというやつだ。
 最初は二人組のペアからはじめる。私が組んだ相手は、W田くんという奴だった。組体操は、ソーラン節とは違いカッコイイ。私はソーラン節の屈辱を晴らすべく、W田くんと一緒に頑張ろうと思っていた。
 だが、残念なことに、このW田くん。小学生にして、強烈なワキガの持ち主だったのだ。W田くんに近付くと、プーンとワキガの臭いが、私のデリケートな鼻の粘膜を刺激した。でも言えない。「W田くん臭いよ」なんて言葉、私には言えなかった。
 結局、私は組体操の間中、鼻で息をしないという荒業をするハメになり、危うく天に召されそうになったのである。

 唯一の楽しみといえば、フォークダンスだ。この時ばかりは、シャイな私も、積極的にフォークダンスを踊った。なぜならば、好きな女の子の手を握れる、絶好の機会だからである。
 その当時、私が恋焦がれていたのは、同じクラスのT美ちゃん。私は他の女の子と踊っている間でも、近付いてくるT美ちゃんとの華々しいコラボレーションに胸を高鳴らせていた。そして、T美ちゃんとの順番が回ってきた時は、もう私の心臓は爆発寸前である。ハートマークをかたどったものが私の体操服の胸の部分にくっきりと浮かび、ドックンドックンと飛び出していたのがよくわかる。
 そして、ワンフレーズが終わったところで、T美ちゃんは私の元を離れ、違う男のところへ──。その時の私は、人目をはばからず大粒の涙を流していたのであった。

 運動会で一番イヤだったのが、50メートル走である。なぜなら私は、究極に走るのが遅いからだ。だいたい六人くらいで走るのだが、私はいつも六番。良くても五番くらいの順位だった。走るのが遅いのは今でも変わっておらず、人前で走るのは極力さけたい。
 自慢ではないが、私は身長が高く足も長い。街を歩けば「モデルさんですか?」と声を掛けられても、まったく不思議ではないくらいの風貌の持ち主だ。きっと、強烈なスプリンターだとも思われていることだろう。
 だが遅い。私が走る姿を見た人は、思わず「え?」と、自分の目を疑うに違いない。

 だが、そんなある日、私はとても素晴らしい情報を、入手する事となったのだ。

 アナタは、こんな光景を見たことはないだろうか。運動会の父兄参加リレーで、頑張り過ぎたお父さん達が、すってんころりと転ぶ姿を。
 実はあのお父さん達は、昔は走るのが速かった人達である。学生を卒業し、社会に出たお父さん達は、どこに行くにも電車、バス、車を利用し、走る機会を失ってしまっている。そんなお父さん達が、我が子の運動会のリレーに参加すると、必ずといっていいほど、悲劇が襲い掛かるのだ。
 昔は速かったお父さん。だが、肝心の身体は鈍りまくっているので、速かったイメージだけが先行し、足がもつれて転んでしまう。
 そう、描いたイメージ通りにならないと、人間の身体というのは、ついて行けなくなってしまうものなのだ。私はこの情報を聞いた時、こう思った。

「リベンジができる」と。

 今まで、かけっこでビリっけつだった私は、当然のことながら速く走るイメージなど持ち合わせていない。走っても、イメージが先行して転んでしまうといったハプニングは、私には起こらないのである。なので、父兄参加リレーで走ったとすれば、転びまくるお父さん達を尻目に、トップを独走することができる。
 今まで運動会という舞台で、日の目が当たらなかった私は、ついにスポットライトの脚光を浴び、一度も切ることがなかった一位のゴールテープを、そのメタボリック予備軍な腹で切ることになるであろう。
 子供は「パパおめでとう」と、私の元へ駆け寄り、観覧席で見ていたワイフは、ハンケチで感動の涙を拭うのだ。そんな未来が、私には待っている。

 あと最後に、「そんな妄想はいいから早く結婚しろよ」との突っ込みは、ナシの方向でお願いしたい。
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