ウォルヴァンシアの王兄姫~番外編集~

古都助(幸織)

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~たとえばこんな小話~

真夏日和~カイン&レイル編~

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※『たとえばこんな小話』第一弾です。
 短いです。すぐ終わります。
 今回は、突然真夏の暑さに襲われたウォルヴァンシア王国、王宮内にあるカインの部屋での一コマです。



「カイン皇子、失礼する……」

 少し疲れ気味の声音でカインの部屋へと訪れたレイルが、庭に続く外窓の開いた部分に腰かけているカインの姿を見付けた。いつもの黒一色の服装ではなく、……思いっきりラフそうな恰好。
 袖のない黒シャツと、長い生足を晒したカインの涼しそうな姿……。
 珍し過ぎるその姿に一瞬動きを止めていたレイルが、その場所へと近寄っていく。
 ウォルヴァンシア王国は、普段であればどの季節でも変わらず過ごしやすい国だ。
 しかし、今日に限っては違った。
 朝から、物凄く蒸し暑い熱帯のような気候が国を襲っており、体調を崩す者が続出し、王宮医務室は大忙しだ。
 レイル自身も、出来ればラフな涼しい恰好でいたいところだが、第一王子である以上、気の抜けた姿を晒すわけにはいかないと思い、いつも通りの恰好でこの暑さに耐え抜いているのだ。
 なのに……、目の前のカインの恰好は彼にとって羨ましいにもほどがある。

「あぁ、レイルか。……お前、よくそんなクソ暑い恰好でいられるな?」

「仕方ないだろう。俺が今のカイン皇子のような姿をしたら、王宮の者達に驚かれてしまう」

「……この暑さだぞ? 誰も気にしやしねぇよ。むしろ、その恰好でいられる方が迷惑っつーか、……暑苦しい」

「――!!」

 グサグサッ!!
 言われるまで、自分の立場やこうあるべきだとという考えしか持っていなかったレイルは、その発言に、確かにこの格好は傍(はた)から見れば暑苦しい! と、自覚に至った。

「よいせっと……。まぁ、これでも飲んで涼んでいけよ」

「……これは?」

 カインが足元に置いておいた、冷たい氷が沢山入った水入りの大きなタライから、長細い瓶を二つ取り出し、片方をレイルへと差し出した。

「朝の内に城下で買って来たんだよ。炭酸飲料、冷やしておいたから、美味いぞ」

 べきっと蓋を開けて、一気に喉奥へとそれを煽ったカインを眺めながら、レイルも暑さのせいで渇いていた喉を潤す為に、炭酸飲料を口の中に含んだ。
 シュワリと冷たい炭酸の味が広がり、そこに少しだけ酸っぱい果実の味が感じられる。

「暑いからこそ、この冷たさと味が心地よく感じるな。カイン皇子、有難う。良い物を貰った」

「この暑さだからなぁ……、はぁ、……よっと」

肌に張り付くシャツをくいっと引っ張ると、カインは横から一枚の団扇(うちわ)を手に持ち、それをパタパタと振って、服の中を扇ぎ始めた。
 貴族たちが使う羽根付きの扇にも見えるが……と、レイルは首を傾げた。
 彼にとってはまだ見た事のない代物で、不思議そうな顔でカインに問いかける。

「あ? これか? 前にユキが元の世界に里帰りした時によ、土産にってくれたんだよ。真ん中に変な魚みたいなのが描いてあるんだよなぁ」

 そう言って一度扇ぐのをやめたカインが、団扇に描かれた珍妙な魚の絵をレイルへと見せた。
 大きく丸い目と、たっぷりと重量のありそうな赤いボディの魚の絵……。
 彼らは知らないが、所謂、『デメ金』こと、金魚の一種である。

「魔物か何かだろうか……」

「ユキの世界には魔物はいないって話だけどな。ま、インパクトあって面白ぇから、俺としては良いけどよ」

 ……というよりも、ただ単にユキからのお土産である物だから、カインはこの団扇を捨てる事もせず、大事に持っているのだろう。レイルは暑さにやられそうな頭で思った。
 どんな珍妙な代物でも、好きな人から貰った物は宝物になりえる。
 そういう理屈だ。

「それより、何か俺に用事があったんじゃないのか?」

「あぁ、すまない。忘れていた。実は、一時間くらい後に、ユキ達と出掛ける約束をしたんだが、カイン皇子もどうかと思ってな」

「そうだなぁ、……ま、部屋の中でこうしてるよりスカッとしそうだな。行き先は決まってんのか?」

「あまり外に居過ぎると、倒れてしまいかねないからな。一応、城下にあるカフェにでも行こうかという話にはなっているんだ」

 なにせ、今日のこの炎天下である。
 外で長時間過ごすには不向きだ。というか、三十分でもきついかもしれない。
 レイルから話を聞いたカインは、室内で寛げる楽しそうな場所をピックアップしながら、
 一時間後の待ち合わせについて、自分も案を出し始めた。
 その時……。

 ―ガチャ。

「おい、カイン。暇なら医務室の手伝いをしろ。人手が足りないせいで、セレス姉さんが今にも倒れそうでな」

「「……」」

 扉へと振り向いた二人は、やけに涼しい顔で汗のひとつも掻いていない人物、
 急に訪ねて来て手伝いをしろと言った王宮医師のルイヴェルに怪訝な顔をした。
 何だこいつ……、この暑さを喰らってるくせに、いつもと何も変わらない。
 というか、全体的に見て物凄く涼しそうだ。

「ルイヴェル……、お前、何でそんな平気そうな顔してんだよ。この暑さだぞ? 何で汗掻いてねぇんだ……」

「完全に暑さで頭をやられているな。何故、魔力で体温調整をしない? もしくは、術で自分の周りに氷術を調整して張っておけば、ある程度は楽になると思うんだがな?」

「「……あ」」

「お前達のように、術を行使する事を忘れている奴らが、次々と医務室に運ばれていてな……。まぁ、この暑さだから仕方ないが、まさかお前達までもとは……。すぐに術をかけてやるから、医務室の手伝いに来い」

 口を開けてぽかーんと固まっているカインとレイルの頭を軽く小突くと、ルイヴェルは呆れたように目を細め、二人の体温を術で調整してやった。

「……俺達、何やってたんだろうな」

「……あぁ。今、ようやく頭が働き始めた気がする」

 そうだった……。自分達は普通に術が使えるのだと、それを応用すればこんな暑さ何でもないと……、何故気付かなかったのか。空から照り付ける陽を一度見上げ、二人はがっくりと肩を落としたのだった。
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