ウォルヴァンシアの王兄姫~番外編集~

古都助(幸織)

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IFルート

IFルート・ルイヴェル編~惑う熱の行方1~

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※これは、本編には全く関係のないお話です。
 もしも、のIFルートです。
 王宮医師ルイヴェル×幸希の片想い設定でのお話です。
 上記のカップリングを受け入れられない方、IFルートに対して、抵抗や嫌悪感がある方は、お戻りになられて下さいますようお願い申し上げます。


 ――Side 幸希


「よいしょ……。ルイヴェルさん、資料お持ちしました~。どこに置きましょうか?」

「あぁ、棚の横にでも置いておいてくれ。後で使う」

 ウォルヴァンシア王宮の二階にある大図書館から借りてきた薬草関連の本を両手にどっさりと抱えて王宮医務室に戻ってきた私は、その中にある調合用の部屋へと足を踏み入れた。
 調合部屋は、作業台の所で薬草を手に何か考え事をしているルイヴェルさんのいる場所だけが明るくて、後は薄暗い仕様となっている。
 そのせいか、足元に何があるか見え難くて、……ちょっと、歩きづらい。
 
「え~と、棚の横……」

 私から見て、作業をしているルイヴェルさんの斜め背後左側に配置されている大きな棚。
 その場所にずらりと並んでいる薬瓶は、全て、ルイヴェルさんと、その双子のお姉さんであるセレスフィーナさんが調合した物ばかりだ。
 王宮医師としてのお仕事は勿論、お二人とも魔術師団のお仕事もあるというのに、外部から調合品の依頼まで引き受けていたりする。
 だから、時折寝不足気味の姿を見かける事もあるのだけど、魔術と医術の名門、フェリデロード家の出身であるお二人にとっては、別にどうという事もないそうだ。
 まさに研究職の鑑、といったところだろうか。
 中身の液体が見える薬瓶には、ひとつひとつ薬の名前が書かれたラベルが貼られている。

(綺麗な色合いの薬は、まぁ、見る分には楽しいのだけど……)

 あきらかに危険な色をしている液体の効能は一体……。
 瓶の蓋を抜いたら絶対に異臭がしそうな予感がする薬瓶に視線がいった私は、いまだにその効能を聞けていないそれらにぶるりと震えたその瞬間。

「――えっ?」

 薄暗い足元に何か硬い感触を感じた私は、うっかりにもほどがある勢いで前のめりに倒れ込んだ。
 両手に抱えていた本ごと、薬瓶の並ぶ棚に激突。
 冷たい床に放り出されてしまった私の身体と、ドサリドサリと散らばった本達。
 そして、追い打ちをかけるように迫ってくる、――薬瓶の棚!!
 
「きゃああああっ!!」

 衝突を覚悟した私は逃げる事も忘れて瞼をぎゅっと強く瞑ってしまう。
 棚にただぶつかるだけならまだしも、大量の薬瓶、プラス、効能不明含むの被害をも覚悟した私だったけれど、……その時は、いつまで経ってもやって来なかった。
 床に次々とぶつかって割れていく薬瓶の音。
 それが静まって……、恐る恐る瞼を開けてみると、まず一番最初に、僅かな苦痛の気配を滲ませる低い吐息が落ちてきた。

「ルイヴェル……、さん?」

「……調合室では、十分に気を付けろ、と、そう注意しておいたはずなんだがな?」

 その右手で倒れ込んでいる棚を支え、自分の下に私を庇ってくれているルイヴェルさんの姿……。
 いつも染みひとつない白衣の内側で守られるように、私は眉根を寄せている王宮医師様をぽかんと見上げ、何がどうなっているのかを理解した瞬間、一気に血の気が引いた。

「きゃああああっ!! る、ルイヴェルさんっ!! ごめんなさい!! ごめんなさい!! お、お怪我は!?」

「大丈夫だ……。今、邪魔な物をどける。お前は離れていろ」

「は、はいっ」

 お手伝いをしていたはずなのに、まさかこんな事になるなんて……。
 白衣をぐっしょりと濡らしたルイヴェルさんは私を自分の下から逃がすと、重たい棚を元の場所に押し戻してくれた。
 私はルイヴェルさんのお陰で無事だったけど……、床には散々な結果が広がっている。
 無事な瓶もある。だけど、それよりも砕け散って中身がぶちまけられてしまった物の方が多い。
 それに……、もっと酷かったのは。

「ルイヴェルさん……、その、左手……っ」

 棚を戻し終わり、作業台の方で白衣を脱いだルイヴェルさん。
 その際に、光に当たった左手の状態をしっかりと見る事が出来た。
 私を庇った時に、割れた瓶の破片でぐっさりと抉ったらしいその左手から、血が溢れ出している。
 ルイヴェルさんの傍に駆け寄った私はその左手を掴み、すぐに治療を申し出た。
 けれど、ルイヴェルさんは普段と同じ冷静な表情で私の手を外させてしまう。

「掠り傷だ。俺よりも、白衣の方が重症といったところだな」

「何言ってるんですか!! 早く手当てしないと!! こっちに来てください!!」

「平気だと言っているだろう。それよりも、お前の方はどうなんだ?」

「え?」

 長身の背を生かして自分の左手を頭より高い位置に持ち上げたルイヴェルさんが、ぴょんぴょんと飛び跳ねて治療を申し出る私へと尋ねた。

「怪我をしているなら言え。それと、口に何か入ったりしなかったか? もしそうなら、お前の治療をしてやるから遠慮なく申告しろ」

「わ、私は大丈夫です!! それよりも、ルイヴェルさんの方が怪我人なんですから、早く手をっ!!」

「はぁ……。落ち着け。医者はここにいるだろう?」

 確かにそうだけど、それでも、私を庇って怪我をしてしまったのだから、治療くらいはさせてほしい。あと、この調合部屋の片付けと、白衣の洗濯もしっかりやるつもりだし!!
 じっと視線を捉え合う事数分……。
銀フレームの眼鏡越しに、ルイヴェルさんの深緑が諦めの気配を抱くのが見えた。 

「わかった。治療はお前に任せる。だが、この部屋の片付けは俺がやる。いいな?」

「でもっ」

「調合した薬の中には危険な物もある。片付けには、その後始末が出来る知識と対処を知っている俺が適任だ」

「うぅ……、は、はい。わかりました」

 ルイヴェルさんが妥協をしてくれただけ、有難いと思うべきなのだろう。
 中身がぐちゃぐちゃに混ざり合ってしまった床のそれらに視線を下ろすと、私は溜息と一緒に調合部屋を後にした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ルイヴェルさんの怪我を治癒の術で治療させて貰ってから一時間後。
 二階の大図書館に本を駄目にしてしまった事を謝りに行っていた私は、男性司書のアイノスさんを連れて王宮医務室へと戻ってきた。

「ルイヴェルさん、ただいま戻りました」

「邪魔するよ。……おやおや、これはまた、凄い事になってるね」

 私と一緒に医務室へと入ったアイノスさんが、テーブルに置かれてある本の状態に苦笑を漏らす。
 一応……、乾かされてはあるものの、あの時の被害はしっかりと残ってしまっている。
 表紙も、中身も、よれよれの皺々状態……。
 申し訳ない気持ちでアイノスさんと本にペコペコと頭を下げていると、調合部屋の方から一段落したらしいルイヴェルさんが出てきた。
 
「お疲れ様です、ルイヴェルさん。今、お茶を淹れますね」

「頼む……」

「ははっ、相当にお疲れのご様子だね、ルイヴェル。ユキ姫様を庇っての名誉の負傷って聞いたけど、大事がないようで何よりだよ」

 力なくソファーに座り込んだルイヴェルさんに、アイノスさんが楽しそうに声をかけ始める。
 その様子を背中に感じながら、疲労回復に効く茶葉を選び、それを手に取ってお茶を淹れていく。
 私とアイノスさんは、ん~、どれにしようかな。

「まぁ、今回はちゃんとユキ姫様の御身を守ったのだから、本を駄目にしてくれたペナルティはなしにしてあげるよ。……うん、修復にざっと、一週間、ってところかな」

「それは有難い事だな……、ふぅ」

「アイノスさん、ルイヴェルさん、お茶が入りました。どうぞ」

「あぁ、有難うございます、ユキ姫様」

 本に関する話をしていたお二人の前にお茶を並べた私は、ほっとしながら向かいの席に腰を下ろした。この異世界エリュセードでは、私が元いた世界では出来ないような修復方法も数多く確立されている。だから、たとえ本が全部水浸しになっても、長い年月の間に文字が読めなくなるような段階まで薄れたとしても、修復は可能。
 ただし、例外的な意味での破損などを受けると、二度と修復出来ないケースもあるのだとか。
 今回の場合は、様々な効能を持つ薬瓶の中身を被ってしまったケースになるけれど、十分に修復可能だと、太鼓判を押して貰えた事に安堵する。
 だけど……、ルイヴェルさんとセレスフィーナさんが作った調合薬はほぼ全滅。
 その上、調合中だった薬も、結局は駄目になってしまった。
 あぁ、この損失を……、しでかしてしまった大罪を、どう償えばっ。
 よよよ……と、私が丸い銀トレイを胸に抱き締めて内心で嘆いていると、アイノスさんが小さく噴き出すように笑った。

「ふふ、大丈夫ですよ、ユキ姫様。ルイヴェルの事ですから、貴重な薬や依頼品の類は全て別に保管してあるはずです」

「いや、……駄目になった薬の中には、近々、納品予定の物が幾つか」

「ええええええっ!?」

「冗談だ。俺とセレス姉さんがそんなヘマをするわけがないだろう?」

 な、何という心臓に悪い冗談をっ!!
 ルイヴェルさん達の信用を落としてしまうかもしれないと本気で焦ったのに、お疲れ気味でも人をからかう事を忘れない王宮医師様は、ティーカップを片手に、してやったり、と微笑んでいる。 
 まったく……、私が幼い頃と変わらない。時が経って、私が成長してから再会しても、こうやって意地悪な事を言ったりしては、人の反応を見て愉しんでばかり。
 それが、ルイヴェルさんなりの愛情表現なのだと、よぉ~くわかってはいるけれど……。

「何だ?」

「何でもありませんっ」

 うぅ……、悔しいけれど、今回は私が全面的に悪かったのだから、ここは、我慢、我慢!!
 余裕の体(てい)でその長い足を組んだルイヴェルさんからプイッと顔を背け、一気に紅茶を飲み干す。

「おやおや、相変わらずルイヴェルの愛情を一心に受けてらっしゃるんですね、ユキ姫様は」

「あ、アイノスさんっ、怖い事言わないでください!! 意地悪を受けるこっちは色々と大変なんですから!!」

「ふふ、けれど、お嫌ではないのでしょう? 意地悪をされても、ルイヴェルの事を拒む事はせず、好きなようにさせていらっしゃる」

「そ、それは……、まぁ、ルイヴェルさんの意地悪は、悪意からじゃない、って、知って、ます、から……」

 ――って、私は何を恥ずかしい事を言ってるの!!
 こんな事を言ったら、大魔王様がさらに調子に乗って、今まで以上の意地悪を!!
 ……と、顔を真っ赤にしながらルイヴェルさんの様子を窺うと、あれ?

(てっきり、ニヤリ!! な感じの意地悪な笑顔全開になってると思ったのに……)

 何故だか、ルイヴェルさんは何の表情も浮かべずに黙ったままだった。
 アイノスさんもそれを不思議に思ったのだろう。
 右肘でルイヴェルさんの肩を小突いて、その意識を現実に引き戻す。

「何を考えてるのかな? ルイヴェル」

「……何でもない」

「ふぅん……、何でもない、か。――あ、ところで、話は変わるんですが、ユキ姫様」

「はい?」

 意味深に、ルイヴェルさんとアイノスさんの視線が交わったかと思うと、そう切り出された。
 温厚で優しそうな笑顔のアイノスさんだけど、何か……、そこに企んでいるような気配がちらほらと。

「アレクとカイン皇子との御関係は、その後、どうですか?」

「ぶっ!! けほっ、けほっ、きゅ、急になんですかっ」

「いえ、あの二人から求愛をお受けになって、もう二年以上が経ちますので……。正直、俺だけでなく、王宮に勤めている者達の関心の的なんですよ。それに、各国からも御縁談のお話が舞い込んでおられるでしょう?」

 それは、まぁ、確かに、その通り、なのだけど……。
 アレクさんとカインさん、二人から想いを告げられて二年……。
 私の恋心を育ててくれると、そう心を尽くしてくれている二人には申し訳ないけれど、いまだに、どちらに対しても、答えは同じ。
 大切な存在、心を許し合える友人、そこから先には、まだ……。
 俯きながら正直にそう答えた私に、アイノスさんが優しい笑みで応えてくれる。

「大丈夫ですよ、ユキ姫様。誰も責めてなどおりません。ただ……、これからもっと……、困ったお立場になられるのだろうな、と、少し心配でして」

「え? もっと、困った立場、ですか?」

「ええ。まぁ、楽しみでも……、あるんですけどね」

 これから何か面白い事が起きる。そんな予兆を感じさせる笑顔でアイノスさんがちらりと見たのは、隣に座っているルイヴェルさん。
 冷ややかな視線がそれに応えたけれど、ルイヴェルさんは何も言わない。
 やがて、楽しげなアイノスさんを取り残すようにソファーから立ち上がり、今度は私へと視線を向けてきた。

「ユキ、これからバレスの町に行く。お前もついて来い」

「え? 私もですか?」

「荷物持ちだ。そのくらいの詫びはしてくれるんだろう?」

「は、はいっ、勿論!!」

 何だか少し? 様子がおかしいように感じられるルイヴェルさんから身支度を整えてくるように言われた私は、一度自分の部屋へと戻る事になったのだった。
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