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~季節イベント~
ウォルヴァンシア・バレンタイン③
しおりを挟む騎士団を後にした私は、一旦ユキ姫様の部屋の前で別れると広間へ夕食の支度に向かいました。
メイドですからね、ちゃんとお仕事をしなくては。
厨房から出来上がった料理長の愛情溢れる美味しそうな料理の数々をトレイにのせ、広間に運び込んでいく。
人数分、きちんと行き届いているかどうか確認し、万端の準備を整える。
それを終えると、一旦広間の隅に下がり、皆様が来るのを控えて静かに待つ。
「さぁ~て、今日の夕食は何かな~」
ご機嫌な様子で広間に現れたのは、我らがウォルヴァンシアの至上ともいうべき御方。
私達一人一人に気遣いのお言葉をかけてくださりながら、長く広いテーブルに腰を下ろされた。
レイフィード・ウォルヴァンシア国王陛下。蒼い髪が特徴的な、穏やかさと茶目っ気をもたれる心優しき民を統べる王、その人だ。
今日もお仕事で大変であられただろうに、にこやかな笑みを崩すことはない。
そして、国王陛下に続くように一人、また一人と皆様が広間に足を踏み入れ、ご自分の席におつきになられる。
(あ、ユキ姫様だわ……。カゴは……、うん、持ってるわね)
きっとこの夕食の時間で、纏めて皆様にチルフェートを渡すのだろう。
食事が始まる前に、ユキ姫様が、まずは三つ子の王子様方にチルフェートを配るのが見えた。
可愛らしい小箱仕様のそれは、子供が好きそうな飾りがつけられていて、受け取った王子様方も満面の笑顔でユキ姫様に抱きついている。
ゴクリ……。
給仕のために、テーブルへと向かった私は、メイドの顔を装いつつも、ユキ姫様の行動に目が釘付けだ。
誰に渡すんですか?その本命仕様!! 粗相をしないように振舞うのが精一杯だ。
三つ子の王子様方にチルフェートを渡し終えると、今度はユキ姫様のお母様とお父様にそれが配られる。
当たり前ですけど、今のところ本命仕様は出てきていません。
「良いな~、ユキちゃんの手作りのお菓子なんて、勿体なくて食べるのに躊躇しちゃうね~」
のん気な国王陛下の声をBGMに、ユキ姫様が「ちゃんと叔父様にもありますよ」とにっこり笑って答えている。
さぁ、次はいよいよ大穴とも呼べるべきレイル殿下の目の前にユキ姫様がっ。
……。
「レイル君には、この黄色い箱をどうぞ。チルフェートを丸い形にしたの、私の世界ではトリュフっていう形と仕様のものでね。良かったら食べてほしいな」
「あ、ありがとう……。ユキの手作りが食べられるなんて、嬉しいよ」
「いいな~!レイル君いいな~!!パパもユキちゃんの手作りほしいな~!!」
「父上、少し静かにしてください」
幸せな気持ちを横から粉砕してきそうな騒々しい国王陛下の横やりに、レイル殿下が、珍しく冷たい眼差しと声音で国王陛下を一蹴しました。
あぁ、陛下……、思わぬ殿下の反撃に傷付いているんですね。
ぷるぷると震えながら、テーブルに突っ伏してしまわれた。
にしても……。
(レイル殿下でないとしたら、誰なのかしら……)
まさか……。
ユキ姫様が国王陛下の元にカゴをもって向かわれるのが見えた。
まさか……、まさか!!
カゴからラッピングされたチルフェート菓子を出すのがスローモーションに見える。
まさか……!!
(大穴ぶっ飛んで、叔父×姪御なんですか!?まさかの!?)
大きく驚愕で見開かれた私の瞳。
ユキ姫様の一挙手一動を見逃してなるものか!!
そうよね、ないとは言いきれないものね。
姪御を深い愛で包む容姿端麗なレイフィード国王陛下。
パッと見は、三十代前半の外見にあの包容力のある懐の深さ。
恋したって、不思議じゃないかもしれない!!
それはそれで、非常に萌えます!!
私は知らず、拳を握って小さくガッツポーズを決めた。
しかし……。
「はい、レイフィード叔父さん。いつもお世話になってます。これからも、よろしくお願いしますね」
ユキ姫様がカゴから取り出したのは、……紫の色をした大きめの箱。
それは、本命仕様の物じゃなかった。
だって、本命用のは……。
衝撃で動きが止まってしまった私は、メイド仲間に心配そうな目を向けられていたけど、頭の中の思考フリーズまでは解除することは出来なかった。
もう、ユキ姫様にとっての恋愛対象者になりそうな人が、記憶にない。
これは一体、どういうことなんだろう。
ハイテンションで喜ぶレイフィード陛下をよそに、私はユキ姫様がもうひとつのカゴをテーブルの上に置き、メイド仲間や騎士たちに配るのをどこか遠くに感じながら見ていた。
「「「ありがとうございます、ユキ姫様!!」」」
仲間達がユキ姫様の気遣いに頬を緩ませながら、口々にお礼の言葉を奏でる。
そして、ユキ姫様が動けずにいた私の前まで来ると、意外な行動に出た。
「リィーナさん、いつも私に王宮のオススメポイントや、ためになる情報をありがとうございます。ずっとお礼が言いたかったんですけど、なかなか機会に恵まれなくて」
「え……」
そう言って、ユキ姫様がカゴから取り出したのは、……あの本命仕様だと思っていた凝ったラッピングがされていた作りの袋。
ずっと、特定の異性にプレゼントするんだろうなと妄想していた私には、本当に意外すぎて……。
手元におさまったその袋に、どうしていいかわからなくて言葉を失ってしまう。
「リィーナさんが厨房に来た時は驚きましたよ? 内緒にして、あとでお礼と一緒に渡したかったので」
「ゆ、ユキ姫様っ」
「この箱ですね、こうやって……」
一度、私の手から袋を持ち上げると、シュルっと袋をラッピングしていたリボンをユキ姫様が解いた。
すると、袋の中から薄ピンク色の可愛らしい女の子向けのデコレーションがされた箱が顔を出した。
ゆっくりと、私の手の上に、それが置かれる。
蓋を開けると、円形のケーキ菓子が目に飛び込んできた。
季節の果物の一部を使って飾り付けられたそれは、チルフェートと抜群のコラボレーションを魅せてくれました。
「私のような者に……こんなっ」
「あぁっ、リィーナさん、泣かないでくださいっ。そんな、大したものじゃないんですからっ」
「いえっ、私……、今まで生きてきて、人生で一番嬉しい日ですっ。こんなに……うぅっ……ユキ姫様ぁっ」
「きゃっ」
箱を手に持ったまま、私は感動と喜びでユキ姫様に縋りついてしまった。
一介のメイドにすぎない私が、ユキ姫様にこんなサプライズを受けるなんて……。
もう、嬉しすぎてどうにかなってしまいそうです!
「あぁ、リィーナ、ずるいよ~!僕もユキちゃんとハグしたいな~!」
「はぁ、レイフィード、邪魔するんじゃないよ」
「ふふ、女の子同士仲が良くてなによりね~」
「「「りぃーなとゆきちゃん、なかよし~!!」」」
「リィーナ、良かったな」
皆様の温かい言葉の数々を聞きながら、私は暫くユキ姫様の腕の中でその幸せに浸っておりました。
予想を通り越した、ありえないほどの幸せ……。
出来る事ならば、これが夢ではありませんように……。
そう願いながら、私の幸せに満ちた一日は夜の懐に抱かれながら過ぎていったのでした。
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