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第六章・アレク×幸希編~蒼銀の誓いと咲き誇る騎士の花~

竜の皇子の激昂

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 ――Side 幸希


「うぐっ!!」

 見知らぬ森の中に転移が終わった瞬間、威力増強の効果を付加して打ち込んだ一撃。
 カインさんのお腹にめり込んだ拳、睨み上げている私の顔を、カインさんがたらりと冷や汗を流しながら見下ろしてくる。その視線をしっかりと受け止め、一言。

「自業自得です」

「ははっ……。番犬野郎の前じゃ大人しくしてるくせに……、ホント、俺には容赦ねぇなぁ」

「実力行使で止めないと、カインさんが傷付くと思ったからです。それと、カインさんに対しては、遠慮とか全然必要ないと思ってますから」

 最悪の出会いから始まった、私達の友人関係。
 私とカインさんの間には、王兄姫とか、皇子とか、そういう壁は最初から存在していなかった。
 お互いに言いたい事を言い合って、時には口喧嘩をしたり……。
最低最悪の関係から変えてきた、私とカインさんの、気心の知れた関係。
不器用で、口が悪くて、でも、……あったかい人。
お互いに分かり合っていると思っていた竜の皇子様だけど、今の彼が『誰』なのか……、全然読む事が出来ない。

「説明してください。カインさんは地上の民だったはずです。神の気配なんて……、感じられなかったはずなのにっ」

「俺だって知んなかったぜ。昨日まではな……」

「昨日、まで……?」

 カインさんのお腹から手を引き、一体何があったのかと説明を求める私に、彼は悲しそうな顔をして笑う。そっと包み込んでくる温もりは、狂気や怒りではなく、純粋な愛情に満ちている気がした。突き飛ばすべきなのか……、でも、拒んではいけない気もして。

「会いたかったんだ……。セレネ、俺の……、俺の、対(つい)」

「セレネ、って……、カイン、さん?」

「ソルから聞いてるはずだ。十二神が創った、……はじまりの世界。その地に生まれた、俺達二人の事を」

「――っ!」

 無から生まれし、原初の世界。十二神と、その地に生まれた、者。
 カインさんは、『俺達二人』と、そう言った。もうひとつ、『対』、とも。
 極めつけに、『セレネ』とまで呼ばれてしまっては……、答えはひとつだ。
 誰をも魅了する魔性の美貌。真紅から様変わりした美しい青。サファイアの宝石のような……。

「お父様が話してくれた……、青い石から生まれた神。それが、……カイン、さん?」

 セレネフィオーラと同じく、石から誕生した神。青い石から、生まれた……。

「レガフィオール……。それが、俺のはじまりの名だ」

 お父様は何も言わなかったけれど、確かにそうだ……。
 セレネフィオーラの魂を抱く私が生まれ変わっているのだから、レガフィオールだって同じ道を辿っていたとしてもおかしくはない。だけど……、それがまさか、カインさんだったなんて。

「ソルに叩き起こされた。いつまで寝坊助やってる気だ? ってな」

「そ、そう、ですか……。び、吃驚しました。……でも」

「でも、今のお前にセレネとしての記憶はない。だから、再会の喜びもなければ、レガフィオールをどう扱えばいいかもわからない、だろ?」

「は、はい……。すみません」

 私は話に聞いただけ……。カインさんのように、当時の記憶はない。
 お父様も、記憶を取り戻す事で面倒が生じる事があるかもしれないからと、セレネフィオーラとしての自分を思い出す必要はない、と。そう言ってくれた。
 だけど……、本当に、それで良いのだろうか。
 今、エリュセードに起きようとしている、下手をすれば、全世界を巻き込む危険性もある、恐ろしい災厄との決戦を前にして……。
セレネフィオーラとしての自分を取り戻さずに挑む事は、果たして……。

「ユキ……」
 
戸惑う私の頭を撫で、カインさんが顔を覗き込んだ途端に、また気配を変えた。
 私に対する懐かしさと、愛おしく想う心、揺らめく憎悪の炎。

「その記憶を、今呼び覚ましてやるよ」

「か、カインさん……? 何を」

「お前の相手が誰なのか、絆が深い一番近しい男が誰なのか……、思い出させてやる。番犬野郎に対する気持ちなんか、一時的な気の迷いだって……、本当に見えるべき相手を、想う相手を、今すぐっ」

「痛っ!」

 セレネフィオーラとレガフィオーラがどんな風にはじまりの世界で過ごし、互いをどう思っていたのか。それを思い出す事で、私の何が変わってしまうのか。
 今のこの人は、神の力を歪ませてしまう程の激情に駆られ、なりふり構わなくなってしまっている。記憶を目覚めさせる過程で、その力がカインさんの意思に同調し、都合の良い虚像を私に流し込む可能性も……。だから、私はもう一度右の手のひらを強く握り締め、全力で抵抗を――。

「いい加減にせんかぁあああっ!! この馬鹿息子がぁああああああっ!!」

「なっ!! ――あ痛(だ)ぁああああああっ!!」

 暴走を止める前に、その頭上から振り下ろされた凄まじい一撃がカインさんを襲った。
 突然現れたお父様の握りこまれた拳がカインさんの頭頂部を直撃し、――バタリ。
 ……、…………、…………え?

「安心しろ。みねうちだ」

「いやいやいやいや!! ちょっ!! お、お父様っ!! 全然みねうちじゃありませんよ!! だ、大丈夫ですかっ!? カインさんっ!! いやぁあああっ!! 血っ、血がぁあああああああっ!!」

 どう見ても殺る気満々の一撃だった!! 普通の人だったら、確実に死んでるから!! これ!! だっくだっくと頭から血を流しているカインさんを助け起こし、大慌てで治癒をかける私に、お父様はべっとりと血に濡れた右拳を払いながら言う。

「ユキ、甘やかしてばかりでは成長がないぞ。男たるもの、多少の傷や試練ぐらい」

「多少どころの騒ぎじゃありません!! もう……っ、何て事をするんですかっ」

「……そういうお前も、カインを叩きのめす気だったんだろう? 俺はちゃんと見ていたぞ」

「うっ……。お、お父様ほどじゃありませんからっ。……まぁ、来てくれて、助かりましたけど」

 遥か昔の、あの時と同じ悲劇を繰り返すわけにはいかない。
 嫉妬という抑えきれない感情の奔流に呑み込まれ、……後で傷付くのは、カインさんだから。
 神の力によって傷口を塞ぎ、暫くの間眠っているように術をかけたカインさんの頭を自分の膝の上に乗せ、私はお父様に尋ねる。

「カインさんが言っていました。自分は、レガフィオールだって……。本当ですか?」

 記憶のない私には、彼が本当にレガフィオール本人なのかを知る術がない。
 カインさんがレガフィオール本人だとしたら、私……、セレネフィオーラにとっては、特別な繋がりのある存在なのは、間違いないのだけど。
 お父様は意識を失っているカインさんの傍に腰を下ろし、お尻の部分をべしっと叩いて溜息を吐く。物凄く呆れた目で。

「気になっていた事があったんでな。本人に直接確かめてみるかと思い、……覚醒させてみたんだが」

「カインさんの封印は……、相当強いものだったんですよね? 神々であっても、誰も気付かない程の」

「俺が用意した『神殻』は、地上の民として生まれても、神だと悟らせない為の仕掛けを施しておいたからな。……まぁ、お前やレイシュには、意図的に神性を隠さない限り、見つけられてしまうわけだが」

 お父様がイリューヴェル皇国に転生した最初の時、エリュセード神族の誰も、その存在に気付く事はなかった。だけど、私とレイシュお兄様はお父様の子供だから……、その血を、力を色濃く受け継いで生まれてきたから。だから、見つけ出す事が出来た。
 
「すみません、お父様」

「ん?」

「私達がお父様の転生に気付いてしまったから、……後の時代でイリューヴェル皇国や各国の人達にご迷惑を」

「気にするな。第一、イリューヴェルの皇族は総じて、よく似た容姿を持つ者が多いだろう? シルフィールが災厄を利用し乱を起こした当時も、そのせいで散々右往左往したようだったからな」

 シルフィールは眷属であっても、私とお兄様のように、イリューヴェル皇国に転生したお父様を見極める力はない。あるとすれば、容姿の特徴を頼りにするくらいのところだったはず。
 だから、陰でディオノアードの鏡を持っていた神々にお父様の正確な居場所を教える事が出来なかったが為に、戦いが長引いてしまった。
 でも、……最初にお父様を見つけた! と、そう言ってしまったのは私なわけで……。
 と、落ち込みかけたところで、私は頭を振ってお父様をまっすぐに見返した。

「落ち込んだり、反省するのは全部終わってからにします」

「ははっ。その調子だ。……失った者の事をどれだけ想い、己の殻に篭り続けようと、出来る事は限られているからな。過去の事から学び、反省をこれからに生かす。それが、俺達に出来る事の全てだ」

「はい……」

「とまぁ、昔の事は置いておくとして、だ。俺が一度滅び、イリューヴェルの血筋に眠った後……、ようやく、自分の意思でこいつは、カイン・イリューヴェルとして、第二の生を選んだようだ。はぁ……、だというのに、俺が叩き起こすまでぐーすか寝ているとはな」

 イリューヴェルの血筋に施された神の術により、お父様や十二神の方々だけでなく、カインさんの、レガフィオールの力をも高め、その結果。
 彼(か)の神は、完璧に自身の存在を隠す事に成功した、と。
 
「でも、お父様には見抜かれてしまうんですね」

「俺の方が、遥かに力が強いからな。大体、俺が用意した『神殻』を使い転生しているのだから、俺が気付かないわけがないだろう? お父様の目は、節穴じゃないんだぞ」

「はいはい。お父様が凄いのは十分にわかってますけど……。そのせいで、ますますややこしい事になってるんですけど?」

 じろ~り……。この大変な時に、なんてタイミングの悪い……。
 カインさんの頭や頬を撫でながら睨む私に、お父様は気まずげにコホンッと咳ばらいをし、拗ねたように言い訳を始める。

「事前にちゃんと言っておいたんだぞ? 災厄の件が終わるまでは、色恋は隅に置いておけ、と」

「注意したくらいで、短気なカインさんが大人しくしていると思うんですか?」

「……ここまで阿呆だとは、思わなかったものでなぁ。まぁ、何が起きてもいいように、俺が付いて来たわけだから、……その」

「お父様……」

「……すまん」

 多分、私の所に来たがったカインさんにせがまれ、仕方なく許可したのだろう。
 まったく……、身内には特にベタ甘なんだからっ。
 
「だがな、ユキ。カインを連れて来たのは、そいつに確かめてほしい事があったからもあってだな」

「確かめたい事? 何ですか?」

「お前達二人の『役割』についてだ」

 神々にはそれぞれ司る力があり、中には、持って生まれた役割が存在する場合もある。
 お父様の力の核は炎で、命を鼓舞し、導く者。確か……、存在しているだけで、全ての世界に良い影響を与えているとか何とか、お母様が言っていたような。
 他の神様達も、お父様や原初の神々には及ばないけれど、世界に様々な影響を与える存在だ。

「別々の石からとはいえ、同じ生まれをした者同士だ。『対』として、何らかの役目を果たす神……。だが、それぞれに俺達と同じような特異な力があるだけで、千年経っても……、はじまりの世界が滅ぶその瞬間まで、その『役割』を知る事は出来なかった」

「お父様、神は一人一人が自分の力や役割を知っているのが普通ですよね? 生まれた時から、本能に刻まれているというか」

「そうだ。稀にそれを知る事が出来ず、時が経ってから知る者もいれば、神々の助けを借りて、といった場合もある。だが……、お前達二人は、さっき言った通りだ」

 千年の時を経ても、自分達の生まれた意味を、役割を知らずに一度目の終わりを迎えた、二人の神。小さな呻き声を漏らしているカインさんを見つめる私の心に、レガフィオールという神に何かを感じる事は、ない。私は、幸希であり、ユキ……。 

「……私には、セレネフィオーラとしての記憶がありませんし、今も、自分の中にユキとして以外の力を感じる事は」

「わかっている。元々、セレネ自身、レガフィオールと『対』なのではないかと言われても、毎回首を傾げて全然関係なさそうな顔をしていたからな。だが、レガフィオールの方は違う。セレネに対し、特別な繋がりを感じていたようだったからな」

「それで……、何かわかったんですか?」

「ははっ!! 実はなぁ……、全くわからんかった!! お前に接触させても、荒ぶったのはこの馬鹿だけで、収穫なし、と。はははははっ、困った、困った!! やれやれだ」

 ガクッ……!! 
 そんな楽観的且(か)つ、暢気な様子で言わないでほしい。
 お父様の事だから、これからの災厄との戦いにおいて必要になるかもしれないと思って、カインさんを覚醒させたんじゃないんですか? まぁ、……お父様の事だから、わざとそういう茶化すフリを装っているのかもしれないけれど。

「ん……」

「カインさん!! 大丈夫ですかっ!?」

「……セレ、……ユキ」

「あぁ、また馬鹿をやらかす前に、ほれ」

「――げっ!! 何だこれっ!!」

 地獄の淵から無事に生還してくれたカインさんの身体を、お父様が頑丈な鎖でグルグル巻きの刑にしていく。勿論、ただの鎖じゃなくて――。

「うごぉおおおおっ!! おぉおおおいっ!! 何なんだよ!! 痛ぁああああっ!!」

 生き物……、毒蛇に睨まれ、いや、締め上げられるかのような目に逢っているカインさんだけど、またすぐに暴走されても困るので、助けるわけにはいかない。

「カインさん、落ち着いて話しましょう?」

「落ち着けるかああああああっ!! お前っ、俺のこれ見えてないのかよぉおおおおっ!!」

「いえ、バッチリ見えてますけど、自由にしたら……、また暴走モードで面倒事を起こしそうなので。だから、この状態でお話しましょう、ね?」

「ふざけんなぁああああああっ!! ってか、何、可愛い顔で「ね?」とか言ってんだよ!! 記録撮らせろ!! ごらぁああああっ!!」

 はいはい。やっぱり、レガフィオールとして覚醒した事で、精神的にちょっと問題ありなんですね? カインさんてば。暴れまくるカインさんの額をべちっと叩き、その背中にどっしりと腰を下ろしたお父様をじっとりと睨む。この事態をどう収拾つける気なんですか? と。
 神の力と記憶が目覚めた事で、やんちゃの度合いが激しくなってしまったこの竜の皇子様を。
 お父様は頬杖を着きながら「ん~」と困惑げに唸り、カインさんの頭へと手を置いた。

「レガフィオール……、お前、ユキの記憶を、セレネフィオーラの存在を引き出そうとしていたが」

「別にいいだろうがっ!! 俺とユキはっ」

「確かに、はじまりの世界で共に在ったが……、――ぶっちゃけ、ただの友人同士だったはずだが?」

「うぐっ!!」

「好意をアピールしても、セレネに全く気付かれず、トワイ・リーフェルとその息子達に妨害され続けた千年間……。色恋の、いの字も成せなかっただろう?」

「ぐぐぐぐぐぐぐっ!!」

 お父様の指摘した事を肯定するように、カインさんは悔しそうに押し黙ってしまった。
 ただの友人関係だったのなら、たとえ記憶を取り戻しても、私達の関係がどうこうなるとは思えないのだけど? ……そう、ただ、記憶を蘇らせるだけだったなら。

「きっと、カインさんがあのまま力を使っていたら、歪んだ神の力によって、私の記憶が変えられていたかもしれませんね?」

「…………」

「なりふり構わず必死になっている者は、愛する者の記憶だけでなく、心まで歪ませてしまう事があるからな。――反省しろ、カイン」

 愛するあまり、誰にも奪われない為に、時として……、人も、神も、禁忌の術(すべ)に手を伸ばしてしまう事がある。自分を見てくれるように、愛してくれるように……。
 もし、カインさんがそれをやっていたら、その力を私が防ぎ切れず、お父様の助けが間に合わなければ……。
 
「……悪かった。けどよ、……流石に、死ぬほど焦るだろ。お前が……、あんな顔見せた上に、番犬野郎に……、惹かれてる、とかっ。死ぬより辛ぇよ」

「カインさん……」

「なぁ、ユキ。こっからは俺と一緒にいろよ。あの野郎への想いが勘違いだって、気のせいだって、わかるから……っ」

「でも、……約束してるんです。明日、王都に戻るまでは、何もかも忘れて、一緒にいるって」

 今もきっと心配してくれている。だけど、この地にあの人が、アレクさんが飛んで来ないのは、お父様が説き伏せて事態の収拾を引き受けたからに違いない。
 不安にさせている……。早く、顔を見せて、あの人を安心させたい。
 自分の事を想ってくれているもう一人の男性を目の前にしているのに、心に想ってしまうのは……。

「待てるわけねぇだろうが……! お前の心がっ、お前の心が番犬野郎の物になってくのを黙って見てる余裕なんかっ」

「カイン、ユキを自分の傍に置いたところで……、アレクへの想いが小さくなるわけでもないだろう? ――今の、感情ひとつ制御出来ていない状態では、逆効果を招き、好転する可能性はないぞ」

「ぐ……っ! ソルっ、俺とユキが、レガフィオールとセレネフィオーラが対の神かもしれねぇって、特別な関係を匂わせたのはお前だろうが!! なら、こいつと結ばれる正しい相手は、俺だろっ!」

「それとこれとは別だ。『対』とは言っても、そこに夫婦神や恋愛感情といった関係性があるとは限らんからな。はじまりの世界にいた時も、そう教えてやったというのに……。はぁ、同情はしてやるが、強引に迫ったところで、未来は曇天一色だぞ」

「うぐぐぐぐ……! くそぉっ」

 一途に想ってくれるカインさんには申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、私にはどうする事も出来ない。この心を変える事も、カインさんに希望を持たせるような発言をする事も……。

「さて、馬鹿息子の性根を再度叩き直すべく、俺はもう行く。ユキ、自分の思うように行動しろ。誰かを想う心は、その者の自由であり我儘だ。必要以上に気に掛ける必要はない」

「お父様……」

「心を無理に捻じ曲げる事も、偽りの愛を口にして相手を気遣うふりをしても、誰も幸せにはならん。ほら、立て、カイン」

「ふざ、けんなぁあっ! 俺はまだユキとっ!!」

「やかましい」

 ゴィイイイイイン! と、またカインさんの頭に落ちた一撃。
 お父様は気絶したカインさんを肩に担ぐと、数日後には更生させて王宮に戻すと言い残し、空の彼方に旅立って行ってしまった。

「はぁ……」

 お父様のお陰で深刻な事態は免れたけど……。次は町に戻った時のアレクさんの反応が心配だ。
 心配しているだろうし、カインさんと何があったのか聞かれるのは確実だろう。
 そうなると……、私の、アレクさんに対する気持ちも口にしなきゃならなくなるかもしれない。
 ……だけど、今は、まだ。もう一度大きな溜息を吐き出した私は、それから暫くの間森の中を彷徨い続け、ゆっくりゆっくりと、町への帰途に着いたのだった。
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