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第一章~狼王族の国・ウォルヴァンシアへの移住~
ウォルヴァンシア騎士団長、珍妙なものに遭遇する!~ルディー視点~
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※今回は、ウォルヴァンシア王国騎士団長、ルディーの視点で進みます。
(ルディーは、十代半ば程の容姿をした、外見が少年の騎士団長です)
――Side ルディー
最近、ウォルヴァンシア騎士団団長である俺の部下、副団長こと、アレクディース・アメジスティーにおかしな変化が起きた。
重要な仕事と最低限の作業だけこなして、ふらりとどこかに消えるというおかしな行動。
真面目一徹の男が、勤務中に行き先も告げる消える事なんて、今までにはなかったはずだ。
報告を受けた時には頭の中に疑問符が浮かんだもんだが、頻繁に、という部分が引っ掛かった。
やる事をこなし、その上でどこかに行くなら別に構わない。
だが……、日を追うごとに、副団長の仕事に穴が開き始めた。
書類仕事には問題がなかったが、団員達を相手に行う手合わせの訓練。
そっちをサボる事が増え、何人かがアレクの様子がおかしいと言って、俺の許を訪れた。
団員の指導も重要な職務のひとつだからな。今は俺や他の奴らでフォローが出来ると言っても、いつかその行動が度を超してしまう可能性を考えた結果。
とりあえず、アレク自身から話を聞いてみる事にしたわけなんだが……。
あの野郎……、俺を前に逃げやがった。行き先や理由を隠したがっている様子は察したが、一国の副騎士団長が逃げてどうすんだよ。全力で王宮内を逃げまわり、俺の言葉に耳を貸さなかったアレクは、最後には狼の姿に変じて以下略、と。
しかし、そんな面倒な一日を過ごした翌日……、アレクの行動に変化が起きたんだ。
その日一日、溜まっていた仕事を熱心に片付け、団員達の指導にも精を出していた。
それはその日だけに留まらず、元の日常が戻って来たかのように何日も続いている。
一体どういう心境の変化だ? と疑問を抱いた俺は、とりあえず観察してみる事にした。
話しかければ反応もするし、仕事の内容も手抜きなく行っている……。
だが、訓練の合間にある休憩時間や仕事を終えた後……。
アレクはどうにも、心ここに在らずの顔を見せる事が増えた。
遠くを見るような……、どうにも放っておけない様子に、一度話を聞いてみるべきだと感じた俺は、その日の夕暮れ間近になると、副団長執務室へと足を運ぶ事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アレク、入るぞ~……って、げっ!!」
話を聞こうと副団長執務室に入った俺は、思わず絶句してしまった。
見てはいけないものを見てしまった……、そんな、珍妙な光景が……。
「お、おい、あ、アレクっ、お、お前、それ、それっ、どうしたんだよっ!!」
「……あぁ、ルディーか、……何がだ?」
「何が、つーか……、お前、それ……、抵抗……、ねーのか?」
指先を震わせ、アレクの頭をあるそれを凝視してしまう。
俺が目にしてしまったもの……。それは、何て言えばいいんだろうな……。
形容しがたいというか、この国では見た事もない物がアレクの頭に……。
多分、被り物(かぶりもの)の一種、なんだろうな。
アレクの頭部には、所謂……、その、ヅラ的な物が装着されちまってるんだが、それが何のヅラなのかがまずわからない。
両サイドが黒い毛で覆われていて、真ん中のあたりは肌色が剥き出しの状態。
さらには、そのど真ん中から、ビヨーンと上に向かって伸びている黒い太い棒みたいな、か、硬そうな、髪?
わかんねー……っ。あれは何なんだよ……!! どう表現すりゃいいんだっ!?
とにかく、アレはこの世界の産物じゃないない!! その重要部分だけはわかる!!
……と、心の中でツッコミをいれていると、ふと、副団長室の窓に人影が見えた。
アレクを面白そうに観察しているあの視線……。闇夜に紛れているが、俺には誰だかわかった。
何やってんすか、陛下……っ!!
「どうした、ルディー?」
アレクの問いかけを無視し、俺は窓へと向かった。
「陛下ぁあああああっ!!」
「あははっ。見つかっちゃったね~」
窓を勢いよく開くと、直前でそれを避けたレイフィード陛下が横に逃げた。
やっぱり、このウォルヴァンシアの国王陛下で間違いない。
この人、こんなとこで何やってんだよ……。
「陛下、もしかしなくても……、アレクの『アレ』に関わってます?」
そう聞けば、ニヤリと楽しげに微笑む国王陛下。
あー……、やっぱり、あのヅラの元凶は陛下で間違いないみてーだな。
確か、団員達の指導が終わるまでは頭にアレの存在はなかったはずだから、仕事が終わってから仕掛けたな。……つーか、アレクもなんで大人しくあんなもんを被らされたんだか。
「あははっ、ごめんね~!! いやぁ、思ったよりも、ジャストフィーット!! 良く似合ってるよ、アレク~!!」
「はぁ……。どんないじめなんですかね……。で、アレは一体何なんですか?」
「ふふ~、アレはね~。昔、ユーディス兄上が異世界のお土産でくれた、『トノサマ』っていう偉い人の髪型らしいんだよ~」
「……トノサマ?」
偉い人の髪型……? あのへんちくりんでシュールなもんが?
見てるこっちは絶句したってのに、何を暢気な……。
つーか、アレク、お前何やったんだよ。
大人しく被ってるって事は、そうしとかなきゃならねー事情があるわけだよな?
「陛下、なんでアレクにあんなもんを……」
「そりゃあ、決まってるじゃないか! 僕の可愛い姪御ちゃんに、不埒な真似をしたお仕置きだよ!! 痛いのより、イタイ、の方が面白いだろう?」
アンタは鬼か……!! そして、痛いとイタイをかけても笑えねーぞ!!
はぁ……。仮にもウォルヴァンシア騎士団の副団長だぞ?
こんな姿を団員達に見られちまったら……、あぁ、指揮が、アレクへの信頼が。
「……あの、一応聞いときますけど、アレク、何やったんですか?」
「僕の可愛い姪御ちゃんの寝台に潜り込んでいたみたいでねぇ。悪気なしってのは知ってるけど、ほら、お仕置きは必要だろう?」
「まぁ……、確かに」
おーい、アレクー、お前何やってんだよー……。初耳だぞ。
レイフィード陛下の姪って、ユーディス殿下の娘だろ?
俺も昔遊んでやった事があるが……。
よりにもよって、陛下の溺愛してる姪御の寝台に潜り込むってお前……。
ちらりとアレクの方を見ると、また何か考え事をしているのか、ぼーっとし始めてしまっていた。
……ヅラ、全然気にしてねぇな。
「陛下~、勘弁してやってくださいよ~。見てる俺の方がきついっつーか、あのヅラ破壊力ありすぎですよ」
「それは聞けないお願いだな~!! あと一週間は、あのままで反省!! それに、この程度で許してあげるんだから、ふふ……、僕は心の優しい王様だと思わないかい? ねぇ」
「いっそ拷問刑にでも処された方が、アレクの為ですよ。はぁ」
あ~、もうこりゃ駄目だわ。
アレク一週間トノサマ・ヅラ決定だ。ヤバイだろ、これ……。
副団長補佐官のロゼリアや、団員の奴らが絶対驚くぞ。
俺みたいに絶句か、それとも、爆笑されてネタにされるか……。
どちらにしろ、アレクの築き上げてきたイメージがぶち壊しだな。
けど、陛下の姪御の寝台に潜り込んだとは……、女に夜這い仕掛けるタイプじゃねーんだが。
「……事情があるんですよね? 陛下」
「ふふ、まぁね」
陛下から罰を……、すっげー、悪趣味で嫌味的な仕打ちだが、俺の中には、アレクへの絶対的な信頼がある。この珍妙過ぎる罰の理由と、陛下の姪御……。
きっと、アレクが騎士団の仕事をサボっていた理由は、そこにある。
俺はそう確信し、陛下を副団長執務室へと招き入れる事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……で、……くくっ、ははっ、それは何なんだ、ルディー?」
「笑ってやるなよ。可哀想だろ」
ウォルヴァンシア王宮の中にある、大きく広い大浴場。
今の時間、他の団員達は汗を流し終えて上がっているから、ガラ空きの時間帯だ。
陛下から事情を聞いた後、俺はぼーっとしているアレクを引き摺って、この大浴場へとやって来た。で、そこに、王宮医師であるルイヴェルが先客よろしく湯船に浸かっていたってわけだ。
必死に人の目から隠してやろうと思ったアレクの可哀想な姿が、バッチリとルイヴェルの深緑の双眸に捉えられてしまった。……すまん、アレク。
「陛下が罰を下したんだよ。ほら、ユーディス殿下と、その家族が帰還しただろ? それで姫ちゃんの寝台に潜り込んだのがバレたらしい」
「自業自得だな。俺とセレス姉さんが説教だけで済ませてやったというのに、懲りもせずに馬鹿をやらかすからだ」
「……」
笑いを収めたルイヴェルの咎めるような視線と声音。
まぁ、その理由はすっげー知ってるし、わかってるけどな……。
対するアレクはだんまりだ。トノサマのヅラを着けたまま、じっと湯船を見つめている。
陛下やユーディス殿下に説教をされた事よりも、その面倒なヅラに対してでもなく……。
その心に在るのは、姫ちゃんの事なんだろう。
姫ちゃんがこの世界に帰還した当日。アレクは庭園で狼の姿に変じて休息を取っていたらしい。
――で、その時に偶然姫ちゃんと出会っちまって。
「放っとけなくて、情が移っちまった、と。……まぁ、姫ちゃんにとってこの世界は、記憶がないせいで見知らぬ場所同然だもんなぁ。お前が心配する気持ちはわかるけどよ」
「誰が連日、あれの寝所に潜り込めと言ったんだろうな? アレク」
「ルイヴェ~ル、今は抑えとけ。姫ちゃんがお前にとってすっげぇ大事な存在ってのはわかってるが、アレクのは完全な善意だ。大体、その間、お前は仕事であんまり動けなかっただろうが。礼くらい言っとけよ」
ずっと暮らしていた世界を離れ、このエリュセードへと帰って来た姫ちゃん。
幼い頃の記憶がないせいで、色々と悩み、辛い思いを抱えていた事だろう。
陛下の話じゃ、悪夢に魘される事もあったつーから、アレクが狼の姿で姫ちゃんに寄り添った事は、方法はどうあれ、間違いじゃなかったはずだ。
だが、ルイヴェルは面白くなさそうな顔で浴槽の縁(ふち)に肘をつき、納得出来ていない様子だ。あれだな。自分が姫ちゃんの不安や寂しさを癒してやりたかったんだろうな。
――にしても、姫ちゃんかぁ。
あの時、最後に見た時は、まだ子供だったよなぁ。あれから、どんぐらい成長したんだろう。
主に、王宮医師の二人が姫ちゃんを可愛がりまくってて、帰還の度によく一緒に行動してたよなぁ。反対に、俺達騎士団組は時々関わる程度で、姫ちゃんに対する情の深さで言えば、ルイヴェルには到底及ばない。
けど、アレクは成長した姫ちゃんと再会して、放っておけないと、仕事を放り出しちまうぐらいに心配した。築き上げていた絆も何も関係ない。
姫ちゃんを救ったのは、間違いなくアレクだ。……だってのに、この眼鏡。
普段、冷静沈着に何事もそつなくこなすくせに、何を、ガキみてーに拗ねてんだか。
表情には出ていないが、その面白くなさそうな気配で丸わかりなんだよ。まったく。
「あ、そういえば、なぁ、アレク。一回、姫ちゃんとこに行った方がいいんじゃねーか? 正体を隠してた事情とか、ちゃんと説明すれば、また仲良く出来るだろうし」
「一応、……考えてはいるが」
「早めに仲直りしといた方がいいぞ。――あ! だけど、そのヅラは外していけよ!! 姫ちゃん、びっくりするからな!!」
「ルディー、残念だが、そのヅラは陛下の術がかかっているようだ。簡単には外れないぞ」
「陛下、どんだけ執念深いんだよ……っ」
大切な姪御に不埒な真似をされて、内心怒っているのはわかる。
けどよ~、このアレクの状態は酷過ぎるだろうがよ~っ。
俺は同情を禁じ得ず、アレクに憐れみの目を向けてしまう。
善意からの行動だったが、……まぁ、正体隠して、姫ちゃんの寝所に潜り込むのはなぁ。
過保護な父親と叔父……、と、プラス一名がお咎めなしに許せねーのは、うん、わかるんだけど、よ。……明日、団員達にどう説明すっかなぁ。
ドノサマ・ヅラで、姫ちゃんの事を思いながら思い悩んでいるアレク。
本人は至って真剣そのものだが、……ぶっちゃけ、見てるこっちは、すっげ~反応に困る。
「先に上がる」
「おう。じゃあな」
ざばりと湯船から抜け出したルイヴェルが、出口へと向かって行く。
王宮医師はそれだけが仕事じゃねーからな。医務室に戻って、まだ色々とやる事があるんだろう。
「ふぅ~。そろそろ」
髪と身体を洗うかなと、俺も湯の外に出ようとしたその時。
出口にかかっている暖簾(のれん)に手を掛けようとしていたルイヴェルが、僅かに顔をこっちに向けて口を開いた。
「……あれに関してだが、一応、礼を言っておく」
小さな呟きだったが、湯水の滴る銀の髪越しに見えたルイヴェルの顔は、眼鏡を外してある深緑の瞳には、アレクに対する悔しさと、感謝の念が宿っていた。
他の事だったら、あっさり礼を口にする奴なんだが……。
やっぱ、姫ちゃん絡みになると、譲れない何かがあるんだろうなぁ。
けど、ちゃんと礼を言えて偉いぞ、ルイヴェル!!
だがしかし――。
「……はぁ、ユキ」
肝心のアレクがルイヴェルからの礼に、全然気付いていないかった。
俺達三人しかいない大浴場に、切なく虚しい風が吹いた……、ような気がする。
(ルディーは、十代半ば程の容姿をした、外見が少年の騎士団長です)
――Side ルディー
最近、ウォルヴァンシア騎士団団長である俺の部下、副団長こと、アレクディース・アメジスティーにおかしな変化が起きた。
重要な仕事と最低限の作業だけこなして、ふらりとどこかに消えるというおかしな行動。
真面目一徹の男が、勤務中に行き先も告げる消える事なんて、今までにはなかったはずだ。
報告を受けた時には頭の中に疑問符が浮かんだもんだが、頻繁に、という部分が引っ掛かった。
やる事をこなし、その上でどこかに行くなら別に構わない。
だが……、日を追うごとに、副団長の仕事に穴が開き始めた。
書類仕事には問題がなかったが、団員達を相手に行う手合わせの訓練。
そっちをサボる事が増え、何人かがアレクの様子がおかしいと言って、俺の許を訪れた。
団員の指導も重要な職務のひとつだからな。今は俺や他の奴らでフォローが出来ると言っても、いつかその行動が度を超してしまう可能性を考えた結果。
とりあえず、アレク自身から話を聞いてみる事にしたわけなんだが……。
あの野郎……、俺を前に逃げやがった。行き先や理由を隠したがっている様子は察したが、一国の副騎士団長が逃げてどうすんだよ。全力で王宮内を逃げまわり、俺の言葉に耳を貸さなかったアレクは、最後には狼の姿に変じて以下略、と。
しかし、そんな面倒な一日を過ごした翌日……、アレクの行動に変化が起きたんだ。
その日一日、溜まっていた仕事を熱心に片付け、団員達の指導にも精を出していた。
それはその日だけに留まらず、元の日常が戻って来たかのように何日も続いている。
一体どういう心境の変化だ? と疑問を抱いた俺は、とりあえず観察してみる事にした。
話しかければ反応もするし、仕事の内容も手抜きなく行っている……。
だが、訓練の合間にある休憩時間や仕事を終えた後……。
アレクはどうにも、心ここに在らずの顔を見せる事が増えた。
遠くを見るような……、どうにも放っておけない様子に、一度話を聞いてみるべきだと感じた俺は、その日の夕暮れ間近になると、副団長執務室へと足を運ぶ事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アレク、入るぞ~……って、げっ!!」
話を聞こうと副団長執務室に入った俺は、思わず絶句してしまった。
見てはいけないものを見てしまった……、そんな、珍妙な光景が……。
「お、おい、あ、アレクっ、お、お前、それ、それっ、どうしたんだよっ!!」
「……あぁ、ルディーか、……何がだ?」
「何が、つーか……、お前、それ……、抵抗……、ねーのか?」
指先を震わせ、アレクの頭をあるそれを凝視してしまう。
俺が目にしてしまったもの……。それは、何て言えばいいんだろうな……。
形容しがたいというか、この国では見た事もない物がアレクの頭に……。
多分、被り物(かぶりもの)の一種、なんだろうな。
アレクの頭部には、所謂……、その、ヅラ的な物が装着されちまってるんだが、それが何のヅラなのかがまずわからない。
両サイドが黒い毛で覆われていて、真ん中のあたりは肌色が剥き出しの状態。
さらには、そのど真ん中から、ビヨーンと上に向かって伸びている黒い太い棒みたいな、か、硬そうな、髪?
わかんねー……っ。あれは何なんだよ……!! どう表現すりゃいいんだっ!?
とにかく、アレはこの世界の産物じゃないない!! その重要部分だけはわかる!!
……と、心の中でツッコミをいれていると、ふと、副団長室の窓に人影が見えた。
アレクを面白そうに観察しているあの視線……。闇夜に紛れているが、俺には誰だかわかった。
何やってんすか、陛下……っ!!
「どうした、ルディー?」
アレクの問いかけを無視し、俺は窓へと向かった。
「陛下ぁあああああっ!!」
「あははっ。見つかっちゃったね~」
窓を勢いよく開くと、直前でそれを避けたレイフィード陛下が横に逃げた。
やっぱり、このウォルヴァンシアの国王陛下で間違いない。
この人、こんなとこで何やってんだよ……。
「陛下、もしかしなくても……、アレクの『アレ』に関わってます?」
そう聞けば、ニヤリと楽しげに微笑む国王陛下。
あー……、やっぱり、あのヅラの元凶は陛下で間違いないみてーだな。
確か、団員達の指導が終わるまでは頭にアレの存在はなかったはずだから、仕事が終わってから仕掛けたな。……つーか、アレクもなんで大人しくあんなもんを被らされたんだか。
「あははっ、ごめんね~!! いやぁ、思ったよりも、ジャストフィーット!! 良く似合ってるよ、アレク~!!」
「はぁ……。どんないじめなんですかね……。で、アレは一体何なんですか?」
「ふふ~、アレはね~。昔、ユーディス兄上が異世界のお土産でくれた、『トノサマ』っていう偉い人の髪型らしいんだよ~」
「……トノサマ?」
偉い人の髪型……? あのへんちくりんでシュールなもんが?
見てるこっちは絶句したってのに、何を暢気な……。
つーか、アレク、お前何やったんだよ。
大人しく被ってるって事は、そうしとかなきゃならねー事情があるわけだよな?
「陛下、なんでアレクにあんなもんを……」
「そりゃあ、決まってるじゃないか! 僕の可愛い姪御ちゃんに、不埒な真似をしたお仕置きだよ!! 痛いのより、イタイ、の方が面白いだろう?」
アンタは鬼か……!! そして、痛いとイタイをかけても笑えねーぞ!!
はぁ……。仮にもウォルヴァンシア騎士団の副団長だぞ?
こんな姿を団員達に見られちまったら……、あぁ、指揮が、アレクへの信頼が。
「……あの、一応聞いときますけど、アレク、何やったんですか?」
「僕の可愛い姪御ちゃんの寝台に潜り込んでいたみたいでねぇ。悪気なしってのは知ってるけど、ほら、お仕置きは必要だろう?」
「まぁ……、確かに」
おーい、アレクー、お前何やってんだよー……。初耳だぞ。
レイフィード陛下の姪って、ユーディス殿下の娘だろ?
俺も昔遊んでやった事があるが……。
よりにもよって、陛下の溺愛してる姪御の寝台に潜り込むってお前……。
ちらりとアレクの方を見ると、また何か考え事をしているのか、ぼーっとし始めてしまっていた。
……ヅラ、全然気にしてねぇな。
「陛下~、勘弁してやってくださいよ~。見てる俺の方がきついっつーか、あのヅラ破壊力ありすぎですよ」
「それは聞けないお願いだな~!! あと一週間は、あのままで反省!! それに、この程度で許してあげるんだから、ふふ……、僕は心の優しい王様だと思わないかい? ねぇ」
「いっそ拷問刑にでも処された方が、アレクの為ですよ。はぁ」
あ~、もうこりゃ駄目だわ。
アレク一週間トノサマ・ヅラ決定だ。ヤバイだろ、これ……。
副団長補佐官のロゼリアや、団員の奴らが絶対驚くぞ。
俺みたいに絶句か、それとも、爆笑されてネタにされるか……。
どちらにしろ、アレクの築き上げてきたイメージがぶち壊しだな。
けど、陛下の姪御の寝台に潜り込んだとは……、女に夜這い仕掛けるタイプじゃねーんだが。
「……事情があるんですよね? 陛下」
「ふふ、まぁね」
陛下から罰を……、すっげー、悪趣味で嫌味的な仕打ちだが、俺の中には、アレクへの絶対的な信頼がある。この珍妙過ぎる罰の理由と、陛下の姪御……。
きっと、アレクが騎士団の仕事をサボっていた理由は、そこにある。
俺はそう確信し、陛下を副団長執務室へと招き入れる事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……で、……くくっ、ははっ、それは何なんだ、ルディー?」
「笑ってやるなよ。可哀想だろ」
ウォルヴァンシア王宮の中にある、大きく広い大浴場。
今の時間、他の団員達は汗を流し終えて上がっているから、ガラ空きの時間帯だ。
陛下から事情を聞いた後、俺はぼーっとしているアレクを引き摺って、この大浴場へとやって来た。で、そこに、王宮医師であるルイヴェルが先客よろしく湯船に浸かっていたってわけだ。
必死に人の目から隠してやろうと思ったアレクの可哀想な姿が、バッチリとルイヴェルの深緑の双眸に捉えられてしまった。……すまん、アレク。
「陛下が罰を下したんだよ。ほら、ユーディス殿下と、その家族が帰還しただろ? それで姫ちゃんの寝台に潜り込んだのがバレたらしい」
「自業自得だな。俺とセレス姉さんが説教だけで済ませてやったというのに、懲りもせずに馬鹿をやらかすからだ」
「……」
笑いを収めたルイヴェルの咎めるような視線と声音。
まぁ、その理由はすっげー知ってるし、わかってるけどな……。
対するアレクはだんまりだ。トノサマのヅラを着けたまま、じっと湯船を見つめている。
陛下やユーディス殿下に説教をされた事よりも、その面倒なヅラに対してでもなく……。
その心に在るのは、姫ちゃんの事なんだろう。
姫ちゃんがこの世界に帰還した当日。アレクは庭園で狼の姿に変じて休息を取っていたらしい。
――で、その時に偶然姫ちゃんと出会っちまって。
「放っとけなくて、情が移っちまった、と。……まぁ、姫ちゃんにとってこの世界は、記憶がないせいで見知らぬ場所同然だもんなぁ。お前が心配する気持ちはわかるけどよ」
「誰が連日、あれの寝所に潜り込めと言ったんだろうな? アレク」
「ルイヴェ~ル、今は抑えとけ。姫ちゃんがお前にとってすっげぇ大事な存在ってのはわかってるが、アレクのは完全な善意だ。大体、その間、お前は仕事であんまり動けなかっただろうが。礼くらい言っとけよ」
ずっと暮らしていた世界を離れ、このエリュセードへと帰って来た姫ちゃん。
幼い頃の記憶がないせいで、色々と悩み、辛い思いを抱えていた事だろう。
陛下の話じゃ、悪夢に魘される事もあったつーから、アレクが狼の姿で姫ちゃんに寄り添った事は、方法はどうあれ、間違いじゃなかったはずだ。
だが、ルイヴェルは面白くなさそうな顔で浴槽の縁(ふち)に肘をつき、納得出来ていない様子だ。あれだな。自分が姫ちゃんの不安や寂しさを癒してやりたかったんだろうな。
――にしても、姫ちゃんかぁ。
あの時、最後に見た時は、まだ子供だったよなぁ。あれから、どんぐらい成長したんだろう。
主に、王宮医師の二人が姫ちゃんを可愛がりまくってて、帰還の度によく一緒に行動してたよなぁ。反対に、俺達騎士団組は時々関わる程度で、姫ちゃんに対する情の深さで言えば、ルイヴェルには到底及ばない。
けど、アレクは成長した姫ちゃんと再会して、放っておけないと、仕事を放り出しちまうぐらいに心配した。築き上げていた絆も何も関係ない。
姫ちゃんを救ったのは、間違いなくアレクだ。……だってのに、この眼鏡。
普段、冷静沈着に何事もそつなくこなすくせに、何を、ガキみてーに拗ねてんだか。
表情には出ていないが、その面白くなさそうな気配で丸わかりなんだよ。まったく。
「あ、そういえば、なぁ、アレク。一回、姫ちゃんとこに行った方がいいんじゃねーか? 正体を隠してた事情とか、ちゃんと説明すれば、また仲良く出来るだろうし」
「一応、……考えてはいるが」
「早めに仲直りしといた方がいいぞ。――あ! だけど、そのヅラは外していけよ!! 姫ちゃん、びっくりするからな!!」
「ルディー、残念だが、そのヅラは陛下の術がかかっているようだ。簡単には外れないぞ」
「陛下、どんだけ執念深いんだよ……っ」
大切な姪御に不埒な真似をされて、内心怒っているのはわかる。
けどよ~、このアレクの状態は酷過ぎるだろうがよ~っ。
俺は同情を禁じ得ず、アレクに憐れみの目を向けてしまう。
善意からの行動だったが、……まぁ、正体隠して、姫ちゃんの寝所に潜り込むのはなぁ。
過保護な父親と叔父……、と、プラス一名がお咎めなしに許せねーのは、うん、わかるんだけど、よ。……明日、団員達にどう説明すっかなぁ。
ドノサマ・ヅラで、姫ちゃんの事を思いながら思い悩んでいるアレク。
本人は至って真剣そのものだが、……ぶっちゃけ、見てるこっちは、すっげ~反応に困る。
「先に上がる」
「おう。じゃあな」
ざばりと湯船から抜け出したルイヴェルが、出口へと向かって行く。
王宮医師はそれだけが仕事じゃねーからな。医務室に戻って、まだ色々とやる事があるんだろう。
「ふぅ~。そろそろ」
髪と身体を洗うかなと、俺も湯の外に出ようとしたその時。
出口にかかっている暖簾(のれん)に手を掛けようとしていたルイヴェルが、僅かに顔をこっちに向けて口を開いた。
「……あれに関してだが、一応、礼を言っておく」
小さな呟きだったが、湯水の滴る銀の髪越しに見えたルイヴェルの顔は、眼鏡を外してある深緑の瞳には、アレクに対する悔しさと、感謝の念が宿っていた。
他の事だったら、あっさり礼を口にする奴なんだが……。
やっぱ、姫ちゃん絡みになると、譲れない何かがあるんだろうなぁ。
けど、ちゃんと礼を言えて偉いぞ、ルイヴェル!!
だがしかし――。
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鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
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