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第三章『不穏』~古より紡がれし負の片鱗~
不穏なる者達の嘲笑2
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※今回は、第三者視点で進みます。
「ふぅ~……、失敗しちゃったみたいですわねぇ」
「最初からわかってた事さ……。あそこには、面倒な奴らが多すぎる。たかが瘴獣二体を送り込んだところで、片付くわけもない」
深夜の賑わいを見せるガデルフォーンの大食堂。
昼間は人々に美味い料理を振る舞うその店も、夜になれば酒盛りをする者達が集まり、また別の顔を見せる。勿論、料理のメニューは消える事なく、自由に注文可能だ。
「じゃあどうして瘴獣を皇宮に放ったんですの?」
金髪の少女、マリディヴィアンナはお肉のソテーを切り分けて一口食んだ。
舌を楽しませる濃厚な味わいに小さく舌を出して唇を舐めると、テーブルを挟んで向こう側の少年を窺い見る。
少年の方は、運ばれてきたスープの水面に木彫りのスプーンを入れながら、薄く微笑む。
「ちょっと彼らの戦い方や役割を見ておきたかったから、かな」
「あんまり動きを見せすぎて、こっちの手の内がバレたら元も子もないけどね~。あ、すみませ~ん、子供用にデザート二つ」
「あいよ~!!」
少年と金髪の少女の前の席に座っていた不精髭の男。
彼は食事の手を進めながら、いまだに『記録』を広げて何か作業をしているようだ。マリディヴィアンナは両肘をテーブルに着き、むぅっと頬を膨らませる。
「食事の時くらい、作業はやめてくださいな。見ていて不愉快ですわよ?」
「ごめんねぇ、あとちょっとだから」
「ヴァルドナーツ、もう今日はいいよ。あまり根を詰めると、後で実力を発揮出来なくなるし」
心配そうな声音で不精髭の男をそう呼んだ少年が、『強制的』にヴァルドナーツから仕事を取り上げた。小さく浮かんでいた『記録』の映像が一瞬で消失し、女将が追加注文のデザートを置いて去っていく。
「はぁ……、中途半端にするの、俺苦手なんだけどね~。ま、今日のとこは、お子様達に合わせますか。すみませ~ん、追加で酒瓶六本~!!」
「それは羽目を外しすぎ。訂正、三本!」
「べろんべろんの酔っ払いなんて勘弁ですわよ~。ほどほどにしておいてくださいまし!」
「あのね~、おじさん連中の疲れを癒すには、お酒が一番なんだよ~? 子供にはまだわかんないかもしれないけど~」
ヴァルドナーツの訴えも虚しく、結局は酒瓶三杯に注文は訂正されるのだった。
――……。
ちらほらと客達が帰り始めた頃、デザートの生クリームたっぷりアイスとチルフェートケーキを平らげ、マリディヴァンナはお腹を押さえて満足げな笑みを浮かべた。
「やっぱり、身体があると美味しい物をいっぱい食べられて良いですわよね~。生きているって……、本当に幸せな事」
「良かったね、マリディヴィアンナ。けど、その幸せの対価はしっかりと払って貰うけどね……」
「ふふっ、わかってますわよ。さ……そろそろ参りませんこと? まだ、今日の『遊び』は終わってませんもの」
「はぁ、君達まだ何かやるのかい?」
「一度やり始めた遊戯は、最後まで……、ですわ」
マリディヴィアンナの口許がニィッと持ち上がっていく。
止めても無駄、か。退屈を嫌う少女の性格を知っているからか、ヴァルドナーツはやれやれと諦めた様子で、席を立った。
どうやら今夜は、皇宮の方も穏やかな眠りとは無縁になるようだ。
「ま、ほどほどにね~。俺はお言葉に甘えて今日はもう寝ちゃうけど、助けが必要になったら呼んでね」
大食堂を三人で出ると、薄明かりに照らされた通りを皇宮に向かって歩き出す。
もう少し先に進めば、一度ヴァルドナーツは二人とは別れる。
「私達がいないからといって、お酒に溺れないでくださいましね?」
「大丈夫だって……。ふあぁぁ……、最近仕事ばかりだったからね。朝までぐっすり寝かせて貰うよ~」
子供はもう寝ていなくてはならない時間だが、マリディヴィアンナと少年にとっては、楽しい楽しい夜遊びの時間が始まるのだ。
『遊び相手』は、この城下を見下ろす荘厳な皇宮の中に……。
「おーい、お前らー、やっと見つけたぞー」
マリディヴィアンナと少年が、皇宮に続く階段の下でヴァルドナーツと別れようとしていたその時――。通りの向こうから、気だるげな青年の声が響いた。
服を着崩し、手をひらひらと振って眠そうにしながら歩いてくる人影。
肩よりも長い闇夜色の髪の青年が近づいてくると、マリディヴィアンナと少年の頭を挨拶代わりのようにひと撫でした。
「何だ……、どっか行くのか?」
「お帰り。仕事、終ったの?」
「まぁな。それより、ガキがこんな時間に起きてんなよ。人形でも抱えて夢ん中に飛び込んだらどうだ?」
「一応僕……、君より年上なんだけど?」
少年が珍しくむっとした様子を見せると、その小さな頭の上にまた、青年の手のひらがぽふんっと乗せられた。
完全な子供扱いでポンポンと何度か頭を叩く青年の手。
そのぬくもりが離れていくと、マリディヴィアンナの方に腰を下ろした青年が、その身体を腕へ抱き上げた。
「何年生きてようと、俺には子供にしか見えないからなぁ。さーて、お姫? お前達はこれから何しに行くんだ?」
「皇宮に遊びに行きますのよ」
「こんな真夜中にか? ……ふぅん。じゃあ、俺も付いて行ってやるよ」
青年が見上げた目線の先にある皇宮を暫し眺めた後、口許を面白げに歪め……。
「面白いもんが見れそうだ」
――その真紅の瞳に狂気の気配を滲ませた。
「ふぅ~……、失敗しちゃったみたいですわねぇ」
「最初からわかってた事さ……。あそこには、面倒な奴らが多すぎる。たかが瘴獣二体を送り込んだところで、片付くわけもない」
深夜の賑わいを見せるガデルフォーンの大食堂。
昼間は人々に美味い料理を振る舞うその店も、夜になれば酒盛りをする者達が集まり、また別の顔を見せる。勿論、料理のメニューは消える事なく、自由に注文可能だ。
「じゃあどうして瘴獣を皇宮に放ったんですの?」
金髪の少女、マリディヴィアンナはお肉のソテーを切り分けて一口食んだ。
舌を楽しませる濃厚な味わいに小さく舌を出して唇を舐めると、テーブルを挟んで向こう側の少年を窺い見る。
少年の方は、運ばれてきたスープの水面に木彫りのスプーンを入れながら、薄く微笑む。
「ちょっと彼らの戦い方や役割を見ておきたかったから、かな」
「あんまり動きを見せすぎて、こっちの手の内がバレたら元も子もないけどね~。あ、すみませ~ん、子供用にデザート二つ」
「あいよ~!!」
少年と金髪の少女の前の席に座っていた不精髭の男。
彼は食事の手を進めながら、いまだに『記録』を広げて何か作業をしているようだ。マリディヴィアンナは両肘をテーブルに着き、むぅっと頬を膨らませる。
「食事の時くらい、作業はやめてくださいな。見ていて不愉快ですわよ?」
「ごめんねぇ、あとちょっとだから」
「ヴァルドナーツ、もう今日はいいよ。あまり根を詰めると、後で実力を発揮出来なくなるし」
心配そうな声音で不精髭の男をそう呼んだ少年が、『強制的』にヴァルドナーツから仕事を取り上げた。小さく浮かんでいた『記録』の映像が一瞬で消失し、女将が追加注文のデザートを置いて去っていく。
「はぁ……、中途半端にするの、俺苦手なんだけどね~。ま、今日のとこは、お子様達に合わせますか。すみませ~ん、追加で酒瓶六本~!!」
「それは羽目を外しすぎ。訂正、三本!」
「べろんべろんの酔っ払いなんて勘弁ですわよ~。ほどほどにしておいてくださいまし!」
「あのね~、おじさん連中の疲れを癒すには、お酒が一番なんだよ~? 子供にはまだわかんないかもしれないけど~」
ヴァルドナーツの訴えも虚しく、結局は酒瓶三杯に注文は訂正されるのだった。
――……。
ちらほらと客達が帰り始めた頃、デザートの生クリームたっぷりアイスとチルフェートケーキを平らげ、マリディヴァンナはお腹を押さえて満足げな笑みを浮かべた。
「やっぱり、身体があると美味しい物をいっぱい食べられて良いですわよね~。生きているって……、本当に幸せな事」
「良かったね、マリディヴィアンナ。けど、その幸せの対価はしっかりと払って貰うけどね……」
「ふふっ、わかってますわよ。さ……そろそろ参りませんこと? まだ、今日の『遊び』は終わってませんもの」
「はぁ、君達まだ何かやるのかい?」
「一度やり始めた遊戯は、最後まで……、ですわ」
マリディヴィアンナの口許がニィッと持ち上がっていく。
止めても無駄、か。退屈を嫌う少女の性格を知っているからか、ヴァルドナーツはやれやれと諦めた様子で、席を立った。
どうやら今夜は、皇宮の方も穏やかな眠りとは無縁になるようだ。
「ま、ほどほどにね~。俺はお言葉に甘えて今日はもう寝ちゃうけど、助けが必要になったら呼んでね」
大食堂を三人で出ると、薄明かりに照らされた通りを皇宮に向かって歩き出す。
もう少し先に進めば、一度ヴァルドナーツは二人とは別れる。
「私達がいないからといって、お酒に溺れないでくださいましね?」
「大丈夫だって……。ふあぁぁ……、最近仕事ばかりだったからね。朝までぐっすり寝かせて貰うよ~」
子供はもう寝ていなくてはならない時間だが、マリディヴィアンナと少年にとっては、楽しい楽しい夜遊びの時間が始まるのだ。
『遊び相手』は、この城下を見下ろす荘厳な皇宮の中に……。
「おーい、お前らー、やっと見つけたぞー」
マリディヴィアンナと少年が、皇宮に続く階段の下でヴァルドナーツと別れようとしていたその時――。通りの向こうから、気だるげな青年の声が響いた。
服を着崩し、手をひらひらと振って眠そうにしながら歩いてくる人影。
肩よりも長い闇夜色の髪の青年が近づいてくると、マリディヴィアンナと少年の頭を挨拶代わりのようにひと撫でした。
「何だ……、どっか行くのか?」
「お帰り。仕事、終ったの?」
「まぁな。それより、ガキがこんな時間に起きてんなよ。人形でも抱えて夢ん中に飛び込んだらどうだ?」
「一応僕……、君より年上なんだけど?」
少年が珍しくむっとした様子を見せると、その小さな頭の上にまた、青年の手のひらがぽふんっと乗せられた。
完全な子供扱いでポンポンと何度か頭を叩く青年の手。
そのぬくもりが離れていくと、マリディヴィアンナの方に腰を下ろした青年が、その身体を腕へ抱き上げた。
「何年生きてようと、俺には子供にしか見えないからなぁ。さーて、お姫? お前達はこれから何しに行くんだ?」
「皇宮に遊びに行きますのよ」
「こんな真夜中にか? ……ふぅん。じゃあ、俺も付いて行ってやるよ」
青年が見上げた目線の先にある皇宮を暫し眺めた後、口許を面白げに歪め……。
「面白いもんが見れそうだ」
――その真紅の瞳に狂気の気配を滲ませた。
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