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第三章『不穏』~古より紡がれし負の片鱗~
ガデルフォーン魔術師団
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「クラウディオさん、今……、何て」
通信の光により映し出された、二人の男性……。
彼らを仰ぎ見たクラウディオさんは、何故か真っ青な顔をして私から手を放した。
『速やかに報告を成せと、私は言ったはずですがね?』
銀色の髪を纏う男性が眼鏡の奥の瞳を不機嫌そうに細め、……何故か、その手に糸を通した針と布を持つと、クラウディオさんに報告を求めながら裁縫作業に入ってしまう。な、何故……、手縫い作業を始めたの? この人……。
意味不明な目の前の光景を前に、私は間の抜けた顔で見つめる事しか出来ない。
「も、申し訳ありません……。ガデルフォーン魔術師団、団長、副団長に現状のご報告を致します」
『許可します。円滑に、時間をかけずに行いなさい』
「は、はい」
手縫い作業をしている手元を見る事もなく、銀髪の男性は緊張しきったクラウディオさんの報告を聞きながら、徐々にその作業速度を加速させていく。
どうして大事な話をしている最中にそんな作業を、とか、出来上がっていくのは可愛らしいクマの人形に見えるのだけど、とか、色々聞きたい事やツッコミを入れたくなるような目の前の光景のせいで、緊張感がどんどん抜けていくような気がするのは私だけじゃないはず。
ガデルフォーン側の人達は初めて見る光景ではなかったらしく、その表情が驚きに変わったり固まるという事はなかったけれど、……アレクさん、カインさん、レイル君は銀髪の男性の手元に視線を釘づけにされてしまっている。
ルイヴェルさんの方は……、檻に囚われた子供達に注意を向けているようだ。
『……女帝陛下。我らの帰還が遅れたばかりに』
悲痛の気配を宿し、いつの間にか出来上がっていたクマの人形をポンと銀髪の男性が横に放ると、今度は左に映っていた男性がそれをキャッチし、出来の良いそれを同じく辛そうな表情で撫で始める。
『クラウディオ・ファンゼル。本来であれば、すぐに女帝陛下の後を追い、その支えとなるよう命じるところですが、今回国内の『場』に生じた得体の知れぬ力の事といい、貴方一人が行った所では足手纏い。陛下の邪魔にしかなりません。魔術師団に残っている者達もまた然り……』
少しの間、団長と副団長と呼ばれた人達は無言になり、何かを考え始める。
そこに、今まで状況を見守っていたラシュディースさんが前に出て、二人へと声をかけた。
「久しぶりだな。ヴェルク、シルヴェスト。先ほどガデルフォーンに『入れない』と言っていたが、……どういう事が説明して貰えるか?」
『ラシュディース殿下……、お戻りになられていたのですね』
『ご無沙汰しております……。ご健勝のようで何より』
二人は深々と頭を下げると、ラシュディースさんの問いに答えるべくその顔を上げた。
今、目の前のお二人がガデルフォーンに続く道を開ける為に表の世界にいる事、何度転移の法を試しても得体の知れない力に阻まれ二人の力では干渉が困難な事……。
その為、何とかガデルフォーンにいる人達と連絡が取れないか試したところ、どうにか通信だけは繋ぐ事が叶った事……。
そして、外部からの侵入を阻んでいるのが、背後の檻に囚われている子供達が何らかの形で関わっているだろうという事を、この場にいる誰もが感じていた。
檻の中の三人は、受けた傷の具合が酷いのか、ピクリとも動かない……。
『私達の帰還を阻むあの力は、魔力ではありません……。勿論、このエリュセードには、魔力以外の力も幾つか存在しますが、そのどれとも一致しない未確認の力だと思えました』
「シルヴェスト、面倒な事になるが、……その力の『採取』は可能か? 危険を伴うが、もう一度ガデルフォーンへの道に干渉し、妨害してくる力の一部をウォルヴァンシアに持ち込み、解析を依頼してくれ」
ラシュディースさんからの要請に、銀髪の男性、シルヴェストさんがその意図を正しく理解した様子で、もう一人の男性と視線を交わし、頷き合う。
「ウォルヴァンシアの国王陛下も、こちらの事情を理解している。ガデルフォーンの地を脅かす者達の内、三人の身柄を捕えた事と、ディアが『場』へと向かった事を伝えてくれ」
『御意。それでは、すぐにでも力の採取を行い、ウォルヴァンシアに向かいます。クラウディオ、私達がそちらに戻るまで、残った魔術師団の者達を指示なさい。団長代理の権限を与えます。良いですよね? ヴェルク様』
『許可しよう……。クラウディオ、俺の代わりに魔術師団を束ねる任を与える。ガデルフォーン国内の異変により、これからどんな被害が生じるかもわからない。迅速に手を打ち、民の安全を守る為に尽力してくれ……』
「……御意」
団長と呼ばれたヴェルクさんの声音に、クラウディオさんの肩がビクリと震えた。
命じられた声音に滲んでいたのは、魔術師団を任せるという責任の重みと、クラウディオさんへの信頼の心……。
ガデルフォーンへ戻れない団長さんと副団長さんの思いを胸に、クラウディオさんはその責務を果たさなくてはならない。
『場』に閉じ込められ、得体の知れない力に脅かされているユリウスさんや魔術師団の人達。
彼らを救おうと一人で向かったディアーネスさん……。
助けに行きたいのに、それが出来ない辛さを抱えたまま、重責を担う心の内は……。
「クラウディオさん……」
胸に右手当て、深々と頭を下げるクラウディオさんを見上げた私は、近くへと寄ってきたサージェスさんに支えられ、ゆっくりと立ち上がった。
本音で言えば、クラウディオさんは、今すぐにでもユリウスさん達の許に駆け付けたいと願っているはず。
たとえ、助け出す為の方法が今は見つからなくても……。
そうせずにはいられない、友人を、仲間を想うクラウディオさんの気持ちが、その背中から伝わってくる。
「クラウディオ・ファンゼル……、御命令、しかと承りました」
『それと……、通信を繋げる際に少しだけ聞こえましたが……。クラウディオ、貴方は少々短気で打たれ弱い面が目立ちます。目の前の状況に嘆く暇があるのなら、打開策を考えなさい。そして、それが出来ないのであれば、他に何が出来るのかを死ぬ気で探すのです。そちらのお嬢さんが言っていた通り、クラウディオ、貴方は無力などではないのですからね』
「副団長……」
二体目の人形、今度はウサギさんを仕上げた副団長のシルヴェストさんが、それを団長のヴェルクさんに放り、通信最後の言葉を微かな笑みと共にクラウディオさんに向けると、光と共に消え去っていった……。
――……。
「おやおや、珍しい事もあるもんだねー。シルちゃんが褒めてくれるなんて滅多にない事だよ?」
「……」
「あの、クラウディオ……、さん?」
お二人との通信が静かに終わった後、サージェスさんがクラウディオさんの前にまわり、その肩をぽむぽむと軽く叩いた。
しかし、肝心のクラウディオさんは顔をさらに真っ青な色に染め、声を発する事もなくカタカタと震えている。
……何故? 疑問と共に首を傾げた私の耳に、急に外から地を叩き付けるような凄まじい音が響き始めた。
そちらを、クラウディオさん以外の全員が振り返り、ガデルフォーン皇国の空を覆う雲から大量の豪雨が地を目指して降り注ぎ、荒れ狂う風が玉座の間へと雪崩れ込んでくる。
「はは、流石シルちゃん。凄いジンクスの威力だねー」
「ふふ、こんな時に効果を発して頂くのは、正直困り物なのですが」
サージェスさんとシュディエーラさんが、玉座の間への被害を防ぐ為、結界を張り巡らせ外からの豪風雨を遮断し、安堵のひと息を吐く。
「あの、これは一体……」
突然降り出した豪雨と吹き荒れている猛風、そして、鼓膜と心を不安に震わせるかのような雷の音。
『場』に生じた異変と同じく、また新たな災厄が降りかかったのかと心配した私に、ラシュディースさんが場違いなほどに朗らかな笑いを零し、この事態の説明をしてくれた。
「ユキ姫は、シルヴェストに会うのは初めてだったからな。知らないのは当たり前だが、アイツは普段滅多に人を褒めるような事はしないんだ。それどころか、口を開けば本人に自覚はないが嫌味が飛び出してくるような部分もある。で、その滅多に人を褒めないシルヴェストが、誰かを認めるような発言や心からの褒め言葉を口にすると……、高確率で天候が荒れるんだ」
「……はい?」
「冗談の類じゃないぞ? 正真正銘、シルヴェストが人を褒めると、今のように天候が大荒れになるんだ。すぐに治まるものではあるが、威力は健在だな」
「人を褒めると天候が荒れるって……、そんな事、普通に考えてありえないような」
一人の存在が天候を左右するなんて事が本当に有り得るのか、ウォルヴァンシア側の私達は信じられないという感情を滲ませて顔を見合わせる。
けれど、ラシュディースさんの話は、他のガデルフォーンの人達には周知の事実らしい。
「と、まぁ、シルちゃんのレア事情は横に置いとくとして、クラウディオー? 大丈夫かい?」
「……」
ガデルフォーン魔術師団副団長であるシルヴェストさんの意外すぎる珍事情から、向き合わなくてはならない本題へと戻ろうとしたサージェスさんが、ふと立ち尽くし固まっているクラウディオさんに視線を向け、笑いを堪えているかのような気配で声をかけた。
さっきと変わらず、何故かそこから一歩も動かず身体を小さく震わせているクラウディオさん。
私が心配になってクラウディオさんの許に駆け寄り、その手に触れると……。
「え……」
ゾッとするほどに冷たいクラウディオさんの手の温度……。
血の気が引いている、という問題じゃないくらいに冷え切っている手に驚いていると、シュディエーラさんが傍に歩み寄り、クラウディオさんの前で短い詠唱を唱え、にっこりと私を安心させるように微笑んだ。
そして、その詠唱が何の効果を発動したのかはわからなかったけれど、次いでサージェスさんがクラウディオさんの顔の目の前で両手をパン! と打ち合わせると、ようやく我に返った。
「か……、か、雷、は」
「絶賛お外で大暴れ中、かな。まぁ、君にはシュディエーラの術がかかってるから、雷の音だけは聞こえないだろうけどね」
「そうか……」
説明を受けたクラウディオさんが、ほっとしたように胸を撫でおろす。
けれど、私達の視線に気付いたのか、不味い所を見られたとばかりに大げさな咳払いをし、クラウディオさんは子供達を捕えてある檻へと足を向けた。
なるほど……この人。
((((雷が苦手なんだ……))))
分かりやすいというか……、逆に可愛く思えてくるような反応をするクラウディオさんに、誰も追い打ちをかけるような茶々を入れる人はいなかった。
「死んでは……、いなさそうだが、目が覚めたら覚めたでまた面倒事を起こす事は確実だろうな」
「だろうねー。あと、『場』に仕掛けた術を解くように言ったところで無駄だろうし、陛下が戻って来るまでは、こっちで逃がさないように捕えておく事しか出来ないんだろうけど。……息の根止めたら術が停止するとか、ないかなぁ」
「サージェスさんっ」
「ははっ、冗談冗談。お兄さんは平和主義だからねー。必要な時が来るまでは……、ちゃ~んと、生かしておいてあげるよ」
檻の中で倒れている三人の様子をクラウディオさんが膝を着いて注意深く観察し、その横ではサージェスさんが全く笑いの気配が見えない目で子供達を見ている。
物騒な発言を冗談だとは言っていたけれど、……本気に思えるのは気のせいなのだろうか。
檻の周りに集まるガデルフォーン側の皆さんの様子を眺めていた私は、『場』へと向かったディアーネスさんの事も気懸りだったけれど、深手を負ってしまったルイヴェルさんの事を思い出し、急いでそちらへと駆け戻った。
セルフェディークさん達の治療が功を奏したお蔭で、ルイヴェルさんの意識は戻っているけれど、いつまでもこの場所でじっとしているのは良い状況とは言えない。
どこか、きちんとゆっくり休める場所に移って休んで貰わないと……。
「ルイヴェルさん、大丈夫ですか?」
「何とか、な……。アレク、すまないが……肩を貸して貰えるか?」
「駄目だ。そこで事が落ち着くまで安静にしていてくれ」
「檻の中の様子を確かめたい。……頼む」
数秒、譲らない強い意思をもってアレクさんを見つめたルイヴェルさんを、私とレイル君も止めたけれど、その意思は変わらない様子だった。
幾ら傷口の治療を終えているとはいっても、負担を強いて良いという事にはならない。出来るだけ、安全な場所に移れる時まで動かずに安静にしておかないといけないのに……。
私とレイル君、そしてアレクさんが何とか思い留まらせようと、ルイヴェルさんを取り囲んで説得を続けていると、途中から飛び込んで来て事情を知らなかったカインさんが片眉を上げて疑問の声を上げた。
「ルイヴェル、お前どうしたんだよ?」
「カインさん、あの……ですね、実は……」
「ユキ、あれはただの事故だ。説明しなくてもいい」
事情を説明しようとした私の言葉を遮り、ルイヴェルさんが事情を語らせる事を拒んだ。
私が犯した罪を、『事故』だと……、そう言い張ってくれるのは、私の心の中に在る罪悪感と傷を、これ以上大きくしないように、私が……心を痛めないように、そう気を遣ってくれているのだろう。
「あの檻の中にいる奴らが全ての元凶だという事だけわかっていればいい。それよりも、お前はどこに行っていたんだ? いつ、偽物に取って代わられていた?」
「俺もあれから何日経ったのかわかんねぇんだけどよ。幸希をお前の部屋に一人で残したあの日の夜……」
アレクさんやレイル君達と一緒に大浴場で汗を流したカインさんは、帰りに一人で東屋の方へと向かい、気分転換ついでに星を眺めていたらしい。
けれど、その途中で、あのカインさんの偽物……、その時は違う姿をしていたらしいのだけど、カインさんと言葉を少しだけ交わした後、予告もなく後ろをとられ、カインさんは気絶させられてしまったそうだ。
そして、次に意識を取り戻した時、カインさんはガデルフォーン国内でも一番危険な区域、獰猛な魔物達が住処としている場所に置き去りにされていたらしく、
「マジで死ぬかと思ったけどな……。むしろ目覚めるまでよく無事だったと思えるような光景が、はぁ……。ともかく、そいつらを片付けて、場所の把握と戻る道を探すのに手間取った。以上」
多大な疲労を抱えていたらしいカインさんは、大きな溜息と共に、ルイヴェルさんの隣へと座り込んだ。
「帰って来る時に、『場』の異変は目にしたか?」
「あぁ。近寄るのも嫌になるぐらいに面倒な気配のあれだろ? 一応何が起こってんのか確かめようと近付いてみたんだが……、下手したら呑み込まれかねなかったからな。胸糞悪ぃけど、調べるのは諦めた」
「あの中に……、ガデルフォーンの魔術師団が囚われている」
「最悪だな。あんな凶悪極まりない力が纏わり付いてるモンの中にとか……。で? 今回の騒動を引き起こしたのが、あの檻の中に入ってる奴らって事なのか?」
「あぁ。お前の偽物と、過去にガデルフォーン皇族に干渉した少女。そして……、もう一人の子供は、禁呪事件の際にもその痕跡を残している」
身体に辛さが生じているのか、ルイヴェルさんは大きく息を吐き出すと、檻の中で意識を失っている少年を指差した。
「あの子が……?」
「イリューヴェル皇帝がカインを救う為にウォルヴァンシアに駆け付けた際、攻撃を避けたあの子供は、顔を隠してはいたが、その姿を俺達の前に晒している。正確には確認できなかったが、気配だけは間違えようがない」
あの子が……、禁呪事件の終幕事件に現れた、あの仮面の人?
人の気配や魔力をまだ読む事の出来ない私とは違い、ルイヴェルさんには揺るぎない自信が見てとれる……。
「それに……」
「ルイヴェルさん?」
「いや、何でもない……。カイン、堅物のアレクに代わって、俺をあの檻の所まで連れて行ってくれないか?」
「だから、動いたら駄目ですって!!」
お医者さんなのに、どうして自分の身体に厳しい真似をするんだろう。
まだ向こうに行く事を諦めていなかったルイヴェルさんの腕を掴み、首をブンブンと左右に振った私は、「絶対に駄目です!!」と、強く念押しする。
「少し移動するぐらい、特に問題は……ない」
「いくら傷が塞がっているとはいえ、……刺されたんですよ? 私が……、この手で、ルイヴェルさんを……、刺してしまったんです。血だっていっぱい出てしまったし、身体だって辛いはずでしょう? なら、ここでじっとしていてください。でないと……」
もし、状態が悪くなって、ルイヴェルさんが倒れたりしたら……。
せっかくセルフェディークさんやサージェスさん、レイル君が治療してくれたのに、また命の危険に瀕するような事になってしまったら……。
それを思うと、不安と恐怖が胸を押し潰すように溢れ出してしまう。
「ユキ……、あれはただの事故だ。自分のせいだと思う必要はどこにもない……。それに、俺は医者だ。自分がどの程度無理をすれば死ぬかぐらいはわかる。だから、檻の方へ連れて行ってくれ」
「でも……」
「ルイちゃーん、ユキちゃんを困らせちゃ駄目じゃない。お医者さんって人種は、自分を誤魔化すのも得意だからねー。本当は全身がきつくて堪らないくせに、そんな我を張っちゃ駄目だよ。檻なら、そっちに移動させてあげるから」
ガデルフォーン側の皆さんと一緒に檻の中を見ていたサージェスさんが、いつの間にかその場所を離れ私達の許へと歩み寄っていた。
檻の方を親指で示すと、三人を閉じ込めているそれが淡く発光し、宙へと浮き上がる。
「シュディエーラ、ラシュさん、頼むよー」
まるで、どこぞの駐車場で車を誘導する係員さんのように、サージェスさんが手を振って「こっちこっち! 見えやすいように角度調整してねー」と、向こうに声を投げている。
まさか……。
シュディエーラさんとラシュディースさんが両手を檻の方に構えると、その手に生じた魔力の光が檻を成している光と混ざり合い、お二人の足が前へと動き始める。
「この辺りで良いか~?」
壁に背を預けているルイヴェルさんに見えるようにと、檻を丁度良い所に下ろしたラシュディースさんとシュディエーラさんが、混ざり合っている光を切り離し、後ろに下がった。
まだ意識が戻らない子供二人と、カインさんの偽物……。
傷だらけで血を流している三人を、眼鏡を失った深緑の双眸が、身体だけではなく、その奥を探るように射抜く。
「寝たフリをするのは……、そんなに楽しいか?」
「え……」
ルイヴェルさんは、意識のないはずの三人に、どこか苛立ちが滲んでいるかのような低く冷たい刺すような声音を向けた。
檻の中の三人に……反応は、なし。
「あぁ、やっぱりルイちゃんも気付いてた?」
「いくら女帝の宝玉によって傷付けられたとしても、眠っている者特有の気配も、気絶している場合に感じられる気配の低下もないからな。最初は気絶していたのかもしれないが、今は確実に目を覚ましているはずだ」
ピクリとも動かない三人を、他の皆も檻を取り囲んで睨んでいる。
私には全くわからないけれど、……本当に、意識が戻っているのだろうか。
通信の光により映し出された、二人の男性……。
彼らを仰ぎ見たクラウディオさんは、何故か真っ青な顔をして私から手を放した。
『速やかに報告を成せと、私は言ったはずですがね?』
銀色の髪を纏う男性が眼鏡の奥の瞳を不機嫌そうに細め、……何故か、その手に糸を通した針と布を持つと、クラウディオさんに報告を求めながら裁縫作業に入ってしまう。な、何故……、手縫い作業を始めたの? この人……。
意味不明な目の前の光景を前に、私は間の抜けた顔で見つめる事しか出来ない。
「も、申し訳ありません……。ガデルフォーン魔術師団、団長、副団長に現状のご報告を致します」
『許可します。円滑に、時間をかけずに行いなさい』
「は、はい」
手縫い作業をしている手元を見る事もなく、銀髪の男性は緊張しきったクラウディオさんの報告を聞きながら、徐々にその作業速度を加速させていく。
どうして大事な話をしている最中にそんな作業を、とか、出来上がっていくのは可愛らしいクマの人形に見えるのだけど、とか、色々聞きたい事やツッコミを入れたくなるような目の前の光景のせいで、緊張感がどんどん抜けていくような気がするのは私だけじゃないはず。
ガデルフォーン側の人達は初めて見る光景ではなかったらしく、その表情が驚きに変わったり固まるという事はなかったけれど、……アレクさん、カインさん、レイル君は銀髪の男性の手元に視線を釘づけにされてしまっている。
ルイヴェルさんの方は……、檻に囚われた子供達に注意を向けているようだ。
『……女帝陛下。我らの帰還が遅れたばかりに』
悲痛の気配を宿し、いつの間にか出来上がっていたクマの人形をポンと銀髪の男性が横に放ると、今度は左に映っていた男性がそれをキャッチし、出来の良いそれを同じく辛そうな表情で撫で始める。
『クラウディオ・ファンゼル。本来であれば、すぐに女帝陛下の後を追い、その支えとなるよう命じるところですが、今回国内の『場』に生じた得体の知れぬ力の事といい、貴方一人が行った所では足手纏い。陛下の邪魔にしかなりません。魔術師団に残っている者達もまた然り……』
少しの間、団長と副団長と呼ばれた人達は無言になり、何かを考え始める。
そこに、今まで状況を見守っていたラシュディースさんが前に出て、二人へと声をかけた。
「久しぶりだな。ヴェルク、シルヴェスト。先ほどガデルフォーンに『入れない』と言っていたが、……どういう事が説明して貰えるか?」
『ラシュディース殿下……、お戻りになられていたのですね』
『ご無沙汰しております……。ご健勝のようで何より』
二人は深々と頭を下げると、ラシュディースさんの問いに答えるべくその顔を上げた。
今、目の前のお二人がガデルフォーンに続く道を開ける為に表の世界にいる事、何度転移の法を試しても得体の知れない力に阻まれ二人の力では干渉が困難な事……。
その為、何とかガデルフォーンにいる人達と連絡が取れないか試したところ、どうにか通信だけは繋ぐ事が叶った事……。
そして、外部からの侵入を阻んでいるのが、背後の檻に囚われている子供達が何らかの形で関わっているだろうという事を、この場にいる誰もが感じていた。
檻の中の三人は、受けた傷の具合が酷いのか、ピクリとも動かない……。
『私達の帰還を阻むあの力は、魔力ではありません……。勿論、このエリュセードには、魔力以外の力も幾つか存在しますが、そのどれとも一致しない未確認の力だと思えました』
「シルヴェスト、面倒な事になるが、……その力の『採取』は可能か? 危険を伴うが、もう一度ガデルフォーンへの道に干渉し、妨害してくる力の一部をウォルヴァンシアに持ち込み、解析を依頼してくれ」
ラシュディースさんからの要請に、銀髪の男性、シルヴェストさんがその意図を正しく理解した様子で、もう一人の男性と視線を交わし、頷き合う。
「ウォルヴァンシアの国王陛下も、こちらの事情を理解している。ガデルフォーンの地を脅かす者達の内、三人の身柄を捕えた事と、ディアが『場』へと向かった事を伝えてくれ」
『御意。それでは、すぐにでも力の採取を行い、ウォルヴァンシアに向かいます。クラウディオ、私達がそちらに戻るまで、残った魔術師団の者達を指示なさい。団長代理の権限を与えます。良いですよね? ヴェルク様』
『許可しよう……。クラウディオ、俺の代わりに魔術師団を束ねる任を与える。ガデルフォーン国内の異変により、これからどんな被害が生じるかもわからない。迅速に手を打ち、民の安全を守る為に尽力してくれ……』
「……御意」
団長と呼ばれたヴェルクさんの声音に、クラウディオさんの肩がビクリと震えた。
命じられた声音に滲んでいたのは、魔術師団を任せるという責任の重みと、クラウディオさんへの信頼の心……。
ガデルフォーンへ戻れない団長さんと副団長さんの思いを胸に、クラウディオさんはその責務を果たさなくてはならない。
『場』に閉じ込められ、得体の知れない力に脅かされているユリウスさんや魔術師団の人達。
彼らを救おうと一人で向かったディアーネスさん……。
助けに行きたいのに、それが出来ない辛さを抱えたまま、重責を担う心の内は……。
「クラウディオさん……」
胸に右手当て、深々と頭を下げるクラウディオさんを見上げた私は、近くへと寄ってきたサージェスさんに支えられ、ゆっくりと立ち上がった。
本音で言えば、クラウディオさんは、今すぐにでもユリウスさん達の許に駆け付けたいと願っているはず。
たとえ、助け出す為の方法が今は見つからなくても……。
そうせずにはいられない、友人を、仲間を想うクラウディオさんの気持ちが、その背中から伝わってくる。
「クラウディオ・ファンゼル……、御命令、しかと承りました」
『それと……、通信を繋げる際に少しだけ聞こえましたが……。クラウディオ、貴方は少々短気で打たれ弱い面が目立ちます。目の前の状況に嘆く暇があるのなら、打開策を考えなさい。そして、それが出来ないのであれば、他に何が出来るのかを死ぬ気で探すのです。そちらのお嬢さんが言っていた通り、クラウディオ、貴方は無力などではないのですからね』
「副団長……」
二体目の人形、今度はウサギさんを仕上げた副団長のシルヴェストさんが、それを団長のヴェルクさんに放り、通信最後の言葉を微かな笑みと共にクラウディオさんに向けると、光と共に消え去っていった……。
――……。
「おやおや、珍しい事もあるもんだねー。シルちゃんが褒めてくれるなんて滅多にない事だよ?」
「……」
「あの、クラウディオ……、さん?」
お二人との通信が静かに終わった後、サージェスさんがクラウディオさんの前にまわり、その肩をぽむぽむと軽く叩いた。
しかし、肝心のクラウディオさんは顔をさらに真っ青な色に染め、声を発する事もなくカタカタと震えている。
……何故? 疑問と共に首を傾げた私の耳に、急に外から地を叩き付けるような凄まじい音が響き始めた。
そちらを、クラウディオさん以外の全員が振り返り、ガデルフォーン皇国の空を覆う雲から大量の豪雨が地を目指して降り注ぎ、荒れ狂う風が玉座の間へと雪崩れ込んでくる。
「はは、流石シルちゃん。凄いジンクスの威力だねー」
「ふふ、こんな時に効果を発して頂くのは、正直困り物なのですが」
サージェスさんとシュディエーラさんが、玉座の間への被害を防ぐ為、結界を張り巡らせ外からの豪風雨を遮断し、安堵のひと息を吐く。
「あの、これは一体……」
突然降り出した豪雨と吹き荒れている猛風、そして、鼓膜と心を不安に震わせるかのような雷の音。
『場』に生じた異変と同じく、また新たな災厄が降りかかったのかと心配した私に、ラシュディースさんが場違いなほどに朗らかな笑いを零し、この事態の説明をしてくれた。
「ユキ姫は、シルヴェストに会うのは初めてだったからな。知らないのは当たり前だが、アイツは普段滅多に人を褒めるような事はしないんだ。それどころか、口を開けば本人に自覚はないが嫌味が飛び出してくるような部分もある。で、その滅多に人を褒めないシルヴェストが、誰かを認めるような発言や心からの褒め言葉を口にすると……、高確率で天候が荒れるんだ」
「……はい?」
「冗談の類じゃないぞ? 正真正銘、シルヴェストが人を褒めると、今のように天候が大荒れになるんだ。すぐに治まるものではあるが、威力は健在だな」
「人を褒めると天候が荒れるって……、そんな事、普通に考えてありえないような」
一人の存在が天候を左右するなんて事が本当に有り得るのか、ウォルヴァンシア側の私達は信じられないという感情を滲ませて顔を見合わせる。
けれど、ラシュディースさんの話は、他のガデルフォーンの人達には周知の事実らしい。
「と、まぁ、シルちゃんのレア事情は横に置いとくとして、クラウディオー? 大丈夫かい?」
「……」
ガデルフォーン魔術師団副団長であるシルヴェストさんの意外すぎる珍事情から、向き合わなくてはならない本題へと戻ろうとしたサージェスさんが、ふと立ち尽くし固まっているクラウディオさんに視線を向け、笑いを堪えているかのような気配で声をかけた。
さっきと変わらず、何故かそこから一歩も動かず身体を小さく震わせているクラウディオさん。
私が心配になってクラウディオさんの許に駆け寄り、その手に触れると……。
「え……」
ゾッとするほどに冷たいクラウディオさんの手の温度……。
血の気が引いている、という問題じゃないくらいに冷え切っている手に驚いていると、シュディエーラさんが傍に歩み寄り、クラウディオさんの前で短い詠唱を唱え、にっこりと私を安心させるように微笑んだ。
そして、その詠唱が何の効果を発動したのかはわからなかったけれど、次いでサージェスさんがクラウディオさんの顔の目の前で両手をパン! と打ち合わせると、ようやく我に返った。
「か……、か、雷、は」
「絶賛お外で大暴れ中、かな。まぁ、君にはシュディエーラの術がかかってるから、雷の音だけは聞こえないだろうけどね」
「そうか……」
説明を受けたクラウディオさんが、ほっとしたように胸を撫でおろす。
けれど、私達の視線に気付いたのか、不味い所を見られたとばかりに大げさな咳払いをし、クラウディオさんは子供達を捕えてある檻へと足を向けた。
なるほど……この人。
((((雷が苦手なんだ……))))
分かりやすいというか……、逆に可愛く思えてくるような反応をするクラウディオさんに、誰も追い打ちをかけるような茶々を入れる人はいなかった。
「死んでは……、いなさそうだが、目が覚めたら覚めたでまた面倒事を起こす事は確実だろうな」
「だろうねー。あと、『場』に仕掛けた術を解くように言ったところで無駄だろうし、陛下が戻って来るまでは、こっちで逃がさないように捕えておく事しか出来ないんだろうけど。……息の根止めたら術が停止するとか、ないかなぁ」
「サージェスさんっ」
「ははっ、冗談冗談。お兄さんは平和主義だからねー。必要な時が来るまでは……、ちゃ~んと、生かしておいてあげるよ」
檻の中で倒れている三人の様子をクラウディオさんが膝を着いて注意深く観察し、その横ではサージェスさんが全く笑いの気配が見えない目で子供達を見ている。
物騒な発言を冗談だとは言っていたけれど、……本気に思えるのは気のせいなのだろうか。
檻の周りに集まるガデルフォーン側の皆さんの様子を眺めていた私は、『場』へと向かったディアーネスさんの事も気懸りだったけれど、深手を負ってしまったルイヴェルさんの事を思い出し、急いでそちらへと駆け戻った。
セルフェディークさん達の治療が功を奏したお蔭で、ルイヴェルさんの意識は戻っているけれど、いつまでもこの場所でじっとしているのは良い状況とは言えない。
どこか、きちんとゆっくり休める場所に移って休んで貰わないと……。
「ルイヴェルさん、大丈夫ですか?」
「何とか、な……。アレク、すまないが……肩を貸して貰えるか?」
「駄目だ。そこで事が落ち着くまで安静にしていてくれ」
「檻の中の様子を確かめたい。……頼む」
数秒、譲らない強い意思をもってアレクさんを見つめたルイヴェルさんを、私とレイル君も止めたけれど、その意思は変わらない様子だった。
幾ら傷口の治療を終えているとはいっても、負担を強いて良いという事にはならない。出来るだけ、安全な場所に移れる時まで動かずに安静にしておかないといけないのに……。
私とレイル君、そしてアレクさんが何とか思い留まらせようと、ルイヴェルさんを取り囲んで説得を続けていると、途中から飛び込んで来て事情を知らなかったカインさんが片眉を上げて疑問の声を上げた。
「ルイヴェル、お前どうしたんだよ?」
「カインさん、あの……ですね、実は……」
「ユキ、あれはただの事故だ。説明しなくてもいい」
事情を説明しようとした私の言葉を遮り、ルイヴェルさんが事情を語らせる事を拒んだ。
私が犯した罪を、『事故』だと……、そう言い張ってくれるのは、私の心の中に在る罪悪感と傷を、これ以上大きくしないように、私が……心を痛めないように、そう気を遣ってくれているのだろう。
「あの檻の中にいる奴らが全ての元凶だという事だけわかっていればいい。それよりも、お前はどこに行っていたんだ? いつ、偽物に取って代わられていた?」
「俺もあれから何日経ったのかわかんねぇんだけどよ。幸希をお前の部屋に一人で残したあの日の夜……」
アレクさんやレイル君達と一緒に大浴場で汗を流したカインさんは、帰りに一人で東屋の方へと向かい、気分転換ついでに星を眺めていたらしい。
けれど、その途中で、あのカインさんの偽物……、その時は違う姿をしていたらしいのだけど、カインさんと言葉を少しだけ交わした後、予告もなく後ろをとられ、カインさんは気絶させられてしまったそうだ。
そして、次に意識を取り戻した時、カインさんはガデルフォーン国内でも一番危険な区域、獰猛な魔物達が住処としている場所に置き去りにされていたらしく、
「マジで死ぬかと思ったけどな……。むしろ目覚めるまでよく無事だったと思えるような光景が、はぁ……。ともかく、そいつらを片付けて、場所の把握と戻る道を探すのに手間取った。以上」
多大な疲労を抱えていたらしいカインさんは、大きな溜息と共に、ルイヴェルさんの隣へと座り込んだ。
「帰って来る時に、『場』の異変は目にしたか?」
「あぁ。近寄るのも嫌になるぐらいに面倒な気配のあれだろ? 一応何が起こってんのか確かめようと近付いてみたんだが……、下手したら呑み込まれかねなかったからな。胸糞悪ぃけど、調べるのは諦めた」
「あの中に……、ガデルフォーンの魔術師団が囚われている」
「最悪だな。あんな凶悪極まりない力が纏わり付いてるモンの中にとか……。で? 今回の騒動を引き起こしたのが、あの檻の中に入ってる奴らって事なのか?」
「あぁ。お前の偽物と、過去にガデルフォーン皇族に干渉した少女。そして……、もう一人の子供は、禁呪事件の際にもその痕跡を残している」
身体に辛さが生じているのか、ルイヴェルさんは大きく息を吐き出すと、檻の中で意識を失っている少年を指差した。
「あの子が……?」
「イリューヴェル皇帝がカインを救う為にウォルヴァンシアに駆け付けた際、攻撃を避けたあの子供は、顔を隠してはいたが、その姿を俺達の前に晒している。正確には確認できなかったが、気配だけは間違えようがない」
あの子が……、禁呪事件の終幕事件に現れた、あの仮面の人?
人の気配や魔力をまだ読む事の出来ない私とは違い、ルイヴェルさんには揺るぎない自信が見てとれる……。
「それに……」
「ルイヴェルさん?」
「いや、何でもない……。カイン、堅物のアレクに代わって、俺をあの檻の所まで連れて行ってくれないか?」
「だから、動いたら駄目ですって!!」
お医者さんなのに、どうして自分の身体に厳しい真似をするんだろう。
まだ向こうに行く事を諦めていなかったルイヴェルさんの腕を掴み、首をブンブンと左右に振った私は、「絶対に駄目です!!」と、強く念押しする。
「少し移動するぐらい、特に問題は……ない」
「いくら傷が塞がっているとはいえ、……刺されたんですよ? 私が……、この手で、ルイヴェルさんを……、刺してしまったんです。血だっていっぱい出てしまったし、身体だって辛いはずでしょう? なら、ここでじっとしていてください。でないと……」
もし、状態が悪くなって、ルイヴェルさんが倒れたりしたら……。
せっかくセルフェディークさんやサージェスさん、レイル君が治療してくれたのに、また命の危険に瀕するような事になってしまったら……。
それを思うと、不安と恐怖が胸を押し潰すように溢れ出してしまう。
「ユキ……、あれはただの事故だ。自分のせいだと思う必要はどこにもない……。それに、俺は医者だ。自分がどの程度無理をすれば死ぬかぐらいはわかる。だから、檻の方へ連れて行ってくれ」
「でも……」
「ルイちゃーん、ユキちゃんを困らせちゃ駄目じゃない。お医者さんって人種は、自分を誤魔化すのも得意だからねー。本当は全身がきつくて堪らないくせに、そんな我を張っちゃ駄目だよ。檻なら、そっちに移動させてあげるから」
ガデルフォーン側の皆さんと一緒に檻の中を見ていたサージェスさんが、いつの間にかその場所を離れ私達の許へと歩み寄っていた。
檻の方を親指で示すと、三人を閉じ込めているそれが淡く発光し、宙へと浮き上がる。
「シュディエーラ、ラシュさん、頼むよー」
まるで、どこぞの駐車場で車を誘導する係員さんのように、サージェスさんが手を振って「こっちこっち! 見えやすいように角度調整してねー」と、向こうに声を投げている。
まさか……。
シュディエーラさんとラシュディースさんが両手を檻の方に構えると、その手に生じた魔力の光が檻を成している光と混ざり合い、お二人の足が前へと動き始める。
「この辺りで良いか~?」
壁に背を預けているルイヴェルさんに見えるようにと、檻を丁度良い所に下ろしたラシュディースさんとシュディエーラさんが、混ざり合っている光を切り離し、後ろに下がった。
まだ意識が戻らない子供二人と、カインさんの偽物……。
傷だらけで血を流している三人を、眼鏡を失った深緑の双眸が、身体だけではなく、その奥を探るように射抜く。
「寝たフリをするのは……、そんなに楽しいか?」
「え……」
ルイヴェルさんは、意識のないはずの三人に、どこか苛立ちが滲んでいるかのような低く冷たい刺すような声音を向けた。
檻の中の三人に……反応は、なし。
「あぁ、やっぱりルイちゃんも気付いてた?」
「いくら女帝の宝玉によって傷付けられたとしても、眠っている者特有の気配も、気絶している場合に感じられる気配の低下もないからな。最初は気絶していたのかもしれないが、今は確実に目を覚ましているはずだ」
ピクリとも動かない三人を、他の皆も檻を取り囲んで睨んでいる。
私には全くわからないけれど、……本当に、意識が戻っているのだろうか。
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