ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~

古都助(幸織)

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第三章『魔獣』~希望を喰らう負の残影~

ガデルフォーン魔術師団施設急襲

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 ――Side 幸希

 ――ドォォォォォン……!!

「な、何!?」

 再び仮眠の中に在った私は、突然遠くから聞こえてきた大きな爆発のような音に、ベッドから飛び起きた。
 何だろう……、音だけじゃない。部屋……、いいえ、皇宮全体に揺れが伝わって来る。

「おいおい、何なんだよ、一体!!」

「地震……とは、違う揺れだ」

「ユキ、俺の傍に!!」

「は、はい!!」

 テーブルに顔を伏せてレイル君から治療を受けていたカインさんが顔を左右に振り乱す姿を目にしながら、私はベッドを下りて壁際にいたアレクさんの傍へと駆け寄った。
 アレクさんの手に頭を庇われ、腰に腕を回される。何が起きても私を守れるようにという配慮だ。
カインさんとレイル君も私を守る様に駆け寄って来てくれる。
 暫くの間皇宮中に走る振動を感じながら、私達は不安と共に息を呑んでそれが治まるのを待った。
 
「地下か……」

「アレクさん?」

 ピクリと、アレクさんの耳が何かを感知するかのように動いたのを見た私は、足下に伝わる揺れが収まったのを確認すると、逸る鼓動を感じながらその名を呼んだ。

「今のは、……どこかで強大な力が爆発したものだと、思う。それも、地上ではなく、地下の奥深くからの衝撃の余波だ……」

「地下……、ですか」

「まさか、またアイツらが襲撃にでも来たんじゃねぇだろうな……っ」

「可能性としては有り得るが……、さっき感じた揺れや力の規模を考えると、……恐らく、相当の被害が出ているはずだぞ」

 お互いに緊迫した視線を交わしながら、私達は何が起こったのかを確かめる為に部屋の外へと飛び出した。
 皇宮の回廊を渡って来ようとしていたらしい女官さんが、何人か抱き合って座り込んでいるのが見える。

「大丈夫ですか!!」

 私達は女官さん達の方へと駆け寄り、膝を着き、無事かどうかを尋ねる。
 怯えきった顔をしているものの、その身に怪我の類は見られない。良かった。

「あっ……、ゆ、ユキ姫様……、あ、あれをっ」

 栗色の髪をした女官さんが、震える唇を開き、遠くの方から立ち昇る黒い煙を指差した。

「あれは……」

「ま、魔術師団の施設がある方角なのです……っ。あそこは、数多くの研究室があるのですが、……施設外に影響が出る事は滅多になくっ」

「ガデルフォーンの、魔術師団……、施設」

 黒銀の力の一部を採取し、その分析を行っている場所で起きた爆発……。
 
「確か……、ルイヴェルとディークも魔術師団に向かったんだよな」

 不意に、カインさんが黒い煙の方を睨み付けながら呟いた。
 アレクさんもレイル君も、一気に緊迫感を張り詰めさせて頷く。
 余波と思われる強い揺れや、あの大きな爆発音……。
 もしも、その渦中でルイヴェルさんとディークさんが巻き込まれていたとしたら?
 ううん、それだけじゃない……。魔術師団には、多くの人達が集まっているはず。
 その被害を想像した瞬間、心臓を握り潰されるかと思うほどの不安が芽生えた。

「行かなきゃ……、ルイヴェルさん達を、助けにっ」

 早く、早く、無事を確認しに行かなきゃ……!!
 嫌な予感を胸に抱きながら駆け出そうとしたけれど、すぐに背後から腕を掴まれ引っ張り戻される。
 焦る気持ちと共に後ろを振り向くと、私の腕を強い力で掴み、引き留めているカインさんの姿があった。

「先走って行こうとすんな。……大体、お前の足じゃ時間がかかりすぎるだろ」

「え……」

「転移を使ってもいいが、今の状況を考えると、何があるかわかんねぇからな。おい、番犬野郎、レイル。出来るだけ時間をかけずに行くぞ」

 低めた声音で二人へと視線を流したカインさんが、私の両足の膝裏に手を差し入れ、あっという間にお姫様抱っこ仕様へと抱き抱えてしまう。
 
「な、何やってるんですか!! カインさん!! 私、自分で走れます!! お、下ろしっ」

「ユキ」

「は、はいっ」

 腕の中にいる私の顔をグイッと覗き込み、カインさんは、爽やかすぎるほどの笑みを浮かべた。
 ――瞬間、女官さん達をその場に残し、目の前の景色が一気に加速した。
 カインさんやアレクさん、レイル君が走り出したのはわかっているけれど、この恐ろしいほどの速度は何!?
 皇宮内の景色が目にも止まらぬ速さで過ぎ去っていく!!

「ユキ、大丈夫か?」

 高速で皇宮内を移動している最中、アレクさんが心配そうに私へと視線を向けてくれた。
 
「あ、アレ、んんっ」

 あ、危ないっ。この速度じゃ、喋ろうとしても上手く言葉が紡げないどころか、舌を噛みそうになってしまう。

「ユキを絶対に落とすな……」

「うるせぇよ! 俺がそんなヘマするわけねぇだろうが!! ……っと、次の角を右だな」

 魔術師団に至る距離を縮めながら進みながら、どんどん黒い煙が上がっている場所へと近付いて行く。
 その施設にいる人達の無事を信じて、カインさんの腕の中から魔術師団の施設がある方を見つめ続ける。
 だけど、またそちらの方から大きな爆発音が響き、私達の行く手を阻むように足下が揺れ始める。

「くそっ、……あと少しだってのに!! ユキ、しっかり俺の首にしがみ付いてろよ!!」

「はい!!」

 揺れを上手くかわしながら前を走り抜けて行くカインさんに返事をし、私達は魔術師団の施設へと向かって、先程よりは速度が落ちたものの、確実に目的地へと進んで行く。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 
「サージェスさん!!」

 カインさんに運ばれて、ようやく辿り着いたガデルフォーン魔術師団の施設の入口付近。施設を支える役目を負っている太い柱には亀裂がそこかしこに見られ、怪我を負った魔術師の人達が散乱する瓦礫に混じって倒れている様子が見てとれた。
 赤い……、人の身から零れ出る血の染みが……、視界に映り込む。
 騎士服を着ている人達が怪我人の許に膝を着き、救護に当たっているようだ。
 私は入り口の所で部下の人達と話しているサージェスさんを発見し、カインさんに下ろして貰えるように伝え、急いで駆け寄った。

「サージェスさんっ、一体何が起こったんですか!!」

「あぁ、ユキちゃん。それに皇子君達も……。ごめんね、俺達も今、施設の調査と怪我人の救出に手がかかっていて、まだ詳しい事はわからないんだよ」

「あ、あの、……る、ルイヴェルさんとディークさんはっ」

「……」

 その名を縋るように呼んだ私に、サージェスさんが一瞬困惑した気配を見せると、施設の奥を指差した。

「……あの廊下の向こうには、地下の研究室に続く階段があるんだよ」

 静かな声音と共に指差されている、奥へと続く暗い廊下……。
 辺りには瓦礫が散乱しているものの、行こうと思えば進めそうな気はする。

「こっち側にいた魔術師達の話では、……ルイちゃん達は、その研究室に」

 サージェスさんが言い終わらない内に、私は横をすり抜けて駆け出していた。
 あの廊下の奥にある階段の先に、ルイヴェルさん達が!!
 無事を確かめたい思いで急ぐ私だったけれど、一瞬で前へと先回りしたサージェスさんが行く手を阻んできた。
 
「サージェスさん、道を開けてください!! は、早く、瓦礫をどけて研究室に向かわないと、ルイヴェルさん達がっ」

「ユキちゃん、ちょっと落ち着こうね。心配なのは俺も皆も同じ気持ちだよ。だけどね、現状を詳しく把握出来てないのに、ただ心配だという気持ちだけで焦っちゃ駄目だよ?」

「あ……」

 私の前に立ち、両肩に手を添え、首を振るサージェスさんの言葉で、私は我に返った。そうだった……。最初の爆発の後にも同じ事が起きていて、こんなにも沢山の怪我人を出してしまったのに……、事態の異常さと危険を、全て忘れ去ってしまっていた……。
 身近な人の無事を確かめたいという思いだけで、何の力もない身で……突き進もうとしてしまったのだ。

「ご、ごめんなさい……」

 気が付けば、私の傍には、アレクさんやカインさん、レイル君の姿が在った。

「ユキ、お前が一人で行くには、この先から感じられる力の気配は危険すぎる。騎士団の調査が終わるまでは、俺達の傍を離れないでくれ。……頼む」

「アレクさん……」

 悲しそうな気配と共に蒼の双眸を揺らしたアレクさんに、また心配をかけてしまった事を心の中で反省する。
 さっきも一人で先走ってカインさんに止められたのに、二度も同じ事を繰り返してしまった。しゅん……、と申し訳なさを噛み締めながら、三人にも頭を下げる。

「ごめんなさい。次からは気をつけますので……」

「別に落ち込まなくてもいいんだよ。反省はしてるんだろ? なら、今度は俺達を忘れずに連れて行く事を注意事項に加えとけば、それでいい」

 コツン……と、カインさんの軽く握った右拳が私の頭を小突く。
 レイル君も、私の手を握り、しっかりと胸の内を伝えてくれている。

「サージェス殿、ルイヴェル達は地下に向かったと言っていたな? それはやはり、あの黒銀の力の一部を分析する為の研究室という事で良かっただろうか?」

「うん。その通り。クラウディオも一緒に行ったみたいなんだけどね……。多分、……さっきの二度に渡る爆発の元凶は、十中八九あれだろうと思うよ」

「助けに行く事は、可能だろうか?」

「……残念だけど、地下に続く階段が瓦礫の山で埋め尽くされててね」

 埋め尽くされてる!? じゃあ、地下にある研究室に向かう為の道は……。
 また暴れ出しそうな不安と恐怖の感情に支配されかけた私は、寸でのところで自分の中で湧き上がる衝動を抑え込み、呼吸を整えた後、サージェスさんに尋ねた。

「別の場所からは、助けに行けないんですか?」

「生憎と、出入り出来る場所は、廊下の奥の階段だけなんだよ……」

「そんな……」

「だけど、ルイちゃん達が生きてるって事だけはわかるよ」

「え……」

 サージェスさんの少し暗かった表情が、私を元気づけるように優しい笑みを纏う。
 
「あのルイちゃんやディークさんが、そう簡単に死ぬわけないでしょ? むしろ、殺したって死にはしない根性と図太さの持ち主さん達だからねー。地下の研究室の方から、ビシバシ生存主張よろしく、二人の魔力が伝わって来るよ」

「生きて……るん、ですか」

「うん。間違いなくね。ただ、ルイちゃんの方は怪我人だし……、中の状況がどうなっているのかもわからない現状、早く救出しないとね」

「でも、瓦礫に道を塞がれているんですよね……」

 唯ひとつの道を塞がれては、ルイヴェルさん達を助け出す事は出来ない。
 戸惑いと共にサージェスさんを見上げていると、その唇が何かを紡ごうとした瞬間、魔術師団の施設内部が大きく揺れ始め、私達は外にある回廊へと走った。
 爆発の音は聞こえない。ただ……この振動が何を意味するのかを把握出来ないまま外に飛び出すと、サージェスさんが騎士団の人達に急いで指示を出し、怪我人達を担いで建物から離れる様に大声を飛ばした。

 ――ゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 魔術師団の施設に……数えきれない程の大きな亀裂が、最初と二度目に生じた亀裂を上書きする様に走っていく。
 黒い煙が立ち上っている、施設の中心から……何かが殻を破る様に這い出てくる。
 ワインレッドの毛を纏う巨大な体躯……、その背からは、雄々しいほどに神々しくも感じられる両翼が宙を打ち付け、皇宮の上空へと一気に身を躍らせていく。
 
『ゴォォォォォォォ……』

 獰猛な獣の、魂の奥底までも震わせるかのような低い唸り声……。
 カインさんが変身した竜型とは異なるけれど、あれもまた、竜なのだと、悟った。

「お、ヘタレ返上かなー。やるべき事は、ちゃんと果たせているようだね」

「サージェスさん?」

 黒い煙に紛れながら咆哮を上げる竜を見上げていたサージェスさんが、微笑ましそうに口許を和ませる。
 恐らく、あの竜はサージェスさんが知る存在なのだろう。
 目を凝らしてみると、上空で翼を打ち付けながら留まっていた竜の許へと、施設の中から光の球体に包まれた影が幾つも浮き上がってくるのが見えた。

「あれはもしかして、魔術師団の人達でしょうか……」

「正解。俺達ガデルフォーンの魔竜は、その形態に変化する事で、ある程度まで魔力が上がる。それを使って、自分が守るべき者達を保護したってところかな」

「守るべき……、サージェスさん、もしかして……、あの竜は」

 その体躯を彩るワインレッドの鮮やかな色合いが、私の知る人の色と一致する。
 初めて目にした、ガデルフォーンの魔竜の姿……。
 カインさんの竜型とは違い、しっかりと全身をワインレッドの毛に覆われた体躯は、見惚れる程に美しい……。
 鋭く敵意に満ちた青の双眸で遥か下を見下ろしながら、警戒の唸り声を上げる竜。
 
「クラウディオさんなんですね……」

「普段は人の姿で過ごす事の方が多いからね」

「おい、アイツ、何か……、口に魔力溜め込んでるけど、真下にぶつける気じゃねぇよな?」

 カインさんがクラウディオさんの口の辺りを指差した瞬間、それが合図にでもなったかのように、一気に施設の内部へと向かって放たれた、クラウディオさんの魔力を溜め込んで放出された一撃。
確か、カインさんのお父さんであるイリューヴェル皇帝さんが放った一撃の方は炎だったけれど、魔竜の人達は炎じゃないんだ……。
 種族によって違いがあるらしい事を知った瞬間だった。
 そして、それは見事に真下を直撃し、地上に立っている私達にも衝撃を与えてくる。

「きゃああああ!!」

「よっと、大丈夫? ユキちゃん。ごめんねー、多分、あれ、本能全開の戦闘態勢に入っちゃってるみたいだから、ちょっと俺、止めてくるねー」

「え、さ、サージェスさん!?」

 転びそうになった私を支えてくれたサージェスさんが、アレクさんへと私を預ける。倒壊しかけている施設の建物の上へと跳躍し、強く瓦礫の山を蹴って飛び上がった直後、眩いほどの青い光に包まれたかと思うと、――サージェスさんは、魔竜の姿へと変じていた。
 上空に巨大な体躯を纏ったサージェスさんが優美な線を描くように舞い上がると、クラウディオ竜さんの方へと突進し……。

 ――バシィィイィィィン!!

『グガァアアアア!!』

 まさかの……、青い尾を勢いよくクラウディオさんの顔面へと叩き付けたサージェスさん。突進したと思った瞬間、フル回転からの勢いと加速を付けられた尾の一撃は凄まじかった。あれは痛い。絶対に痛い……。物凄い音がしたものっ。
 その衝撃でクラウディオさんが手に持っていた何かが地上へと向かって零れ落ちた。
 一体何が落ちたのだろうと、皆で目を凝らした瞬間。

「る、ルイヴェルさん!? ディークさん!?」

 宙へと投げ出されたのは、私の部屋を出て行った時にはなかった酷い傷を負ったルイヴェルさんとディークさんで……。
 二人共、まるで動じる事なく流れに身を任せ、地上へと向かって加速してくる!!
 このままでは、施設の一部に身体が叩き付けられてしまい、大変な事になってしまう!!
 狼狽える私の危惧を感じ取ってくれたアレクさんとカインさん、レイル君が二人を救出しに走り出してくれたけれど、その救いの手が届く前に、ルイヴェルさん達は別の手によって助け出された。
 クラウディオさんの顔を叩き付けた後、素早く零れ落ちた二人を竜の両手のひらでぽふりと受け止めた青い魔竜、サージェスさんだ。

『ごめんねー、ルイちゃん、ディークさん。ちょっとお馬鹿な子の暴走を止めようかと思って、手荒になっちゃった』

「いや、クラウディオの許にいれば、いつ日頃の恨みよろしく握り潰されるかわからなかったからな。着地の手段は考えていたが、負担を軽減出来ただけ、良しとしておこう」

「はぁ……。本当、次から次へと面倒事ばっかりだな、この国は」
 
 サージェス竜さんの手のひらで座る体勢へと状態を変えたルイヴェルさんとディークさんの姿が見える。
 ほっと胸を撫で下ろした私の耳に、遥か上空から、深みのあるエコーがかった怒鳴り声が響く。
 何だろうと顔を上げてみると、鼻息荒く怒りに満ちた眼差しでサージェスさんを睨み付けているクラウディオさんの姿が……。

『こらっ、サージェス~!! 誰が暴走しているだと!? 俺は至って正気そのものだ!! その証拠に、攻撃の威力も調整しただろうが!! この馬鹿!! 絶対わざとだろうが!!』

 これ以上ないほどの迫力と怒声に、私は耳を押さえてしゃがみ込んでしまう。
 アレクさんとカインさん、レイル君が急いで私の許へと戻り、耳に何か術をかけてくれたお蔭で、クラウディオ竜さんの怒声から伝わる破壊力が軽減される。

「あ、ありがとう、レイル君……」

「感情のままに喚いているからな、クラウディオ殿は……。俺達の様に余波を防ぐ手段を持たないユキには害でしかない」

「はは……、そう、だね」

 サージェスさんには、まるで相手にされていないようだけど、……何だか不憫だなぁ。
 クラウディオさんって、人型の時もだけど、周りの人からどこか遊ばれているというか、その強気な態度が突き崩された時に垣間見える可愛らしい印象が、何と言うか……こう。

「いじりたくなる人、……なんだろうなぁ」

 本人には絶対に面と向かって言えない、正直な見解だった。
 態度はツンツンなのに、どこか脆い部分がまた何とも……。
 ある種の人達の嗜虐的な部分に火を点けてしまうのだろなぁ。
 こんな印象を抱いてしまって、本当にごめんなさい。クラウディオさん。
 
「何か嫌な予感が肌を這うっつーか……、ユキ、レイル、ついでに番犬野郎、もう少し後ろに下がるぞ」

「カイン皇子、ちょっと待ってくれ。魔力球に保護されている魔術師達がこっちの方に……」

 レイル君の言う通り、施設の上空に浮いていた透明な球体に包まれていた魔術師の人達が、ゆっくりとこちらに吸い寄せられるように移動してくる。
 シャボン玉がはじけるように、傷を負った魔術師の人達が地面に倒れ込む。
 
『騎士団員全員に通達! すぐに怪我人を全て回収し、この場を離れるように!!』

「「「「「了解です!!」」」」」

 青い体躯のサージェスさんの声が辺り一帯に響き渡り、騎士団の人達が迅速な行動に移っていく。
 
「あの、私もお手伝いさせてください!!」

 近くに倒れていた魔術師の女性へと駆け寄り、彼女の身体を支えて立ち上がった私は、よろよろとしながら騎士団の人達に続いていく。

「すみませ……ん」

「大丈夫ですか? すぐに安全な場所で治療をして貰いますから、それまで、どうか頑張ってください」

 私と同じくらいの背丈の女性を励ますように声をかけながら歩いていると、背後からまた爆発音があがり、私達は驚愕と共に振り向いた。

「……嘘」

 魔術師団の施設……、その奥深くから、禍々しい黒銀の光を纏う煙が大量に噴き出すのが見えた。
 それは上空で巨大な獣、……クラウディオさん達と同じような竜の姿を模した形へと変化し、不気味な咆哮を轟かせた。

「ユキ!! 早く離れるぞ!! あとは、サージェス達に任せとけ!!」

「で、でも、まだ、ルイヴェルさん達もあそこに……」

「大丈夫だ、ユキ。ルイの事なら、ディークが付いている。危なくなれば、すぐにこちらへ合流してくるはずだ」

「その通りだ。あっちは戦闘の上級者だ。サージェス殿達の足手纏いにならぬよう、俺達は退避する事だけを考えよう」

「レイル君……」

 それぞれが怪我人を背負いながら、私を退避先に促してくる。
 まだ上空にいるサージェスさん達を名残惜しげに見てから、私は心を決めて歩みを進めようとした。
 けれど、そんな私達の逃げ道を塞ぐように、恐ろしい気配と共に退路を塞ぎに現れたのは……。

『グルル……!』

 敵意の気配を含む……、獣の姿を纏った、――瘴気の獣達だった。
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