「あんたみたいな雑魚が彼氏で恥ずかしい」と振られましたが、才色兼備な彼女ができて魔法師としても覚醒したので生活は順調です〜ヨリ?戻せないよ〜

桜 偉村

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第一章

第117話 合宿二日目③ 〜一方エリアは〜

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 シャーロットがそうであったように、エリアを囲う結界もまた、魔法の気配、視覚や聴覚、嗅覚などの感覚を遮断する効力——触れる事ができたため、触覚までは排除していないだろう——を有していた、
 しかし、姉のように戦う必要はなかった。

「僕は君の保護者だ。逃げ出さないように監視しているだけで、攻撃したりはしないよ。むしろ、傷つけるなと言われているからね」

 エリアの前に姿を現した男は、あっけらかんとそう言った。

「そんなことを言っちゃっていいの?」
「問題ないさ。君の攻撃力が低いことは知っている。この結界を破ることはできないよ」
「……あんた、スミス家の人間ではないよね?」

 エリアはアローラが仕掛けてきたことを確信していた。
 その上で、目の前の男がその臣下ではないと直感した。

「へぇ……よくわかったね。さすがはテイラー家の次期当主だ」

 男がパチパチと手を打ち鳴らした。

「そうだよ。僕はただアローラ・スミスに雇われただけさ」
「……そのアローラは今、お姉ちゃんと戦っている?」
「ご明察」

 本当に、事情を隠すつもりはないようだ。

「アローラがお姉ちゃんに勝てると思っているの?」
「あぁ、勝てるさ」

 男は断言した。
 虚勢を張っているようには見えなかった。

(本当に勝てると思っているからこそ引き受けたし、事情もべらべらと話すんだろうな)

 エリアはアローラの狙いに薄々気がついていた。
 もしもエリアを傷つけないように命じられているというのが本当なら、おそらくその推測は当たっている。

「ヘンリー先生はどうなっているの?」
「一緒にいた先生の事かい? さあ、知らないね。僕はあくまでアローラがシャーロットと戦っている時に君を監視するのが任務だから」

 わざわざヘンリーの情報だけを隠蔽する理由はない。本当に知らないのだろう。

(ヘンリー先生がこの一件に関わっているのかはもちろん気になるけど、今はそれよりも結界からの脱出方法を考えるべきだね)

 アローラの狙いが何であろうと、そしてヘンリーが敵であろうとなかろうと、エリアが結界内にとどまっているメリットはない。

 彼女との接続が切れたことでノアに預けてある使い魔も消えるため、彼はエリアに何らかの異変が起きていることは気づいているだろうが、この結界は魔法の気配や視覚、聴覚、嗅覚すらも遮断する。
 外からは普通の景色が続いているようにしか見えないし、エリアたちの声も聞こえない。
 その存在を確かめるためには、直接触れるしか方法はない。

 しかし、それも難しいだろう。
 結界に囲まれた瞬間、わずかに浮遊感があった。現在地は木の上か建物の中である可能性が高いのだ。
 いくらノアでも、最初は地上から調べるだろう。

(それなら一か八か、この男が本当に私を傷つけないことを信じて脱出を試みるしかない)

 エリアは覚悟を決めて身体強化を発動させた。
 自身の出せる最速で動き回り、同じく最強の技を結界にぶつける。
 しかし破壊どころか、ヒビすらも入らない。

「無駄だよ。さっきも言ったでしょ? 君の攻撃力が低いのは知っているって。この結界は君では絶対に——」

 小馬鹿にしたような男のセリフを無視して、エリアは結界への攻撃を続けた。
 足を止めることなく、さまざまな場所に攻撃を当てていく。

「無駄だって言っているだろ。その程度の攻撃じゃ、一生かかったって傷すらつけられないよ」

 男が苛立ちを見せた。
 それでもエリアを制止するそぶりは見せない。
 どうやら、傷つけるなと言われているのは本当なようだ。

 エリアはそれからもしばらく足掻き続けたが、やがて足を止めた。

「はあ……はあ……!」

 荒い呼吸を繰り返す。
 いくら魔法で身体能力を強化していたとはいえ、魔法を放ちつつ全力疾走を続けたのだ。疲れて当然だ。

「やっと諦めたか。貴族のご令嬢というのは意外と脳筋なんだな」

 男は怒りを通り越して、もはや呆れているようだった。

「筋トレと同じよ……」
「はっ?」
「無理かなって思ってから、もうちょっとやると……自己肯定感上がるでしょ? 私、今……かつてないほど爆上げ中よ」
「……訳がわからないね」

 男はお手上げだ、とでもいうように肩をすくめた。
 少しずつ、エリアの呼吸も整ってくる。

「あー、疲れたー……ねえ、なんでこんな仕事をしているの?」
「当然、金回りが良いからだよ」
「ふーん。あなたなら普通に稼げそうだけど」
「普通じゃダメなんだよ。普通にやってちゃ、なんでも自由になるほどのお金は集まらない」
「だから犯罪にも手を染めると?」
「そうだよ。この世界は結局強い奴が勝つ。王族や貴族が堂々と犯罪まがいのこと、いや、犯罪ができるのも権力を持っているからだ。望むなら奪い取ればいいし、奪われたくないなら強くなればいい。平等や正義なんていうのは、強くなろうともしない真の弱者の戯言ざれごとさ」
「……なるほどね」

(この男は、中途半端に力を持ってしまったんだな)

 真の弱者、そして真の強者はここまで極端な思想に陥る事はない。
 自分と根っこの部分は同じなのかもしれないな、とエリアは思った。

 彼女の能力も使いこなせれば強力だが、どうやっても主役——真の強者にはなれない類だ。
 だからと言ってエリアはその事を悲観していないし、心が歪んでもいないが、男は自分よりも上がいるという事に耐えられなかったのだろう。
 だから、人の道を外れてしまった。

「……何か言いたげだね。子供特有の正論ってやつでもくれるのかい?」
「別にそんなつもりはないよ」

 エリアは苦笑しながら首を振った。

「あんたってさ、どれくらいまで真っ当に生きてたの?」
「さあ? ちょうど君たちくらいじゃない?」
「そっか。もし同級生だったら仲良くなれてたかもしれないね」
「君も僕と一緒にこちら側に堕ちていたって事かい?」
「違うよ。私があなたを引っ張り上げてたって事。もっとも——」

 エリアは口の端を吊り上げた。

「——今私が引っ張ってきたのは、おそらくあんたが手がウニョウニョ生えてくるほど欲しがっている、圧倒的な実力だけどね」
「何……?」

 男は怪訝そうに眉をひそめた。
 その表情はすぐに、驚きに染まった。

「なん……だと⁉︎」

 男が目を見開いたまま固まった。
 裏の世界の住人としてあるまじき隙の多さだったが、そうなるのも仕方ないだろう。

 突如として、霧が晴れるように結界がみるみる消滅していったのだから。
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