7 / 63
第7話 草原へ
しおりを挟む
森の出入口だろう場所へ近づくと、目の前の視界が一気に広がった。
雄大な草原だが、一面が草原というわけではなくて、地形が隆起している場所が何か所もある。
その隆起物は、筒状で直径が数十メートル、高さが五~三十メートルくらいの突起物という感じだ。
突起物の一番上は、平らになっている。あの上でなら、武闘会とかできそうだ。
「これからどっちに向かいます?」
『方角は同じく北にしてみるか。外れるかもしれないが、単に北の方が恒星の位置関係を把握しやすい。それから、まず、この草原にいるモンスターを見つけて戦ってみろ。仮にお前が勝てないようなレベルなら、今の森へ引き返すしかないな』
そう言われて、目の前の草原を走り出した。
目の前を見る。なんとなくだが、これは本当にゲームの様だ。
走ってもそれほど疲れるわけでもないし、刀は持ったままだ。
不謹慎なのかもしれないが、ワクワクしてきた。
自分にそれなりのスキルがあるのが面白い。
ベゼルには魔力の消費を抑えろ、と言われているが、今、自分ができる技は、ダッシュ斬り以外にも既に複数思いついていた。
モンスターが出たら、試してみようかとも思う。
しばらく走っていると、モンスターの気配を感じた。
複数だ。
ただ、一つ一つがそれほど強いわけじゃない。しかも、そのモンスターはこちらへ向かってきているようだ。
周囲を見渡すと、先ほどの突起物の一つが目に入る。
この上で、待ち伏せをした方がいいかもしれない。
そう思って、突起物の上に三回のダッシュで登っていく。
突起物の高さは十五メートル弱だった。
突起物の上で、しゃがみながら前方を見据えていると、五体の生き物が走って近づいてくる。
生き物の頭には二本の角が生えている。
鹿のような生き物だ。
「ベゼルさん、どうします?」
『あれは見たことがあるな。それほど強いわけじゃないが、素早い。この突起物から下りて、あれらが通り過ぎるところを狙え』
急いで突起物から下りていく。
そして突起物の陰に隠れて、これからこちらへ来るモンスターから自分が見えないように注視して、あれらを監視していく。
もう十メートル、五メートル……。
次の瞬間、五匹が突起物を通り過ぎる死角を狙って、ダッシュ斬りで五匹の内で最後尾にいた一体に斬り掛かった。
が、気づいて避けられた。
しかし、不思議なことに、この一体は立ち止まってこちらを見据えてきた。
地球上の動物だと、横から攻撃されて、初撃を避けられたなら、そのまま向きを変えて逃げるように思うが、この生き物はそうではないらしい。
戦うつもりのようだ。
しかし、残りの四体は、この一体を残して走り去っていく。
一対一だ。
次の瞬間だった。目の前の鹿の角が青色に光り始めた。
これはヤバイ。
直感でそう感じた。多分、何かの魔法を使ってきそうだ。
どうすべきか一瞬で判断した。
自分も体全体に風魔法を使い、それと同時に、右足に強めに風魔法を使う感じで、大地を思い切り蹴った。
普段よりかなり早い速度で一気に距離を詰めることができる。
相手の鹿が一瞬怯んだような動作を見せたが、迷わず、刀を振りぬいた。
スパっという手ごたえと共に相手の首を斬り落としていた。
落ちた首の鹿の角は青色に光っていたが、首を斬り落とされると同時に徐々にその光を失っていく。
なんとか勝てたようだ。
『上出来だ。その鹿の角が光っていたのは氷魔法を使おうとしたからだが、その起動にはやや時間が掛かる。おまえなら何もアドバイスしなくても何とかなると思ったが、上出来だ。それに……』
「なんでしょうか?」
『お前は、俺の本来の戦闘スタイルと相性がいいようだ。俺は高位種だという話をしたが、俺が強い最大の理由は、相手との間合いを瞬間的に詰められることにある。今お前がやったようにだ。風魔法で体全体を覆って一気に加速する。そして、単に力に任せて刀を振りぬく。単純だが、この世界ではこのスタイルは相当通用する。なぜなら、大半の敵は魔法を起動して戦おうとするが、殺すつもりなら魔法を起動させる前に斬ってしまえばいいだけだ。相手に付き合って、魔法で闘う必要はない』
「じゃあ、今僕がやった戦闘スタイルを極めた方がいいということですか?」
『そうなる。この戦法は先天的に肉体の膂力が有る者にとっては極めて相性がいい。この体はかなり力があるが、それが幸いしている。お前が魔族の下位種の真ん中と云ったが、既に下位種の中でも上の部類に入るかもしれない』
なんかよく分からないが、とりあえず今の自分は結構強いようだ。
それに、正直、結構面白い。動き次第ではゲームの無双がほぼ再現できるとしか思えない。
とりあえず、鹿の頭を食べてみることにする。鹿を見るが、可哀想になる。
今までは自分の生死も切羽詰まっていたから、モンスターを殺しても何も思わなかったが、今回は何故か可哀想になった。鹿に向かって目を閉じて、手を合わせた。
それから鹿の頭を掴んで口の近くへ持って行く。
食べてみると、今まで食べたものよりは満腹感が高い。
ここで一つ試したくなったので、ベゼルに提案してみる。
「ベゼルさん、風魔法で教えてもらいたいことがあるんですが」
『なんだ?』
「刀を振りぬいた時に、同時に刀から風の魔法を飛ばして、相手を切ることはできないでしょうか? 最初の一撃を外しても、相手が直線上に逃げるなら風魔法が追撃の効果を生むと思うんですが」
『いいだろう。教えてやろう。それに、その鹿の残りの部分を食べれば、魔力はそれなりに回復するはずだ。多少魔力を消費しても、今のうちに魔法の練習をしておいた方が良さそうだ』
自分としてはゲームで刀を振ると、三日月の波動が飛んで行く技をよく見るから、それをイメージしただけだが、ベゼルの返答からすると、この世界でもできるのか。この世界はゲームと親和性が良さそうだ。
***********
ベゼルに風・火・氷・土の魔法を教えてもらった。
刀を振り切った時に飛び道具を出すのはウィンドスラッシュと名付けよう。
試してみた感じでは、刀を振り切ってから、三メートルくらいの三日月型の波が飛んで行く感じだ。
射程距離は三十メートルくらいありそうだが、ただ、殺傷能力という点では、十五メートルが限界な気がする。
火の魔法については、一度、刀を鞘に納めて、鞘の内部で火の魔法を使い、刀に炎を纏わせる。
そして、鞘から刀を抜いて、相手を焼きながら切るとういう感じだろうか。
これは属性だと思った。火に弱い系のモンスターを見たら、これを使って焼き切ればいいのではないだろうか。
以前、刀の刃紋にあたる部分に三本の線があることに気づいたが、どうも刀に属性を与えると、この部分が光るようだ。
一本の線が赤くなっていた。最終的には複数の属性を刀に纏わせることができるのかもしれない。
氷魔法も同じだ。刀を鞘に納めて、刀の表面を凍らせて切ればいい。火と氷の魔法は、飛び道具として、火の塊や氷の塊を飛ばすこともできたが、正直、遅い。相性の問題もあるだろうが、実戦では使いづらいと思った。風魔法でスラッシュした方が使えるはずだ。
土魔法は単純に土を生成できて、地面を動かしたり、石を飛ばしたりできる感じだ。
ただ、どうもこの土魔法は、自分とは相性が悪い感じがする。
火魔法や氷よりも、もっと石の飛んで行く速度が遅い。
使えないと思った。
早速実践をしてみよう。
そう思って、草原へ走り出していた。
雄大な草原だが、一面が草原というわけではなくて、地形が隆起している場所が何か所もある。
その隆起物は、筒状で直径が数十メートル、高さが五~三十メートルくらいの突起物という感じだ。
突起物の一番上は、平らになっている。あの上でなら、武闘会とかできそうだ。
「これからどっちに向かいます?」
『方角は同じく北にしてみるか。外れるかもしれないが、単に北の方が恒星の位置関係を把握しやすい。それから、まず、この草原にいるモンスターを見つけて戦ってみろ。仮にお前が勝てないようなレベルなら、今の森へ引き返すしかないな』
そう言われて、目の前の草原を走り出した。
目の前を見る。なんとなくだが、これは本当にゲームの様だ。
走ってもそれほど疲れるわけでもないし、刀は持ったままだ。
不謹慎なのかもしれないが、ワクワクしてきた。
自分にそれなりのスキルがあるのが面白い。
ベゼルには魔力の消費を抑えろ、と言われているが、今、自分ができる技は、ダッシュ斬り以外にも既に複数思いついていた。
モンスターが出たら、試してみようかとも思う。
しばらく走っていると、モンスターの気配を感じた。
複数だ。
ただ、一つ一つがそれほど強いわけじゃない。しかも、そのモンスターはこちらへ向かってきているようだ。
周囲を見渡すと、先ほどの突起物の一つが目に入る。
この上で、待ち伏せをした方がいいかもしれない。
そう思って、突起物の上に三回のダッシュで登っていく。
突起物の高さは十五メートル弱だった。
突起物の上で、しゃがみながら前方を見据えていると、五体の生き物が走って近づいてくる。
生き物の頭には二本の角が生えている。
鹿のような生き物だ。
「ベゼルさん、どうします?」
『あれは見たことがあるな。それほど強いわけじゃないが、素早い。この突起物から下りて、あれらが通り過ぎるところを狙え』
急いで突起物から下りていく。
そして突起物の陰に隠れて、これからこちらへ来るモンスターから自分が見えないように注視して、あれらを監視していく。
もう十メートル、五メートル……。
次の瞬間、五匹が突起物を通り過ぎる死角を狙って、ダッシュ斬りで五匹の内で最後尾にいた一体に斬り掛かった。
が、気づいて避けられた。
しかし、不思議なことに、この一体は立ち止まってこちらを見据えてきた。
地球上の動物だと、横から攻撃されて、初撃を避けられたなら、そのまま向きを変えて逃げるように思うが、この生き物はそうではないらしい。
戦うつもりのようだ。
しかし、残りの四体は、この一体を残して走り去っていく。
一対一だ。
次の瞬間だった。目の前の鹿の角が青色に光り始めた。
これはヤバイ。
直感でそう感じた。多分、何かの魔法を使ってきそうだ。
どうすべきか一瞬で判断した。
自分も体全体に風魔法を使い、それと同時に、右足に強めに風魔法を使う感じで、大地を思い切り蹴った。
普段よりかなり早い速度で一気に距離を詰めることができる。
相手の鹿が一瞬怯んだような動作を見せたが、迷わず、刀を振りぬいた。
スパっという手ごたえと共に相手の首を斬り落としていた。
落ちた首の鹿の角は青色に光っていたが、首を斬り落とされると同時に徐々にその光を失っていく。
なんとか勝てたようだ。
『上出来だ。その鹿の角が光っていたのは氷魔法を使おうとしたからだが、その起動にはやや時間が掛かる。おまえなら何もアドバイスしなくても何とかなると思ったが、上出来だ。それに……』
「なんでしょうか?」
『お前は、俺の本来の戦闘スタイルと相性がいいようだ。俺は高位種だという話をしたが、俺が強い最大の理由は、相手との間合いを瞬間的に詰められることにある。今お前がやったようにだ。風魔法で体全体を覆って一気に加速する。そして、単に力に任せて刀を振りぬく。単純だが、この世界ではこのスタイルは相当通用する。なぜなら、大半の敵は魔法を起動して戦おうとするが、殺すつもりなら魔法を起動させる前に斬ってしまえばいいだけだ。相手に付き合って、魔法で闘う必要はない』
「じゃあ、今僕がやった戦闘スタイルを極めた方がいいということですか?」
『そうなる。この戦法は先天的に肉体の膂力が有る者にとっては極めて相性がいい。この体はかなり力があるが、それが幸いしている。お前が魔族の下位種の真ん中と云ったが、既に下位種の中でも上の部類に入るかもしれない』
なんかよく分からないが、とりあえず今の自分は結構強いようだ。
それに、正直、結構面白い。動き次第ではゲームの無双がほぼ再現できるとしか思えない。
とりあえず、鹿の頭を食べてみることにする。鹿を見るが、可哀想になる。
今までは自分の生死も切羽詰まっていたから、モンスターを殺しても何も思わなかったが、今回は何故か可哀想になった。鹿に向かって目を閉じて、手を合わせた。
それから鹿の頭を掴んで口の近くへ持って行く。
食べてみると、今まで食べたものよりは満腹感が高い。
ここで一つ試したくなったので、ベゼルに提案してみる。
「ベゼルさん、風魔法で教えてもらいたいことがあるんですが」
『なんだ?』
「刀を振りぬいた時に、同時に刀から風の魔法を飛ばして、相手を切ることはできないでしょうか? 最初の一撃を外しても、相手が直線上に逃げるなら風魔法が追撃の効果を生むと思うんですが」
『いいだろう。教えてやろう。それに、その鹿の残りの部分を食べれば、魔力はそれなりに回復するはずだ。多少魔力を消費しても、今のうちに魔法の練習をしておいた方が良さそうだ』
自分としてはゲームで刀を振ると、三日月の波動が飛んで行く技をよく見るから、それをイメージしただけだが、ベゼルの返答からすると、この世界でもできるのか。この世界はゲームと親和性が良さそうだ。
***********
ベゼルに風・火・氷・土の魔法を教えてもらった。
刀を振り切った時に飛び道具を出すのはウィンドスラッシュと名付けよう。
試してみた感じでは、刀を振り切ってから、三メートルくらいの三日月型の波が飛んで行く感じだ。
射程距離は三十メートルくらいありそうだが、ただ、殺傷能力という点では、十五メートルが限界な気がする。
火の魔法については、一度、刀を鞘に納めて、鞘の内部で火の魔法を使い、刀に炎を纏わせる。
そして、鞘から刀を抜いて、相手を焼きながら切るとういう感じだろうか。
これは属性だと思った。火に弱い系のモンスターを見たら、これを使って焼き切ればいいのではないだろうか。
以前、刀の刃紋にあたる部分に三本の線があることに気づいたが、どうも刀に属性を与えると、この部分が光るようだ。
一本の線が赤くなっていた。最終的には複数の属性を刀に纏わせることができるのかもしれない。
氷魔法も同じだ。刀を鞘に納めて、刀の表面を凍らせて切ればいい。火と氷の魔法は、飛び道具として、火の塊や氷の塊を飛ばすこともできたが、正直、遅い。相性の問題もあるだろうが、実戦では使いづらいと思った。風魔法でスラッシュした方が使えるはずだ。
土魔法は単純に土を生成できて、地面を動かしたり、石を飛ばしたりできる感じだ。
ただ、どうもこの土魔法は、自分とは相性が悪い感じがする。
火魔法や氷よりも、もっと石の飛んで行く速度が遅い。
使えないと思った。
早速実践をしてみよう。
そう思って、草原へ走り出していた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
413
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる