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第17話 軽めのピンチ
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カルディさんに僕が魔族だと指摘されてしまった。
何故だ? 何故、人族でないとバレてしまったのだろう?
「……いえ、僕は人族です」
カルディさんはフフンと笑ってから、話を続けた。
「あなたが人族でないことなど、皆分かっていますよ。リーシャさんもお婆さんもそうでしょう」
そう言われて、お婆さんの方を見ると、バツの悪そうな顔をしていた。
「済まないねぇ。あんたが、私たちの食事を食べるもんだから、一応あんたにも出していたんだけど、口に合わなかったかい?」
バレてたのかよ!
「ああ、こちらこそ済みません。たしかに僕は人族ではありません。あまり皆さんに迷惑を掛けたくないので、人族として振る舞ったつもりでした」
そう言ってから、カルディさんに視線を移した。
「どうして僕が人族でないと分かったのですか?」
カルディさんはここで不思議そうな顔をした。
「え? 君はそんなことも分からないのかい?」
「はい。分かりません」
「モンスタープラントを単体で倒せる人族などいるわけないだろう。しかし、君の外見は人族だ。獣族なら何かしら外的な特徴があるが、君にはそれがない。なら、残りの可能性としては、人族と同じような外見をしている〝魔族〟という可能性しかない」
ああ、そういえばリーシャにも似たような理由で見破られたか。じゃあ、ビルドとセリサも気付いている可能性が高いか。
「なるほど、実は既にリーシャにも同じ理由で僕が人族でないと見破られていました」
「何で君はそんな嘘を付いていたのかね?」
どうしようかと思ったが、結局、ベゼルについて以外、リーシャと同じように全て打ち明けることにした。
ただ、極端に細かい話は省いた。猫豹族とかの話はしなかった。
リーシャは一度聞いた話であったはずだが、黙って僕の話を聞いていた。
僕が話し終えるまで、カルディさんとお婆さんは一度も口を挟まなかった。
「なるほど。だから、君は人族の国へ行って自分が何なのか知りたい、というわけか」
「そういうことになりますね」
カルディさんは天井を見つめながら、少し考えていた。そして、こちらへ視線を移してきた。
「面白いですね。君一人で大変というならば、私も人族の国を目指してもいいですよ」
「え? 本当ですか?」
「ええ、何せ退屈でしたので。私自身かつては、大陸を多少移動していた時期がありましたので、力になれることもあるでしょう」
「ああ、それは助かります」
そう言って、思わず手を出してしまった。カルディさんは少し驚いたような表情をしたが、僕の手に自分の手を近づけてきて握手をしてくれた。
「では、マサキ君、とりあえず君の力が見てみたいです。ダンジョンに入ってモンスターと闘えば君の実力が分かるでしょう。それによって、私とあなたで人族の国を目指せるかどうかを考えてみましょう」
この後、カルディさんと色々話をしたが、カルディさんとしては強い者と行動できるのは単に面白い、というのが理由のようだ。
どうもカルディさんは羽翼種自体があまり好きではないようだ。
運搬業務よりは何かと闘うことの方に興味があるらしい。
それはおそらくグリフォンの血のせいなのだろう。
一通り話をした後、カルディさんは家を出て行ってしまった。
ダンジョンへは明日潜るという事になった。
部屋で休んでいると、ドアがノックされた。リーシャだろう。
どうぞと言うと、やはりリーシャが入ってくる。表情は嬉しそうだ。
「良かったですね。これで私たちの旅もうまくいきそうですね!!」
「……いや、リーシャは行かない方がいいんじゃないか?」
リーシャは驚いた顔をした
「え? どういうことでしょうか?」
「僕とカルディさんが人族の国へ行って、それでまたカルディさんがこちらへ何か情報を届けてくれれば、それでいいんじゃないの? リーシャが行くのは危険な気がするよ。今日の昼間にリーシャの友人のセリサは、君がダンジョンに潜るだけで心配していたじゃないか。彼女だけじゃない。お婆さんも、きっとリーシャには危険を冒してほしくないと思っているはずだ」
リーシャは少し怒ったような表情をして返答してきた。
「いえ、私も行きます」
「どうして? 別にそれなりの情報を持って帰ればいいんじゃないの?」
「私は羽翼種のためになる物を持ち帰りたいのです。私の両親は病気で死亡しています。しかし、後から聞いた話では、人族の医療技術があれば助かったかもしれないという話でした。羽翼種のために人族の国を赴く必要があります。それに私自身、人族の国へ赴いて勉強したいのもあります。あとは場合によると、カルディさんは一人で人族の国から、帰ることになりますよね? 彼一人では大変でしょう」
「……」
これは意思が固そうだ。
リーシャをこれ以上引き止めるのは無駄だろう。
こちらに言わなくても、本人は死ぬ可能性をもちろん想定しているはずだ。
もう本人は覚悟を決めている。
とすると……。
*************
リーシャは怒って、そのまま部屋を出ていくかと思ったが、そんなことはなかった。
ここ最近のいつもの通り、僕に勉強を習いたいようだ。
相変わらず数学を教えていく。
高校生程度の知識なら基本的には二次方程式と微分積分さえ解ければ、まぁ大体の問題は解けることになる。
物理では微分積分の知識があった方が良いが、その辺の知識は後でもいいかもしれない。
しかし、ここしばらく、この地で勉強していて気づいたことがある。
どうもこの世界の魔法の知識というのは、数学等の知識の理解量に応じて習得レベルが変化するような気がした。
魔法を使った時に感じるのだが、魔法は使う直前になんというか、プログラミングのような物を書いているようなイメージがある。術式という感じか。
僕は魔法を難なく使えているが、どうも以前の知識が役に立っているように感じる。
もしかすると、リーシャはこの勉強をすることで術式のコントロール、ひいては魔法技術が向上するかもしれない。
そんなことを漠然と考えていると、リーシャの手が止まっていることに気づいた。
リーシャの方を見た。彼女と目が合う。
じっと見つめ合ってしまった。
彼女が顔を赤くして目を逸らしてしまった。
なんか気まずい……。
しょうがないので、立ち上がって、本棚の近くへ行く。そして、物理の本を取って戻って来た。
「今日はその数学の応用で、物理をやってみよう。簡単な問題を作るからちょっとやってみて」
そう言って、彼女に物理を教えていった。
****************
リーシャが部屋を出て行って、一人になるとベゼルが話しかけてきた。
『あのカルディという奴は使えるな。あいつと一緒に人族を目指すのがいいだろう』
「その点は同意です。彼がグリフォンの血を引いているというなら、おそらく飛行速度も通常の羽翼種に比べれば、遥かに速いはずです。ダンジョンに潜らず、すぐにカルディさんと人族の国を目指しますか?」
『いや、カルディと一緒にダンジョンに潜れ。どの程度の力を持っているか確認したい。それに、もしかするともう一人付いてくるかもしれない』
誰かは想像がついた。
「カルディさんのお孫さんですか?」
『そうだ。おそらく、カルディの孫とやらも羽翼種の生活に退屈しているはずだ。その両者をうまく丸め込んで、人族の国へ向かわせるのがいいだろう』
「ベゼルさんの考えでは、その二人と僕で人族の国へ行くことは可能だと思いますか?」
「大半の地域は、おそらく問題がなく突破できるはずだ。だが、魔族の上位種の地域だけは無理だろう。あのレベルでは確実に死ぬ」
『そんなに魔族の上位種は強いのですか?』
「強い。獣族も魔族も一般的には下位、中位、上位と区分されているが、獣族と魔族では階層が一個ズレているくらいだな。獣族の上位種は、魔族の中位種の真ん中から上という感じか。グリフォンは獣族での鳥種の最上位という話だが、単体で魔族の上位種に勝てることはない。数十体で挑むなら話は別だろうが」
「カルディさん、カルディさんのお孫さんと、僕が協力しても魔族の上位種のいる地域を抜けられませんか?」
『魔族の上位種というのはピンキリだ。前にも言ったが、俺達のような魔族の高位種は同じ魔族でも段違いの強さだ。その気になれば、全ての魔族の上位種を殺すこともできる。それくらい差がある。また、魔族の上位種の中でも強さの幅は広い。中位種に近いか、それとも高位種に近いかでかなり差がある。仮に上位種の縄張りに近づいても、その地域を支配している魔族がどれくらいの強さかは近づいてみないと分からない。三人で近づいて仮に相手が上位種の中で強い者であった場合は、即死だろう。おそらく一分掛からずに全滅させられる』
「逃げることも無理ですか?」
『無理だ。カルディ達はおそらく自分の飛行速度には自信があるのだろうが、魔族の上位種の風魔法の移動速度は次元が違う。飛ぶだけで周囲が破壊される。自分だけでなく大気そのものを揺さぶり、それを貫通していく。グリフォン程度ではそこまでの早さは出せない』
てことは魔族の上位種に注意しなきゃいけないのか。
『ただ、魔族の上位種に関してはなんとかする方法がないわけじゃない。俺に案がある』
前にもベゼルはこれと同じことを言っていたが、正直、信用する気にはならない。
カルディさん達を犠牲にして、僕だけ突破するという案にしか思えない……。
そんなことを考えながら、その日は眠りについていくのであった。
何故だ? 何故、人族でないとバレてしまったのだろう?
「……いえ、僕は人族です」
カルディさんはフフンと笑ってから、話を続けた。
「あなたが人族でないことなど、皆分かっていますよ。リーシャさんもお婆さんもそうでしょう」
そう言われて、お婆さんの方を見ると、バツの悪そうな顔をしていた。
「済まないねぇ。あんたが、私たちの食事を食べるもんだから、一応あんたにも出していたんだけど、口に合わなかったかい?」
バレてたのかよ!
「ああ、こちらこそ済みません。たしかに僕は人族ではありません。あまり皆さんに迷惑を掛けたくないので、人族として振る舞ったつもりでした」
そう言ってから、カルディさんに視線を移した。
「どうして僕が人族でないと分かったのですか?」
カルディさんはここで不思議そうな顔をした。
「え? 君はそんなことも分からないのかい?」
「はい。分かりません」
「モンスタープラントを単体で倒せる人族などいるわけないだろう。しかし、君の外見は人族だ。獣族なら何かしら外的な特徴があるが、君にはそれがない。なら、残りの可能性としては、人族と同じような外見をしている〝魔族〟という可能性しかない」
ああ、そういえばリーシャにも似たような理由で見破られたか。じゃあ、ビルドとセリサも気付いている可能性が高いか。
「なるほど、実は既にリーシャにも同じ理由で僕が人族でないと見破られていました」
「何で君はそんな嘘を付いていたのかね?」
どうしようかと思ったが、結局、ベゼルについて以外、リーシャと同じように全て打ち明けることにした。
ただ、極端に細かい話は省いた。猫豹族とかの話はしなかった。
リーシャは一度聞いた話であったはずだが、黙って僕の話を聞いていた。
僕が話し終えるまで、カルディさんとお婆さんは一度も口を挟まなかった。
「なるほど。だから、君は人族の国へ行って自分が何なのか知りたい、というわけか」
「そういうことになりますね」
カルディさんは天井を見つめながら、少し考えていた。そして、こちらへ視線を移してきた。
「面白いですね。君一人で大変というならば、私も人族の国を目指してもいいですよ」
「え? 本当ですか?」
「ええ、何せ退屈でしたので。私自身かつては、大陸を多少移動していた時期がありましたので、力になれることもあるでしょう」
「ああ、それは助かります」
そう言って、思わず手を出してしまった。カルディさんは少し驚いたような表情をしたが、僕の手に自分の手を近づけてきて握手をしてくれた。
「では、マサキ君、とりあえず君の力が見てみたいです。ダンジョンに入ってモンスターと闘えば君の実力が分かるでしょう。それによって、私とあなたで人族の国を目指せるかどうかを考えてみましょう」
この後、カルディさんと色々話をしたが、カルディさんとしては強い者と行動できるのは単に面白い、というのが理由のようだ。
どうもカルディさんは羽翼種自体があまり好きではないようだ。
運搬業務よりは何かと闘うことの方に興味があるらしい。
それはおそらくグリフォンの血のせいなのだろう。
一通り話をした後、カルディさんは家を出て行ってしまった。
ダンジョンへは明日潜るという事になった。
部屋で休んでいると、ドアがノックされた。リーシャだろう。
どうぞと言うと、やはりリーシャが入ってくる。表情は嬉しそうだ。
「良かったですね。これで私たちの旅もうまくいきそうですね!!」
「……いや、リーシャは行かない方がいいんじゃないか?」
リーシャは驚いた顔をした
「え? どういうことでしょうか?」
「僕とカルディさんが人族の国へ行って、それでまたカルディさんがこちらへ何か情報を届けてくれれば、それでいいんじゃないの? リーシャが行くのは危険な気がするよ。今日の昼間にリーシャの友人のセリサは、君がダンジョンに潜るだけで心配していたじゃないか。彼女だけじゃない。お婆さんも、きっとリーシャには危険を冒してほしくないと思っているはずだ」
リーシャは少し怒ったような表情をして返答してきた。
「いえ、私も行きます」
「どうして? 別にそれなりの情報を持って帰ればいいんじゃないの?」
「私は羽翼種のためになる物を持ち帰りたいのです。私の両親は病気で死亡しています。しかし、後から聞いた話では、人族の医療技術があれば助かったかもしれないという話でした。羽翼種のために人族の国を赴く必要があります。それに私自身、人族の国へ赴いて勉強したいのもあります。あとは場合によると、カルディさんは一人で人族の国から、帰ることになりますよね? 彼一人では大変でしょう」
「……」
これは意思が固そうだ。
リーシャをこれ以上引き止めるのは無駄だろう。
こちらに言わなくても、本人は死ぬ可能性をもちろん想定しているはずだ。
もう本人は覚悟を決めている。
とすると……。
*************
リーシャは怒って、そのまま部屋を出ていくかと思ったが、そんなことはなかった。
ここ最近のいつもの通り、僕に勉強を習いたいようだ。
相変わらず数学を教えていく。
高校生程度の知識なら基本的には二次方程式と微分積分さえ解ければ、まぁ大体の問題は解けることになる。
物理では微分積分の知識があった方が良いが、その辺の知識は後でもいいかもしれない。
しかし、ここしばらく、この地で勉強していて気づいたことがある。
どうもこの世界の魔法の知識というのは、数学等の知識の理解量に応じて習得レベルが変化するような気がした。
魔法を使った時に感じるのだが、魔法は使う直前になんというか、プログラミングのような物を書いているようなイメージがある。術式という感じか。
僕は魔法を難なく使えているが、どうも以前の知識が役に立っているように感じる。
もしかすると、リーシャはこの勉強をすることで術式のコントロール、ひいては魔法技術が向上するかもしれない。
そんなことを漠然と考えていると、リーシャの手が止まっていることに気づいた。
リーシャの方を見た。彼女と目が合う。
じっと見つめ合ってしまった。
彼女が顔を赤くして目を逸らしてしまった。
なんか気まずい……。
しょうがないので、立ち上がって、本棚の近くへ行く。そして、物理の本を取って戻って来た。
「今日はその数学の応用で、物理をやってみよう。簡単な問題を作るからちょっとやってみて」
そう言って、彼女に物理を教えていった。
****************
リーシャが部屋を出て行って、一人になるとベゼルが話しかけてきた。
『あのカルディという奴は使えるな。あいつと一緒に人族を目指すのがいいだろう』
「その点は同意です。彼がグリフォンの血を引いているというなら、おそらく飛行速度も通常の羽翼種に比べれば、遥かに速いはずです。ダンジョンに潜らず、すぐにカルディさんと人族の国を目指しますか?」
『いや、カルディと一緒にダンジョンに潜れ。どの程度の力を持っているか確認したい。それに、もしかするともう一人付いてくるかもしれない』
誰かは想像がついた。
「カルディさんのお孫さんですか?」
『そうだ。おそらく、カルディの孫とやらも羽翼種の生活に退屈しているはずだ。その両者をうまく丸め込んで、人族の国へ向かわせるのがいいだろう』
「ベゼルさんの考えでは、その二人と僕で人族の国へ行くことは可能だと思いますか?」
「大半の地域は、おそらく問題がなく突破できるはずだ。だが、魔族の上位種の地域だけは無理だろう。あのレベルでは確実に死ぬ」
『そんなに魔族の上位種は強いのですか?』
「強い。獣族も魔族も一般的には下位、中位、上位と区分されているが、獣族と魔族では階層が一個ズレているくらいだな。獣族の上位種は、魔族の中位種の真ん中から上という感じか。グリフォンは獣族での鳥種の最上位という話だが、単体で魔族の上位種に勝てることはない。数十体で挑むなら話は別だろうが」
「カルディさん、カルディさんのお孫さんと、僕が協力しても魔族の上位種のいる地域を抜けられませんか?」
『魔族の上位種というのはピンキリだ。前にも言ったが、俺達のような魔族の高位種は同じ魔族でも段違いの強さだ。その気になれば、全ての魔族の上位種を殺すこともできる。それくらい差がある。また、魔族の上位種の中でも強さの幅は広い。中位種に近いか、それとも高位種に近いかでかなり差がある。仮に上位種の縄張りに近づいても、その地域を支配している魔族がどれくらいの強さかは近づいてみないと分からない。三人で近づいて仮に相手が上位種の中で強い者であった場合は、即死だろう。おそらく一分掛からずに全滅させられる』
「逃げることも無理ですか?」
『無理だ。カルディ達はおそらく自分の飛行速度には自信があるのだろうが、魔族の上位種の風魔法の移動速度は次元が違う。飛ぶだけで周囲が破壊される。自分だけでなく大気そのものを揺さぶり、それを貫通していく。グリフォン程度ではそこまでの早さは出せない』
てことは魔族の上位種に注意しなきゃいけないのか。
『ただ、魔族の上位種に関してはなんとかする方法がないわけじゃない。俺に案がある』
前にもベゼルはこれと同じことを言っていたが、正直、信用する気にはならない。
カルディさん達を犠牲にして、僕だけ突破するという案にしか思えない……。
そんなことを考えながら、その日は眠りについていくのであった。
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