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第34話 王宮へ

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 今日は、王宮へお呼ばれの日だ。
 ピラミッドの守護者を倒したという事で、その表彰というわけだね。行くのは僕とカルディさんだけだけだ。
 
 朝から二人で、王宮へ行ってみた。
 王宮は、てっきり人が住む所を兼ねているのかと思ったが、そういう感じがしない。警備兵も少ないし、室内にも家具等もほとんど置いていない。どちらかというと神殿として使われているような感じがする。

 話を聞いていると、現在の王は質素な佇まいに住んでいるらしい。今、案内されている場所は先王までは住居も兼ねていたらしいが、現在は何かを表彰するような式典でしか使われなくなっているとのこと。ただ、これについては、ここへ来る前に、多少この国について調べてきたのでなんとなく理由を推測できた。

 この国は過去において、浪費癖があったらしい。かなりの累積赤字が国家財政に積み上がっていたそうだ。そして、現在の王になってこの八百年間で財政再建に勤しんだという事だ。ちなみに現王の年齢は二千歳らしい。しかし、現在も累積赤字が溜まっているとのこと。
 だから、ダンジョンの財宝を掘り出して、過去の累積赤字を解消したいのだろう。

 カルディさんと一緒に王が来るまで、王の椅子の前で、膝を付いて床を見ながら待機していた。
 やがて、近衛兵の掛け声と共に、室内に誰かが入ってくる音がする。二人入って来たようだ。
 僕達の前の椅子に、その人物達が座った感じがする。
 そして、そのうちの一人が声を掛けてきた。

「顔を上げてください」

 そう言われて、顔を上げた。
 見ると、男の老人と老婆が僕達の前に座っていた。これは現王とその妃なのだろう。
 声を掛けてきたのは現王の方だった。そして、彼は続ける。

「この旅はピラミッドの守護者を倒して頂き、有難う御座いました」

 僕は鎮座した王に対して返答する。

「いえ、このような場所へお招き頂き有難う御座いました。至極光栄であります」

 そう言うと、王は微笑しながら続けた。

「済みません。私としてはこのような謁見を望んでいるわけではないのですが、一応、国家としての体裁もあります。お許し下さい」

 驚いてしまった。たかが冒険者にこの言葉遣いをするとは……。そして、どうして僕にこれだけへりくだった対応を取るのかは直ぐに分かった。
 今後、ダンジョンが新規に発見されて、同じタイプの守護者が現れた場合に、再び僕に対応してもらいたいのだろう。それに、討伐報酬を増額した理由も分かった気がする。その話を民衆に広めてもらい、新規の冒険者をこの国へ呼び込みたいのが本音なのだろう。
 なるほどねぇ。

「いえいえ、一国の王にお会いできるのですから、当然です」

 僕も畏まって、そう返答した。
 すると、王はすぐに立ち上がって、横に居た付き添いの者から勲章を受け取り、僕に渡そうとしてきた。
 僕は立ち上がって、頭を下げてから一歩前に出てそれを受け取った。ここまではカルディさん仕込みだ。

 しばらく王からピラミッドについて色々聞かれた。というか主に戦った相手について聞かれた。
 王に対して、僕は説明していく。
 守護者の死に際に〝現王によってピラミッドの守護は解かれようとしている〟と僕が伝えたこと。そして、守護者は笑みを浮かべて消えていった、という話をしたが、その話を聞いた時、王は一番嬉しそうにしていた。

 僕は一通りの謁見を終えて、この場を離れることになったが、この国が好きになっていた。
 そこでカルディさんに、この国で不動産を買って欲しいと伝えた。もし、いつかこの国を再び訪れることがあったら、住んでみてもいいと思った。

 **********

 それから、しばらく皆でファーラーン国に滞在し続けた。何せ僕の腕が治りきるまでは動くわけにいかない。
 が、リーシャがここ最近、何故か僕に勉強を教えて欲しいと言い始めた。
 皆、遊びに行きたいわけで、勉強をしたい奴などいない。
 しかし、リーシャがそう云うなら、仕方ない。
 保護者として彼女の誠意に答えねばいけないだろう。

 けれども、ここ最近、僕は毎晩ビルドと一緒に街へ繰り出していた。
 セリサに、いかがわしい店には行かないと約束させられて、普通の飲み屋をはしご酒するだけだ。
 当初はビルドと一緒に、女の子にお酒を注いでもらえる店に行こうとしただけだったが、これもセリサによって禁止されている。
 しかし、ビルドとはこの国にいる間は、飲み屋を回り続けるつもりだ。そのため、夜は夜で忙しい。

 だから、午前中に数時間勉強することになったが、何故かリーシャは勉強中も水着を着ている……。まぁ、午後は砂の海へ遊びに行くのだから、それでもいいが、流石に目のやり場に困ってしまう。
 こういう時に、女の子がそういう姿を見せてはいけないと思う。リーシャが好きな男の前でならいい。しかし、そうでなければ、男の方が勘違いしてくるかもしれない。今後のリーシャの男女関係が心配だ。
 セリサはリーシャの事を気に掛けている。だったら、リーシャのこういう所を忠告してやればいいのに。
 何でセリサはそんなことも分からないのだろう?

 リーシャに勉強を教えていく。

************

 それから数日して、僕達は不動産を購入することになった。皆、この国が気に入ったからだ。
 その資金源はもちろん、僕がピラミッドの守護者を倒した報酬だ。
 そして、当面は購入した不動産で共同生活しようという話になった。

 不動産の購入に際しては、僕名義ではなく、六人全員の名義で購入した。要はみんなで不動産を買ったという事だ。
 その理由は、僕はこの国へもう来れないかもしれないこと。これは不吉だが、もしかすると僕が死ぬ、あるいはその他の理由で二度とこの地へ来れない可能性もある。
 なら、最悪の事を考えれば六人全員の名義にしておけば、僕が居なくなっても皆がこの不動産を使える可能性があった。

 購入した不動産の室内はかなり豪華なもので、前世帯者は家具も残して置いてくれれた。王家の血族の人が住んでいたらしい。部屋数は二十部屋あった。

 大きいベッドでビルドがボヨヨーンとジャンプしている。

 映画に出てくるような見事なベッドだが、それには大きな枕が置いてある。こういう枕は飾り枕という。
 実際にこういう枕で寝るわけではない。首が痛くなるからだ。
 映画では、豪華なベッドで枕に頭を置いて寝る映像があるが、あれは事実でない。

 リーシャとセリサはキッチンへ行っているようだ。そちらへ行ってみる。
 二人でキャーキャー騒いでいる。

「何か面白いの?」

「ええ、かなり色々な料理ができるので楽しいですね。オーブンもありますし」

 ふーん、と思う。ここ最近はずっと外食ばかりだった。リーシャ達からすると自分たち好みの料理が食べたいのかもしれない。あとで、僕も何か作ってあげようか。

 寝殿造りの中央に行ってみると、プールがあった。中央に大きな正方形のプールがある。
 二百メートル四方か。そしてをそれを囲うようように周囲にもプールがある。これは流れるプールらしい。 
 ファードスさんが流れるプールの速度を上げた状態で、それに逆行してサーフィンをしている。なるほど、うまい利用方法だ。

 *********

 リーシャ、セリサと一緒に街へ繰り出すことにした。
 当面はこの街に滞在する予定だから、大きめに買い出しをするしかない。
 
 ビルドは一人、海で遊んでいる。あいつは買い出し等も最近はサボっている。アイツめ。

 三人で食料店に入って様々な食材を見ていく。以前の地球のスーパーと似ているが、置いてある食材は全く違う。外国へ出掛けてスーパーに入ったような感じだろうか。食べ物というのは分かるが、買っていいのか、良くないのかが分からない。地元の味というのはハマればいいが、外れた時は悲惨だ。

 リーシャは首を傾げながら、一つ一つの調味料などを持ち上げて説明を読んでいる。まぁ、彼女に任せた方がいいだろう。
 そんなことを考えていると、セリサが僕に話しかけてきた。

「あのさ、一つお願いがあるんだけど」

「ん? 何?」

「あの家を、そのうち私が大きめに使ってもいいかな?」

「別にいいけど、どういうこと?」

「もし、この旅が成功して人族の国と交流が持てたら、私は輸入商みたいなことがしてみたいのよ。今、ブランド物のバッグに興味を持っているけど、ああいうものを輸入して羽翼種の島に持ち込んで販売したい。それで、場合によったら、この国とも交流が持ちたいわ。そして、その時にあの家を拠点にして活動したいとも思うのよ」

 ああ、なるほど。彼女もこれまでに様々な街を訪れてきた。決して参考になるような街ばかりではないが、彼女なりに思うところがあったのだろう。

「ああ、いいよ。使ってくれて構わない。僕としては使うとしても時々、別荘代わりに使うくらいだろうし。寝るところさえあれば、後は自由にしてもらっていいよ」

「ありがとう」

 そう言って、セリサは嬉しそうにニッコリと笑った。
 今まで見たセリサの笑顔の中では一番いい顔だった。

*************

 ここ最近、ファーラーン国で遊んでいるが、僕達の旅の目的は人族の国だ。そろそろ出発のために意識を戻さなければいけない時期が来ていた。
 そこで、出発する日を決めて、皆で晩餐会をすることにした。

 ビルドは最後まで海で遊んでいた。あいつらしくていいと思う。というか、最後にあいつと水上バイクで決着をつけるつもりだ。

 ファードスさんはサーフィンがかなりうまくなっていて、地元でもちょっとした評判になっているようだ。時期が合えば、サーフィン大会に出れたのが残念だ。

 カルディさんはファーラーン国について色々と調べているようだった。今後、羽翼種と外交を結ぶ可能性があれば、その時に備えておきたいらしい。

 また、同時にセリサもファーラーン国で扱っている特産物やその物価等をメモしていた。今後、羽翼種の国へ帰ったら、そのデータをもとに輸入商を興すつもりかもしれない。

*************

 最後の晩餐会だし、リーシャとセリサには、面倒なら何か宅配で注文すればいいと言ったが、二人とも前日から色々準備していたようだ。まぁ、ここを離れると、当分はテント生活だ。手作りの料理を食べておきたいのもあるのだろう。

 晩餐当日の午前中、食料店にリーシャと一緒に買い出しにいった。そして、リーシャは大きな鳥を一匹買った。オーブンで焼いてみるつもりのようだ。
 家に着いてリーシャは、調理を始めたが、何かの香辛料を鳥に振りかけている。ところどこに何かのタレを塗ってもいる。部位によって、味付けを変えるつもりのようだ。

 それから、リーシャが様々なジェラートを作っていく。僕も一緒にちょこちょこ手伝っていく。
 バニラ味、バナナ味、イチゴ味などがある。味見という事で、皆より先に、コーンに積み重ねてそれらを食べていく。ひんやりしていて甘くて美味しい。
 そう伝えると、リーシャは嬉しそうにしていた。
 僕は美味しかろうが美味しくなかろうが、他人に作ってもらった料理は、黙って美味しいと言うべきだと思っている。だから、僕は他人から作ってもらったものにケチをつけることは絶対に無い。が、このジェラートに関しては文句なく美味しかった。そこで、本心から褒めた。

 すると、リーシャがこちらを見ているのに気付いた。

「食べさせてください」

 そう言って、ニコニコしている。
 誰も来ないか確認してから、僕が食べているジェラートをスプーンで削ってリーシャに食べさせてあげた。リーシャは嬉しそうだ。というか、まるで恋人同士のようなことをしている気がする。
 
 そして、その晩、皆でファーラーン国での最後の晩餐を楽しんだのだった。
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