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特別編
予知姫たちの未来予知
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朝早くから用事があったので、征士くんと一緒に出かけた。今日の最高気温は三十五度。車の中はエアコンがきいて涼しいけれど、一歩外に出ると非常に暑い。早めに用事をすませて家に帰ることにした。
自宅に帰りつき、車から降りる。じりじりと肌を焼く夏の暑さに既視感を覚え、征士くんに話しかける。
「昔、征士くんの応援にテニスの大会に行ったときも、こんな暑さだったわね」
前を歩いていた征士くんが振り返った。微笑んで返事をしてくれる。
「そうですね、こんな暑い日でした。──もう何十年前になるでしょうか。懐かしいですね」
お弁当が美味しかったと嬉しそうに話す彼の横顔は、年月を経ても美しいと感じられる。学生時代の話をしながら玄関に入ると、知乃が迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。お父様、お母様」
「ただいま、知乃。暑いんだから、玄関まで迎えにこなくてもよかったのに」
征士くんがそう言うと、知乃は何故か困惑したような表情を浮かべた。
「いえ、あの……。お父様とお母様に、早く話したいことがありまして」
早く話したいこと? 改まってなんだろう。
「なあに? お仕事の話?」
「いいえ、そういうお話じゃないんです。お父様とお母様のお部屋に行ってもいいですか?」
「いいわよ。なんの話かしら」
部屋に入ると、あとから知乃、夢乃、知枝未ちゃん、知尋ちゃんが入ってきた。知枝未ちゃんは歩夢くんとの間に生まれた女の子を抱いている。
思わぬ人数に私と征士くんが戸惑っていると、知乃が真面目な顔で話し始めた。
「昨夜、私達五人は不思議な夢を視たんです。そろって同じような夢を──」
五人、ということは、知枝未ちゃんの子──知彩ちゃんも含まれているのだろう。五人そろって同じような夢を視た事例なんて聞いたことがない。疑問に思っていると、同じ思いをしたのだろう征士くんが問いかけていた。
「五人が同じ予知夢を視た、ということかな?」
「全く同じではないんですが、同じような夢を視て……皆で話し合って、お父様とお母様に報告することにしました」
それから知乃達は口々に夢の内容を話してくれた。
例えば知乃は公園で、夢乃は映画館の中で、知枝未ちゃんは遊園地で、知尋ちゃんはカフェで若い男性と女性がとても親密にしていた夢を視たというのだ。
「知彩ちゃんは?」
五歳の知彩ちゃんは皆を見回してから、少し身体を私に寄せて話してくれた。
「あの、あのね、ひいおじいさまににたひとと、ひいおばあさまににたひとが、テニスコートでテニスしていたゆめなの」
「私達に似た人……?」
首を傾げていると、知乃は大きく目を見開いて言った。
「そうなんです。私達が視た若い男女は、お父様とお母様の若い頃にそっくりなんです。私達は過去の夢は視ることが出来ません。出来るのは未来の夢だけ……」
虹川家の直系女子が視ることの出来る予知夢の能力。私以外の五人は、的中率十割近い。そんな彼女達がそろって視た夢が当たらないはずない。ないのだけれど、その内容は──。
「私と征士くんに似た人が、親しそうにしていた夢なのよね?」
「はい。夢では『みつき』と『まさよし』と呼び合っていたのを、全員が確認しました」
違う名前だけれど、名前まで似ている。これはもしや──。
「私達の、生まれ変わりの夢……?」
呆然と呟くと、夢乃が顔を近づけて頷く。
「多分、そうなんだと思います。それ以外考えられません。私達は予知夢しか視られないのですから」
「…………」
言葉を失い、征士くんと見つめ合う。彼の瞳にも驚きが宿されていたけれど、それとともに喜びの感情も見受けられた。
「……僕は、生まれ変わっても月乃さんと一緒なんだ……!」
征士くんの口元が綻んだ。私を見つめる視線が熱を帯びる。
「嬉しい……。嬉しいです、僕。もう長いことは月乃さんといられないと思っていましたけれど……」
でも、生まれ変わっても再び出会える。その事実が嬉しいのは私も同じだ。
「何だか信じられない話だけれど……。私も嬉しいわ。生まれ変わってもまた一緒なんて、最高にロマンティックじゃないかしら」
知彩ちゃんが知枝未ちゃんに抱き上げられて離れると、今度は征士くんが私のもとへ来た。
「月乃さん。生まれ変わったら、またプロポーズしに行きますから待っていてくださいね」
心底楽しそうに征士くんは告げる。
「ええ、いつまでも待っているわ。私の愛する旦那様」
にこやかにそう答えると、征士くんは五人の予知姫の前で、私の頬に軽くキスをした。
自宅に帰りつき、車から降りる。じりじりと肌を焼く夏の暑さに既視感を覚え、征士くんに話しかける。
「昔、征士くんの応援にテニスの大会に行ったときも、こんな暑さだったわね」
前を歩いていた征士くんが振り返った。微笑んで返事をしてくれる。
「そうですね、こんな暑い日でした。──もう何十年前になるでしょうか。懐かしいですね」
お弁当が美味しかったと嬉しそうに話す彼の横顔は、年月を経ても美しいと感じられる。学生時代の話をしながら玄関に入ると、知乃が迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。お父様、お母様」
「ただいま、知乃。暑いんだから、玄関まで迎えにこなくてもよかったのに」
征士くんがそう言うと、知乃は何故か困惑したような表情を浮かべた。
「いえ、あの……。お父様とお母様に、早く話したいことがありまして」
早く話したいこと? 改まってなんだろう。
「なあに? お仕事の話?」
「いいえ、そういうお話じゃないんです。お父様とお母様のお部屋に行ってもいいですか?」
「いいわよ。なんの話かしら」
部屋に入ると、あとから知乃、夢乃、知枝未ちゃん、知尋ちゃんが入ってきた。知枝未ちゃんは歩夢くんとの間に生まれた女の子を抱いている。
思わぬ人数に私と征士くんが戸惑っていると、知乃が真面目な顔で話し始めた。
「昨夜、私達五人は不思議な夢を視たんです。そろって同じような夢を──」
五人、ということは、知枝未ちゃんの子──知彩ちゃんも含まれているのだろう。五人そろって同じような夢を視た事例なんて聞いたことがない。疑問に思っていると、同じ思いをしたのだろう征士くんが問いかけていた。
「五人が同じ予知夢を視た、ということかな?」
「全く同じではないんですが、同じような夢を視て……皆で話し合って、お父様とお母様に報告することにしました」
それから知乃達は口々に夢の内容を話してくれた。
例えば知乃は公園で、夢乃は映画館の中で、知枝未ちゃんは遊園地で、知尋ちゃんはカフェで若い男性と女性がとても親密にしていた夢を視たというのだ。
「知彩ちゃんは?」
五歳の知彩ちゃんは皆を見回してから、少し身体を私に寄せて話してくれた。
「あの、あのね、ひいおじいさまににたひとと、ひいおばあさまににたひとが、テニスコートでテニスしていたゆめなの」
「私達に似た人……?」
首を傾げていると、知乃は大きく目を見開いて言った。
「そうなんです。私達が視た若い男女は、お父様とお母様の若い頃にそっくりなんです。私達は過去の夢は視ることが出来ません。出来るのは未来の夢だけ……」
虹川家の直系女子が視ることの出来る予知夢の能力。私以外の五人は、的中率十割近い。そんな彼女達がそろって視た夢が当たらないはずない。ないのだけれど、その内容は──。
「私と征士くんに似た人が、親しそうにしていた夢なのよね?」
「はい。夢では『みつき』と『まさよし』と呼び合っていたのを、全員が確認しました」
違う名前だけれど、名前まで似ている。これはもしや──。
「私達の、生まれ変わりの夢……?」
呆然と呟くと、夢乃が顔を近づけて頷く。
「多分、そうなんだと思います。それ以外考えられません。私達は予知夢しか視られないのですから」
「…………」
言葉を失い、征士くんと見つめ合う。彼の瞳にも驚きが宿されていたけれど、それとともに喜びの感情も見受けられた。
「……僕は、生まれ変わっても月乃さんと一緒なんだ……!」
征士くんの口元が綻んだ。私を見つめる視線が熱を帯びる。
「嬉しい……。嬉しいです、僕。もう長いことは月乃さんといられないと思っていましたけれど……」
でも、生まれ変わっても再び出会える。その事実が嬉しいのは私も同じだ。
「何だか信じられない話だけれど……。私も嬉しいわ。生まれ変わってもまた一緒なんて、最高にロマンティックじゃないかしら」
知彩ちゃんが知枝未ちゃんに抱き上げられて離れると、今度は征士くんが私のもとへ来た。
「月乃さん。生まれ変わったら、またプロポーズしに行きますから待っていてくださいね」
心底楽しそうに征士くんは告げる。
「ええ、いつまでも待っているわ。私の愛する旦那様」
にこやかにそう答えると、征士くんは五人の予知姫の前で、私の頬に軽くキスをした。
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