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第8章:敵の陰謀と最後の危機
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その予感は、夜風の匂いと一緒にやって来ました。
──嫌な風。
あの晩、公爵さまがそう呟かれたのは、ほんの数秒間だったのに。
なのに、翌朝には屋敷の警備が二倍になり、周囲を従者が警戒するようになっていました。
「……何か、起きるのですね」
問いかけると、公爵さまは目を細め、低く告げられました。
「君に危害を加えようとする者がいる。内密に情報が入った」
(またですか……いつもそれ先に言ってください!)
---
その情報の主は──王宮内の書庫司書に偽装していた調査員とのこと。
曰く、王太子殿下とミランダ嬢が最近頻繁に密会しており、その中で、わたしの存在が“障害”として議題に挙がっていたとか。
「暗殺って……あの、物騒ですよ!?」
思わず素で叫んでしまい、隣の侍女アンナさんが「お嬢様、語彙が庶民です……!」と肩を震わせていました。
でも怖がっていられません。
公爵さまは冷静に動き、屋敷の出入りを制限。
屋上から弓兵を配備し、通路ごとに魔道警戒網まで張ってしまわれました。
(これ絶対、護衛のレベルじゃない……!)
---
そして、事件は起こりました。
王都の公会堂での式典に出席した際、わたしは突然、侍女のふりをした人物に薬を盛られかけたのです。
「紅茶に香りが強い花が浮いていて、おかしいと思いました」
……感謝すべきは、わたしの嗅覚と、過剰な紅茶愛だったと思います。
気づいてすぐに警備に報告したところ、公爵さまが現場へ直行し──なんとその侍女をその場で取り押さえ、王宮付きの査問官を引き連れて、真っ直ぐにミランダ嬢の控室へ乗り込まれました。
その場では、噂通りの大騒動。
「そ、そんな証拠、どこにも──!」
「では、御身の書簡箱にあったこの契約書の偽筆跡は?」
「う、うぐ──」
……公爵さま、ほんとうに容赦がありません。
しかも、王太子殿下の署名付きの書簡まで見つかり、公爵さまが冷静にそれを王妃さまへ提出されたことにより──
翌日には、王宮内で異例の「内密追放令」が発令されておりました。
---
ミランダ嬢と王太子殿下は、国外の避暑地へ“療養”という名目で、事実上の追放処分となったのです。
「王宮が……静かになりましたね」
わたしは肩の力が抜けて、帰りの馬車で脱力しておりました。
アンナさんに至っては、「めちゃくちゃ痛快です!」と握り拳で叫んでおられました。
---
屋敷に戻ると、深紅の花が飾られた部屋が用意されていて。
わたしは、あの不安な数日間を思い返しながら、そっと紅茶を啜っておりました。
「……公爵さま」
振り返ると、クレイグ公爵さまが、相変わらず無表情で立っておられました。
けれど、今日のその瞳は、わずかに、何かを決意しているように思えました。
──嫌な風。
あの晩、公爵さまがそう呟かれたのは、ほんの数秒間だったのに。
なのに、翌朝には屋敷の警備が二倍になり、周囲を従者が警戒するようになっていました。
「……何か、起きるのですね」
問いかけると、公爵さまは目を細め、低く告げられました。
「君に危害を加えようとする者がいる。内密に情報が入った」
(またですか……いつもそれ先に言ってください!)
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その情報の主は──王宮内の書庫司書に偽装していた調査員とのこと。
曰く、王太子殿下とミランダ嬢が最近頻繁に密会しており、その中で、わたしの存在が“障害”として議題に挙がっていたとか。
「暗殺って……あの、物騒ですよ!?」
思わず素で叫んでしまい、隣の侍女アンナさんが「お嬢様、語彙が庶民です……!」と肩を震わせていました。
でも怖がっていられません。
公爵さまは冷静に動き、屋敷の出入りを制限。
屋上から弓兵を配備し、通路ごとに魔道警戒網まで張ってしまわれました。
(これ絶対、護衛のレベルじゃない……!)
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そして、事件は起こりました。
王都の公会堂での式典に出席した際、わたしは突然、侍女のふりをした人物に薬を盛られかけたのです。
「紅茶に香りが強い花が浮いていて、おかしいと思いました」
……感謝すべきは、わたしの嗅覚と、過剰な紅茶愛だったと思います。
気づいてすぐに警備に報告したところ、公爵さまが現場へ直行し──なんとその侍女をその場で取り押さえ、王宮付きの査問官を引き連れて、真っ直ぐにミランダ嬢の控室へ乗り込まれました。
その場では、噂通りの大騒動。
「そ、そんな証拠、どこにも──!」
「では、御身の書簡箱にあったこの契約書の偽筆跡は?」
「う、うぐ──」
……公爵さま、ほんとうに容赦がありません。
しかも、王太子殿下の署名付きの書簡まで見つかり、公爵さまが冷静にそれを王妃さまへ提出されたことにより──
翌日には、王宮内で異例の「内密追放令」が発令されておりました。
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ミランダ嬢と王太子殿下は、国外の避暑地へ“療養”という名目で、事実上の追放処分となったのです。
「王宮が……静かになりましたね」
わたしは肩の力が抜けて、帰りの馬車で脱力しておりました。
アンナさんに至っては、「めちゃくちゃ痛快です!」と握り拳で叫んでおられました。
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屋敷に戻ると、深紅の花が飾られた部屋が用意されていて。
わたしは、あの不安な数日間を思い返しながら、そっと紅茶を啜っておりました。
「……公爵さま」
振り返ると、クレイグ公爵さまが、相変わらず無表情で立っておられました。
けれど、今日のその瞳は、わずかに、何かを決意しているように思えました。
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