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第9章:王都からの視線
「……で、その“聖女様”、薪を割って薬草を煎じて、村人の足湯まで用意したと?」
「はい。しかも、領主様と共に畑の溝掘りまでなさったと聞いております」
王都の神殿、荘厳な柱が並ぶ会議室で、神殿長は震える手で銀の匙を落とした。かつて“使えない地味な子”として追放したリーネの名が、最近になって、各地の商人や巡回騎士から頻繁に報告され始めていたのだ。
「……まさか、あれが“本物”だったと?」
「いやいやいや、ありえん。彼女は聖なる儀式も上手くなかったではないか。そもそも派手さも、加護の輝きもない!」
「しかし、結果は明らかに出ております。ウィンデリア領は疫病の広がりを抑え、冬支度も順調とか……」
神殿内に微妙な沈黙が落ちる。
「……ということはつまり、我々は、宝石を石ころ扱いして、谷に捨てたと?」
「……しかも、その谷が雪深い辺境です。白い背景に、あの“地味さ”はむしろ映えているとか」
「地味さが映えるとは何事だ!」
神殿長が机を叩いた拍子に、ペンが飛び、机の上の羊皮紙が舞い上がった。
一方その頃、ウィンデリア領。
「リーネ様、これ!この茶葉、王都の商人さんが“特別にお礼に”って!」
「えっ、そんな……!お茶のことで、そんなに感動されるなんて……」
「奥様、商人さんがね、“このハーブティーを飲んだ妻が初めて俺に笑いかけた”って泣いてましたよ」
「ええぇぇぇっ!? そんな大げさな……!」
「いえ、結構深刻だったそうです。もしかしたら、リーネ様は家庭円満の聖女かもしれません」
「なんですかその称号!? いや、ありがたいですけども!」
領民たちの評価は、静かに、だが確実に高まっていた。無理に目立たず、必要なことを丁寧にやる。そんな姿が、むしろ人々の心に沁みていく。
エルマーもまた、そんな空気を嬉しそうに見つめていた。
「……俺の見る目に間違いはなかったな」
「えっ?」
「いや、なんでもない。俺の鼻は、雪の匂いと聖女様の本質を嗅ぎ分けられるというだけだ」
「それ、領主様というより猟犬みたいな才能では……?」
リーネの素直なツッコミに、エルマーは珍しく笑い声をあげた。
その笑顔が、辺境の寒空よりあたたかく、リーネの頬をほんのり染めた。
――そうとは知らず、王都の神殿では会議が続いていた。
「……で、どうする?今からでも“聖女の復帰”という形で呼び戻すか?」
「遅い。向こうで大事にされてるなら、今さら来るわけがない!」
「うむ……となれば、いっそなかったことに……」
「無理だ。商人ギルドも騎士団も、今や彼女の話をしない日はない。下手をすれば、こっちが恥をかく!」
彼女を見下していた者たちが、ようやく事の重大さに気づきはじめた――
「はい。しかも、領主様と共に畑の溝掘りまでなさったと聞いております」
王都の神殿、荘厳な柱が並ぶ会議室で、神殿長は震える手で銀の匙を落とした。かつて“使えない地味な子”として追放したリーネの名が、最近になって、各地の商人や巡回騎士から頻繁に報告され始めていたのだ。
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「いやいやいや、ありえん。彼女は聖なる儀式も上手くなかったではないか。そもそも派手さも、加護の輝きもない!」
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神殿内に微妙な沈黙が落ちる。
「……ということはつまり、我々は、宝石を石ころ扱いして、谷に捨てたと?」
「……しかも、その谷が雪深い辺境です。白い背景に、あの“地味さ”はむしろ映えているとか」
「地味さが映えるとは何事だ!」
神殿長が机を叩いた拍子に、ペンが飛び、机の上の羊皮紙が舞い上がった。
一方その頃、ウィンデリア領。
「リーネ様、これ!この茶葉、王都の商人さんが“特別にお礼に”って!」
「えっ、そんな……!お茶のことで、そんなに感動されるなんて……」
「奥様、商人さんがね、“このハーブティーを飲んだ妻が初めて俺に笑いかけた”って泣いてましたよ」
「ええぇぇぇっ!? そんな大げさな……!」
「いえ、結構深刻だったそうです。もしかしたら、リーネ様は家庭円満の聖女かもしれません」
「なんですかその称号!? いや、ありがたいですけども!」
領民たちの評価は、静かに、だが確実に高まっていた。無理に目立たず、必要なことを丁寧にやる。そんな姿が、むしろ人々の心に沁みていく。
エルマーもまた、そんな空気を嬉しそうに見つめていた。
「……俺の見る目に間違いはなかったな」
「えっ?」
「いや、なんでもない。俺の鼻は、雪の匂いと聖女様の本質を嗅ぎ分けられるというだけだ」
「それ、領主様というより猟犬みたいな才能では……?」
リーネの素直なツッコミに、エルマーは珍しく笑い声をあげた。
その笑顔が、辺境の寒空よりあたたかく、リーネの頬をほんのり染めた。
――そうとは知らず、王都の神殿では会議が続いていた。
「……で、どうする?今からでも“聖女の復帰”という形で呼び戻すか?」
「遅い。向こうで大事にされてるなら、今さら来るわけがない!」
「うむ……となれば、いっそなかったことに……」
「無理だ。商人ギルドも騎士団も、今や彼女の話をしない日はない。下手をすれば、こっちが恥をかく!」
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