【完結】真面目だが存在感ゼロの聖女は、下っ端仕事をこなしてきたが周りから厄介払いされてへき地に来たところ、溺愛されています。

朝日みらい

文字の大きさ
10 / 30

第10章:冷たき使者の再訪

それは、空気が澄み渡る初冬の朝だった。

ウィンデリア城の門番が駆け込んできて、声を上げた。

「た、たいへんです!神殿の使者が、突然のご到着を!」

「神殿?まさか……査察?」

エルマーが眉をひそめ、リーネは思わず背筋を伸ばした。

やがて現れたのは、漆黒の外套に身を包んだ中年の男だった。無駄のない所作、鋭い眼差し。まるで氷柱が歩いてきたような冷たさだ。

「……神殿より査察に参った、カラドリウス・グレイ。書簡はこれだ」

「えっ、名前が神鳥……」

「リーネ様、心の声が漏れてます!」

リーネが慌てて口を押える。だが査察官カラドリウスはぴくりとも表情を変えず、城内へと進んでいく。

「ほう……これは、手洗い場か。しかも石鹸まで備えてあるとは」

「はい、領民の皆さんが使いやすいように、高さも調整しました」

「ふむ……炭を利用した脱臭小屋、薬草棚の分類法、湯治のための温泉小屋……これほどの設備を、短期間で?」

「いえ、私はただ、あったものを工夫しただけです。皆さんの力があってこそですから」

リーネの控えめな説明に、カラドリウスは眼鏡を押し上げた。

「“ただ”でできることではない。……あの神殿長が見落とすわけだ」

ぽつりと零れたその言葉に、エルマーが眉を上げた。

「見落としたとは?」

「いえ……私語を慎みます」

そう言いつつ、彼は病人の寝室に入り、リーネが行った処置と記録帳を眺め、静かに溜息をついた。

「……おそらく、あなたは“加護に頼らずとも人を癒す”術を、独学で会得したのだろう」

「えっ、そんな大げさな……! あ、でも、薬草の本は読みました!」

「それを“独学”というのだ」

そのとき、外から元気な子供たちの声が聞こえてきた。

「ねーねー、せいじょさまー!」

「今日もおくすりのむよー!」

「おなかいたいっていったら、りんごくれたのー!」

「あれは薬じゃなくて慰めだったんだけど……」

領民の笑顔と声。それは、リーネの存在が“信頼”として根付いている証だった。

翌朝、カラドリウスは帰路につく前に、エルマーとリーネを呼び止めた。

「……私は今回の視察を、正式に“高評価”として神殿に報告する」

「えっ」

「あなたの働きは、もはや“聖女の任”にとどまらず、地方医療と衛生改革の範となる」

「ええぇぇぇ!? そ、そんな大仰な……!」

「もし都に戻りたくなったら、私の名を使ってよい。もっとも、戻りたいとは思っていないだろうが」

その言葉に、リーネはふとエルマーの方を見た。

すると彼は微笑んで、言った。

「こちらには、“もう一度追い出されたら困るくらい”あなたを慕っている人が山ほどいますからね」

「……あら、それは責任重大ですね」

そんな冗談めいたやり取りを横目に、カラドリウスは微かに口元を緩めた。

「……聖女とは、加護の多寡ではない。そう思い出せたのは、私の収穫だ」

そう言って馬に乗り、彼は静かに雪の道を去っていった。

こうして、リーネの存在は“神殿公認”となり――

“追放された聖女”は、誰よりも多くの人を癒す、“辺境の光”となっていくのだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。