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 おじいちゃんは、ぼくを見て、チビ電車の後ろを指さした。

「ほら、たけし。出発するから早く乗るぞ」
「あの、ごめん。ぼく……トイレ」

 まよいながらも、ぼくは首を横にふった。

「うん、そうか。わかった。でも、電車は待てない。電車が開通したら、定時に出発しなければいけないからな」

 おじいちゃんは、一人でチビ電車にまたかって、運転ボタンを押して走り出した。

 ぼくはだまって見おくると、トイレに入って、カギをしめた。トイレットペーパーを見ながら、ぐるくる頭の中を回転させた。

 おじいちゃんの電車は大好きだ。だけど、ずっと毎日、乗り続けてきた。正直なところ、いいかげん、あきてしまった。信号機も、チンチンうるさいし、ぼくの家族とおじいちゃんのケンカも、もううんざりだ。

 ぼくは何もしていない便器に水を流して立ち上がった。

 決めた。家族といっしょに、となり町に引っ越すことに決めた。

 ぼくが五年生になる前の三月、引っ越しのトラックが到着した。おじいちゃんは、いつも通り、チビ電車に乗っている。

 引っ越し屋さんは、てきぱき二階にある四人の荷物を荷台につめこんだ。あっという間に新居のマンションへ向かって走っていく。

 ぼくら家族は、トラックを見送った。

「さて、お父さんたちも、新居へ出かけよう」

と、お父さんが手のひらをパンパンたたいて言った。

「おじいちゃんはどうなるの?」

ぼくはたずねた。

「おじいちゃんは、チビ電車があるから、だいじょうぶでしょう」

と、お母さんがあきれたように言った。

「やっと、出られてせいせいするわ」

と、ひろみ姉ちゃんが、大きくのびをした。

 そのまま、ぼくらが駅にむかって歩き出した時だった。
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