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図書館の一角に仕切られた読書室には、メリエルがひとりで膝に本を広げたまま、心配そうな面持ちで待っていた。
レイズ王子は、安堵の笑みを浮かべたものの、彼の硬い表情に、笑みがすぼんでしまう。
「……どうなさったの」
レイズ王子は隣に腰かけた。
「ぼくは、きみに謝らなくてはならない。最初に森できみに会った時、木の実を採っていた君をリリス嬢と呼んで、スタイルズ公爵邸へ強引に連れて行った。
ぼくは、本人がもう亡くなっていると、薄々分かっていたんだよ。なぜなら、前の晩にぼくは昏睡状態の彼女を見舞っていたのだから……」
「……そうだったのですね」
メリエルは、小刻みに肩を震わせている。
レイズ王子は、彼女の膝にある手を取った。
「メリエル。君は何も悪くないんだ。初めはリリス嬢にそっくりだったから、彼女の面影に惹かれた。でも今は違う。だんだんと、君の快活で陽気な人柄に魅せられて、君がいないとぼくはもう、駄目なんだ」
「……レイズ様」
「好きだ。愛しているよ、メリエル」
メリエルの瞳から、大粒の涙が噴きこぼれて、手の甲に落ちた。
レイズ王子は、濡れた頬を引き寄せ、震える唇を自身の口で優しく覆った。
「やはり……いけません」
メリエルは、無理矢理、彼を突き放して、激しく首を振る。
「なぜ?」
「無理だからです。わたしはメリエル・アルバニで、スタイルズ公爵令嬢ではないから……」
「そんなことは関係ない。君はぼくのことが嫌いなの?」
「……嫌いです。世界で一番、大嫌いです」
「なぜ、嘘をつくの。涙で顔がびしょ濡れだよ」
「……涙じゃなくて、あ、汗ですから」
メリエルは、袖で涙を拭うと、王子を睨みつける。
「……なぜ、分からないんですか。わたしは平民の、しかも親無しの孤児なんですよ。いつも空想ばかりに逃げて、しかも嘘つき。もし、世間からバレて、わたしがメリエルであることが分かったら。レイズ様の、いえ、王家の威信を傷つけることになるんです」
「その時は、ぼくが責任を取って、王族から除籍になるよ。元はといえば、ぼくが巻き込んだ嘘なんだから」
「レイズ様……素適な嘘を、わたしは愛しました」
メリエルは、レイズをじっと食い入るように見つめた。
レイズはそっと、メリエルを肩を引き寄せる。
「……ぼくの気持ちに嘘なんかない、メリエル」
抱き合っていた時間はわずかだった。けれど、二人には永遠に思えた。
何も語らなくても、互いの息づかいを感じる。
次第に彼女の嗚咽が静まり、確かな息継ぎに変わった時、彼女は静かにレイズの腕をほぐす。
再び、愛おしそうに彼を見つめながら、
「もう、嘘はつきたくない。でも……レイズ様に、迷惑はかけませんから」
と告げて、お辞儀をすると部屋を出て行こうとする。
「明日のお茶会、来るんだよね? 妹があんなに準備を頑張っていたし。みんな、メリエルを待っている。もちろん、ぼくもだよ」
「……」
メリエルは無言のまま、振りかえらずに、王宮を後にした。
レイズ王子は、安堵の笑みを浮かべたものの、彼の硬い表情に、笑みがすぼんでしまう。
「……どうなさったの」
レイズ王子は隣に腰かけた。
「ぼくは、きみに謝らなくてはならない。最初に森できみに会った時、木の実を採っていた君をリリス嬢と呼んで、スタイルズ公爵邸へ強引に連れて行った。
ぼくは、本人がもう亡くなっていると、薄々分かっていたんだよ。なぜなら、前の晩にぼくは昏睡状態の彼女を見舞っていたのだから……」
「……そうだったのですね」
メリエルは、小刻みに肩を震わせている。
レイズ王子は、彼女の膝にある手を取った。
「メリエル。君は何も悪くないんだ。初めはリリス嬢にそっくりだったから、彼女の面影に惹かれた。でも今は違う。だんだんと、君の快活で陽気な人柄に魅せられて、君がいないとぼくはもう、駄目なんだ」
「……レイズ様」
「好きだ。愛しているよ、メリエル」
メリエルの瞳から、大粒の涙が噴きこぼれて、手の甲に落ちた。
レイズ王子は、濡れた頬を引き寄せ、震える唇を自身の口で優しく覆った。
「やはり……いけません」
メリエルは、無理矢理、彼を突き放して、激しく首を振る。
「なぜ?」
「無理だからです。わたしはメリエル・アルバニで、スタイルズ公爵令嬢ではないから……」
「そんなことは関係ない。君はぼくのことが嫌いなの?」
「……嫌いです。世界で一番、大嫌いです」
「なぜ、嘘をつくの。涙で顔がびしょ濡れだよ」
「……涙じゃなくて、あ、汗ですから」
メリエルは、袖で涙を拭うと、王子を睨みつける。
「……なぜ、分からないんですか。わたしは平民の、しかも親無しの孤児なんですよ。いつも空想ばかりに逃げて、しかも嘘つき。もし、世間からバレて、わたしがメリエルであることが分かったら。レイズ様の、いえ、王家の威信を傷つけることになるんです」
「その時は、ぼくが責任を取って、王族から除籍になるよ。元はといえば、ぼくが巻き込んだ嘘なんだから」
「レイズ様……素適な嘘を、わたしは愛しました」
メリエルは、レイズをじっと食い入るように見つめた。
レイズはそっと、メリエルを肩を引き寄せる。
「……ぼくの気持ちに嘘なんかない、メリエル」
抱き合っていた時間はわずかだった。けれど、二人には永遠に思えた。
何も語らなくても、互いの息づかいを感じる。
次第に彼女の嗚咽が静まり、確かな息継ぎに変わった時、彼女は静かにレイズの腕をほぐす。
再び、愛おしそうに彼を見つめながら、
「もう、嘘はつきたくない。でも……レイズ様に、迷惑はかけませんから」
と告げて、お辞儀をすると部屋を出て行こうとする。
「明日のお茶会、来るんだよね? 妹があんなに準備を頑張っていたし。みんな、メリエルを待っている。もちろん、ぼくもだよ」
「……」
メリエルは無言のまま、振りかえらずに、王宮を後にした。
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