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 翌日の三時から、王宮の中庭の芝生に、お茶会のための丸テーブルと、日焼よけのパラソルが置かれてある。
 
 午前は曇りがちだった空も、午後に入ると雲が風に流されて、明るい太陽の日差しが照り始めていた。

 朝から、フリメースはアナリスから宮中のメイドたちに指示させ、メインの紅茶やお菓子もしっかり準備ができている。

 お天気も良くて、準備も万端で、なによりだわ。

 彼女は、お気に入りの黄色の蝶模様のロングドレス姿で、宮殿のエントランスに佇み、招待した二十人のクラスメイトを待っていた。

 続々と馬車が立ち替わり停車して、車内からドレス姿の令嬢たちが降り立つ。

 その中で、スタイルズ公爵家の馬車から降り立ったリリス・スタイルズ公爵令嬢の姿に、フリメースもアナリス、級友たち一同も目を見張った。

 立ち振る舞いは令嬢としての嗜みはあるが、格好は平民以下だ。

 黄色い頭巾に粗末な麻布を継ぎ接ぎしただけのワンピースを着ていたのだから……。

 これは、まるで孤児だった頃の格好に違いないわ。メリエル・アルバニ本人をさらけ出すつもりなの?

 フリメースは、直感でそう思った。

「リリス様、この格好はどうなさったのかしら」
「わたくしの使用人でも、まだ、ましですわ」
「さすがのフリメース様も、呆れて何も言えないみたいよ」

 他の友人たちは遠巻きに、リリス嬢を見ながら、訝しげに首を傾げ、ひそひそ話をしている。

 そんな微妙な空気感の中でも、リリス嬢は明るかった。

 彼女は、フリメースの前に歩み寄り、スカートの裾を持ち上げながら、
 
「申し訳ありません。王宮のお茶会で、こんな格好をして……。不快な想いをされたでしょう」

 下級の格好に反して、リリス嬢の令嬢らしい丁寧な挨拶に、フリメースは、戸惑いながらも笑顔を向けた。

「いいのですのよ。今回は国王主催の公式な催しではないですもの。わたくしは、歓迎いたします。じき、お兄様も、エマニュエ嬢も来られるでしょう」

と、王女らしい振る舞いをした。

「ありがとう」

 リリス嬢は、にこやかに頬笑み、友だちのもとにも普段通りに気さくで明るく接したので、一気に堅苦かった雰囲気が明るくなる。

「楽しそうだね」

「……お兄様」

 フリメースがふり向くと、白い上着を着たレイズ王子とエマニュエ嬢が立っていた。

「リリスは、誰にでも笑顔にしてしまう、向日葵のような女性だよ。どんな困難な逆風も、突き抜けられる方だ」

 フリメースは、兄が目を細め、リリス嬢を愛おしそうに眺めるのを見てから、心の中でつぶやく。

「お兄様は、リリス様のことを、これほどまでに想って……」

 レイズ王子は微笑したまま何も言わずに、リリス嬢の元に向かい、彼女の頬に唇を添えた。
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