【完結】侯爵令嬢ですが、婚約破棄を告げられた瞬間から溺愛劇が始まりました

朝日みらい

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第四章 辺境伯の告白(後半)

 月明かりが降り注ぐ庭園で、わたくしはアレクシス様の手を握られたまま、どうにも落ち着きを取り戻せずにおりました。

「……そ、その、お優しいお言葉はありがたいのですけれど。わたくしは別に、笑顔がどうとか……」

 しどろもどろに口ごもるわたくしの言葉を遮るように、彼はふいに微笑を深めました。

「やっぱり、強がるんだな。そこが可愛い」

「っ!」

 わたくしは顔を背けました。まったく、この方は人をからかってばかりで……。けれど、本気でなければ出来ない表情だとわかってしまうからこそ、余計に困るのです。

「……も、もう戻らなければ、噂が立ってしまいますよ」

「噂ね。どうせ放っておいても立つんだ。だったら堂々と立てばいい」

 涼やかな声音でそう言うと、アレクシス様はわたくしの肩にそっと触れました。

 吸い込まれるような眼差しと距離の近さに、わたくしは思わず一歩引こうとして――しかし引かせてもらえませんでした。彼の大きな手が、そっと背を支えてくるから。

「……アレクシス様。あの、近すぎ、ますっ」

「そうか? 俺はまだ足りないくらいだと思うが」

 さらりとそんなことを言ってのけて。真顔で、わたくしの髪を撫でるだなんて……!

 ざわざわと心中が騒がしいのを、どうにかして覆い隠さねばなりません。侯爵令嬢クラリッサ・ローゼンの威厳が……ぐらぐらと揺れてしまいますわ!

「ふ、ふふ。……そ、それならいっそ、皆の前で『悪役令嬢を攫った』とご宣言なさったら?」

 皮肉を込めて笑ってみせます。ですが。

「……そうだな。いずれ、そうしよう」

 真剣な眼差しが返ってきた瞬間、わたくしの心臓は跳ねました。

 冗談として流すつもりが、彼の強さにかき消されてしまう。

 ……どうしてでしょう。この方の隣に立つと、わたくしは「誰かに守られていいのだ」と、初めて思えるのです。

 噴水の水音が、まるで心臓の鼓動をかき消すための演奏のように響いていました。

 その夜、わたくしは自分の心が少しずつ変わり始めているのを、否応なく感じていたのでございます。



 けれど――宮廷という場所は、甘やかなだけでは終わりません。

 その翌日には早くも、社交界で噂が飛び交いました。

「悪役令嬢、今度は辺境伯を籠絡したらしいわよ」
「夜会で堂々と婚約破棄されながら、あの態度……恐ろしい方ね」

 どれも、耳障りな囁き。

 けれど、廊下の窓辺に立つわたくしの手を、アレクシス様がそっと取ってくださった時……胸の痛みはほんの少し和らぎました。

「気にする必要はない。好きに言わせておけばいい」

「……簡単に仰いますね」

「簡単だ。俺が君の隣に立ち続ければ、それが答えになる」

「フフッ……何ですの、それ……」

 その言葉に、思わず笑ってしまいました。

 こんなにも頼もしく言い切る殿方が隣にいるだなんて夢にも思わなかったのです。
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