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第六章 陰謀と守護(後半)
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噂が大きく膨らんでゆくのと同時に、ついに殿下アルベルトは表立って動かれました。
ある日の夜会でのこと――
「クラリッサ・ローゼン。そなたが舞踏会費用を私腹のために使い込んでいる、そんな報告を受けた」
唐突に投げかけられた糾弾の言葉に、場内がざわりと揺れます。
殿方も令嬢たちも、息を呑んでわたくしを凝視しました。
――ああ。来てしまいましたわね。
殿下が最初から狙っているのは、わたくし個人の評判だけではなく、ローゼン侯爵家という基盤そのもの。それを崩せば、一気に王国の権力図に穴が空く。そう踏んでいらっしゃるのでしょう。
「……殿下、それは濡れ衣ですわ。侯爵家の帳簿は常に監査にかけられております。ご存じのはずです」
堂々と返しましたが――人々の目には、真偽よりスキャンダルのほうが甘美。耳触りの良い噂を信じようとする声が、すでにあちこちでささやかれているのが見えます。
そんな時でした。
「下らん」
低く一言。
場の空気をねじ伏せるように、その声は響きました。
人々が振り向く先に立っていたのは――もちろん、アレクシス・ヴァレンタイン様。
彼は悠然と進み出て、その長身でもって自然に人々を退け、わたくしの隣へと歩み寄りました。
そして、まるで当然のことのように、わたくしの腰へ手を添えてきたのです。
「っ、アレクシス様!?」
驚いて小声で制しましたが、彼は意に介さず。むしろわざと見せつけるように堂々と――。
「アルベルト殿下。あなたは辺境を守る領軍の帳簿をご覧になったことがありますか? 真に複雑で緻密な数字を理解できず、憶測で侮辱するなど愚の骨頂。侯爵令嬢を罪人扱いした瞬間、あなたはローゼン家だけでなく、我がヴァレンタイン領も敵に回したのだ」
切り込む彼の声に、剣気が漂うのを感じました。その厳しさに、さすがの殿下もぐっと言葉に詰まり――。
アレクシス様はさらに続けます。
「ここにいる誰もが知っているはずだ。クラリッサ・ローゼンは気高く、そして潔白だと。少なくとも私にとって彼女は……かけがえのない人だ」
その言葉に、空気が震えました。
舞踏のざわめきは消え、人々はただ静かに見守るだけ。
(かけがえの……ない、ですって?)
わたくしの胸は、どくん、と甘く鳴りました。
頬に触れる彼の掌。人前でこんなにも……堂々と。
「アレクシス様……も、もう本当に、勘弁なさって……」
必死に小声でささやくわたくしを見て、彼はくすりと笑います。
「なら、俺だけに勘弁すると言えばいい」
耳もとで囁かれた瞬間、顔中が真っ赤に燃え上がり――場のざわめきも何もかも霞んでしまいました。
その後、殿下の謀略は監査役や証人たちの証言によって覆され、わたくしへの嫌疑は晴れました。
広まったのは逆に――“辺境伯嫡男が侯爵令嬢を熱烈に庇った”という眩しい噂ばかり。
わたくしは胸を押さえながら思いました。
(……なんて、心をかき乱す方ですの)
救ってくださるのも、支えてくださるのも嬉しいけれど、こんなふうに心を騒がせて困ってしまいますわ。
けれど――会場を後にする時、そっと差し伸べられた彼の大きな手を、わたくしは握りしめておりました。
ある日の夜会でのこと――
「クラリッサ・ローゼン。そなたが舞踏会費用を私腹のために使い込んでいる、そんな報告を受けた」
唐突に投げかけられた糾弾の言葉に、場内がざわりと揺れます。
殿方も令嬢たちも、息を呑んでわたくしを凝視しました。
――ああ。来てしまいましたわね。
殿下が最初から狙っているのは、わたくし個人の評判だけではなく、ローゼン侯爵家という基盤そのもの。それを崩せば、一気に王国の権力図に穴が空く。そう踏んでいらっしゃるのでしょう。
「……殿下、それは濡れ衣ですわ。侯爵家の帳簿は常に監査にかけられております。ご存じのはずです」
堂々と返しましたが――人々の目には、真偽よりスキャンダルのほうが甘美。耳触りの良い噂を信じようとする声が、すでにあちこちでささやかれているのが見えます。
そんな時でした。
「下らん」
低く一言。
場の空気をねじ伏せるように、その声は響きました。
人々が振り向く先に立っていたのは――もちろん、アレクシス・ヴァレンタイン様。
彼は悠然と進み出て、その長身でもって自然に人々を退け、わたくしの隣へと歩み寄りました。
そして、まるで当然のことのように、わたくしの腰へ手を添えてきたのです。
「っ、アレクシス様!?」
驚いて小声で制しましたが、彼は意に介さず。むしろわざと見せつけるように堂々と――。
「アルベルト殿下。あなたは辺境を守る領軍の帳簿をご覧になったことがありますか? 真に複雑で緻密な数字を理解できず、憶測で侮辱するなど愚の骨頂。侯爵令嬢を罪人扱いした瞬間、あなたはローゼン家だけでなく、我がヴァレンタイン領も敵に回したのだ」
切り込む彼の声に、剣気が漂うのを感じました。その厳しさに、さすがの殿下もぐっと言葉に詰まり――。
アレクシス様はさらに続けます。
「ここにいる誰もが知っているはずだ。クラリッサ・ローゼンは気高く、そして潔白だと。少なくとも私にとって彼女は……かけがえのない人だ」
その言葉に、空気が震えました。
舞踏のざわめきは消え、人々はただ静かに見守るだけ。
(かけがえの……ない、ですって?)
わたくしの胸は、どくん、と甘く鳴りました。
頬に触れる彼の掌。人前でこんなにも……堂々と。
「アレクシス様……も、もう本当に、勘弁なさって……」
必死に小声でささやくわたくしを見て、彼はくすりと笑います。
「なら、俺だけに勘弁すると言えばいい」
耳もとで囁かれた瞬間、顔中が真っ赤に燃え上がり――場のざわめきも何もかも霞んでしまいました。
その後、殿下の謀略は監査役や証人たちの証言によって覆され、わたくしへの嫌疑は晴れました。
広まったのは逆に――“辺境伯嫡男が侯爵令嬢を熱烈に庇った”という眩しい噂ばかり。
わたくしは胸を押さえながら思いました。
(……なんて、心をかき乱す方ですの)
救ってくださるのも、支えてくださるのも嬉しいけれど、こんなふうに心を騒がせて困ってしまいますわ。
けれど――会場を後にする時、そっと差し伸べられた彼の大きな手を、わたくしは握りしめておりました。
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