12 / 12
最終章 ティーポットの幸福な味
しおりを挟む
お父様からの手紙を受け取った翌日、わたしたちは、あの古い家を正式に購入する手続きを終えました。
「やったな、リナリア」
アルセイン様が、わたしの手をぎゅっと握りしめて、飛び跳ねるように喜びます。
「はい!アルセイン様!」
わたしも彼の手を握り返し、満面の笑みで答えました。
宿暮らしの生活から、家を持つ生活へ。
わたしたちの新しい生活が、ついに始まるのです。
家を手に入れたわたしたちは、すぐに引っ越しを済ませました。
古い家でしたが、二人で掃除をしたり、家具を運び込んだりするうちに、あっという間に、わたしたちの家らしくなっていきました。
「リナリア、これ、ここに置こうか?」
「はい!アルセイン様!」
二人で家具の配置を考えたり、窓から差し込む光の入り方を試したり。
わたしにとって、それはまるで夢のような時間でした。
窓の外には、庭に咲く白い花が見えました。
「ねぇ、アルセイン様。この花、何ていう名前なんでしょう?」
「さあな。でも、お前によく似合ってる」
彼は、わたしの髪にそっと触れました。
わたしたちが家を購入してから、数週間が経ったある日。
アルセイン様は、要人護衛の仕事で少し遠くまで行くことになりました。
「リナリア、行ってくるよ」
彼は、わたしの頭を優しく撫でてくれました。
「はい!いってらっしゃい!気をつけてくださいね」
「ああ。帰ってきたら、お前に、いいものを見せてやる」
彼は、わたしの頬にキスをしました。
「……え、アルセイン様……?」
わたしは顔を真っ赤にして、慌てて彼のことを見つめました。
「じゃあな、リナリア」
彼はにっこり笑うと、わたしの手を取り、優しく握ってくれました。
それから1週間。
アルセイン様が帰ってくるまで、わたしは家で彼の帰りを待っていました。
その日の夜、わたしは彼のことを思いながら、パンを焼いたり、刺繍をしたり。
そうしていると、ふと、家の前で、人の声が聞こえました。
「アルセイン様……?」
慌てて玄関を開けると、そこにはアルセイン様が花束を持って立っていました。
「ただいま、リナリア」
彼は、花束を差し出しました。
「ありがとう、アルセイン様……!」
わたしは花束を受け取り、そっと鼻先に甘い匂いをいっぱいに吸い込んでから、胸元に抱きました。
「お帰りが遅いから、もう心配しましたよ……!」
「ごめん。でも、お前に見せたいものがあってな」
彼はわたしの手を取り、庭へと向かいました。
庭には、白い花が月明かりに照らされて美しく咲いていました。
「リナリア、俺と結婚してくれないか?」
彼は、ポケットから小さな箱を取り出しました。
中には銀色に輝く、美しい指輪が入っていました。
「アルセイン様……!」
わたしはあまりの驚きに、言葉を失いました。
「俺は、お前を誰よりも幸せにする。この指輪はその誓いだ。だから……」
彼は、わたしの瞳をまっすぐに見つめました。
「お前と、ずっと一緒にいたい」
彼の言葉に、涙が止まらなくなりました。
「……はい!喜んで!」
彼は、指輪をそっとはめると、強く抱きしめました。
翌日、わたしたちは街の教会で結婚式を挙げました。
参列者は呼ばず、わたしたち二人だけの、ささやかな、そして、とても温かい結婚式でした。
「アルセイン様、花冠の代わりに、白いベールを……!」
「ああ。お前は、この世で一番美しい花だ」
彼は、わたしの頭に白いベールをそっと載せてくれました。
式の後、わたしたちは庭先で、二人だけのティータイムを過ごしました。
「リナリア、これ……」
アルセイン様が、そ一つの箱をわたしに差し出しました。
中には、わたしの家宝だった、あのティーセットが、完璧に修復された状態で入っていました。
「……え、アルセイン様……!」
わたしは、あまりの驚きに言葉を失いました。
「街に、腕のいい陶芸家がいてな。お前のお父様から貰った金貨で、内緒で修復してもらったんだ」
彼は照れくさそうに、わたしのことを見つめました。
「今度は、割れないようにするね」
わたしは、にっこりと微笑みました。
「もう二度と」
彼は、わたしの頬にそっと触れました。
修復されたティーセットで注がれた紅茶は、幸福の味がしました。
【完】
「やったな、リナリア」
アルセイン様が、わたしの手をぎゅっと握りしめて、飛び跳ねるように喜びます。
「はい!アルセイン様!」
わたしも彼の手を握り返し、満面の笑みで答えました。
宿暮らしの生活から、家を持つ生活へ。
わたしたちの新しい生活が、ついに始まるのです。
家を手に入れたわたしたちは、すぐに引っ越しを済ませました。
古い家でしたが、二人で掃除をしたり、家具を運び込んだりするうちに、あっという間に、わたしたちの家らしくなっていきました。
「リナリア、これ、ここに置こうか?」
「はい!アルセイン様!」
二人で家具の配置を考えたり、窓から差し込む光の入り方を試したり。
わたしにとって、それはまるで夢のような時間でした。
窓の外には、庭に咲く白い花が見えました。
「ねぇ、アルセイン様。この花、何ていう名前なんでしょう?」
「さあな。でも、お前によく似合ってる」
彼は、わたしの髪にそっと触れました。
わたしたちが家を購入してから、数週間が経ったある日。
アルセイン様は、要人護衛の仕事で少し遠くまで行くことになりました。
「リナリア、行ってくるよ」
彼は、わたしの頭を優しく撫でてくれました。
「はい!いってらっしゃい!気をつけてくださいね」
「ああ。帰ってきたら、お前に、いいものを見せてやる」
彼は、わたしの頬にキスをしました。
「……え、アルセイン様……?」
わたしは顔を真っ赤にして、慌てて彼のことを見つめました。
「じゃあな、リナリア」
彼はにっこり笑うと、わたしの手を取り、優しく握ってくれました。
それから1週間。
アルセイン様が帰ってくるまで、わたしは家で彼の帰りを待っていました。
その日の夜、わたしは彼のことを思いながら、パンを焼いたり、刺繍をしたり。
そうしていると、ふと、家の前で、人の声が聞こえました。
「アルセイン様……?」
慌てて玄関を開けると、そこにはアルセイン様が花束を持って立っていました。
「ただいま、リナリア」
彼は、花束を差し出しました。
「ありがとう、アルセイン様……!」
わたしは花束を受け取り、そっと鼻先に甘い匂いをいっぱいに吸い込んでから、胸元に抱きました。
「お帰りが遅いから、もう心配しましたよ……!」
「ごめん。でも、お前に見せたいものがあってな」
彼はわたしの手を取り、庭へと向かいました。
庭には、白い花が月明かりに照らされて美しく咲いていました。
「リナリア、俺と結婚してくれないか?」
彼は、ポケットから小さな箱を取り出しました。
中には銀色に輝く、美しい指輪が入っていました。
「アルセイン様……!」
わたしはあまりの驚きに、言葉を失いました。
「俺は、お前を誰よりも幸せにする。この指輪はその誓いだ。だから……」
彼は、わたしの瞳をまっすぐに見つめました。
「お前と、ずっと一緒にいたい」
彼の言葉に、涙が止まらなくなりました。
「……はい!喜んで!」
彼は、指輪をそっとはめると、強く抱きしめました。
翌日、わたしたちは街の教会で結婚式を挙げました。
参列者は呼ばず、わたしたち二人だけの、ささやかな、そして、とても温かい結婚式でした。
「アルセイン様、花冠の代わりに、白いベールを……!」
「ああ。お前は、この世で一番美しい花だ」
彼は、わたしの頭に白いベールをそっと載せてくれました。
式の後、わたしたちは庭先で、二人だけのティータイムを過ごしました。
「リナリア、これ……」
アルセイン様が、そ一つの箱をわたしに差し出しました。
中には、わたしの家宝だった、あのティーセットが、完璧に修復された状態で入っていました。
「……え、アルセイン様……!」
わたしは、あまりの驚きに言葉を失いました。
「街に、腕のいい陶芸家がいてな。お前のお父様から貰った金貨で、内緒で修復してもらったんだ」
彼は照れくさそうに、わたしのことを見つめました。
「今度は、割れないようにするね」
わたしは、にっこりと微笑みました。
「もう二度と」
彼は、わたしの頬にそっと触れました。
修復されたティーセットで注がれた紅茶は、幸福の味がしました。
【完】
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
断罪された私ですが、気づけば辺境の村で「パン屋の奥さん」扱いされていて、旦那様(公爵)が店番してます
さら
恋愛
王都の社交界で冤罪を着せられ、断罪とともに婚約破棄・追放を言い渡された元公爵令嬢リディア。行き場を失い、辺境の村で倒れた彼女を救ったのは、素性を隠してパン屋を営む寡黙な男・カイだった。
パン作りを手伝ううちに、村人たちは自然とリディアを「パン屋の奥さん」と呼び始める。戸惑いながらも、村人の笑顔や子どもたちの無邪気な声に触れ、リディアの心は少しずつほどけていく。だが、かつての知り合いが王都から現れ、彼女を嘲ることで再び過去の影が迫る。
そのときカイは、ためらうことなく「彼女は俺の妻だ」と庇い立てる。さらに村を襲う盗賊を二人で退けたことで、リディアは初めて「ここにいる意味」を実感する。断罪された悪女ではなく、パンを焼き、笑顔を届ける“私”として。
そして、カイの真実の想いが告げられる。辺境を守り続けた公爵である彼が選んだのは、過去を失った令嬢ではなく、今を生きるリディアその人。村人に祝福され、二人は本当の「パン屋の夫婦」となり、温かな香りに包まれた新しい日々を歩み始めるのだった。
「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~
ぽんた
恋愛
「七日の後に離縁の上、実質上追放を言い渡す。そのあとは、おまえは王都から連れだされることになる。人質であるおまえを断罪したがる連中がいるのでな。信用のおける者に生活できるだけの金貨を渡し、託している。七日間だ。おまえの国を攻略し、おまえを人質に差し出した父王と母后を処分したわが軍が戻ってくる。そのあと、おまえは命以外のすべてを失うことになる」
その日、わたしは内密に告げられた。小国から人質として嫁いだ親子ほど年齢の離れた国王である夫に。
わたしは決意した。ぜったいに願いをかなえよう。たったひとつの望みを陛下にかなえてもらおう。
そう。わたしには陛下から授かりたいものがある。
陛下から与えてほしいたったひとつのものがある。
この物語は、その五年後のこと。
※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる