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第4章 雪の追放路
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その夜、わたしを乗せた馬車は王都を離れ、ひたすら北へ向かって走っていました。
車窓の外では吹雪が荒れ狂い、闇を溶かすように雪が降りしきっています。
冷たい風が頬を打ち、耳を刺すような音だけが響く中、胸の奥に残るのは、殿下のあの言葉。
「出ていけ。」
わずか四文字。
けれど、それはわたしの世界を終わらせるには十分すぎるほどの重さを持っていました。
「……全部、終わったんだわね」
小さくつぶやく声は、馬車の音にかき消されました。
誰かの身代わりで生きる人生。
努力しても、信じようとしても――結局、誰も信じてはくれなかった。
白い息を吐きながら窓に視線を落とすと、夜の闇に紛れて遠くの屋根が見えました。
あんなに眩しかった王都の灯りが、今はひどく遠く感じます。
母の形見である首飾りをそっと握りしめました。凍てついた石の感触が、静かに手に冷たさを伝えます。
「25日に生まれた娘は、運命を変える力を持つ。」
……本当にそうなの?
もしかして、変えたのは自分の幸せを壊す運命だったんじゃないかしら。
そんな弱音を思った瞬間、馬車が大きく揺れました。
「きゃっ……!」
次の瞬間、吹き荒れる風と共に、馬が嘶きました。
前方に影――無数の人影が立ち塞がったように見えます。
「な、何事だ!?」
御者の叫びが響いた途端、弓矢の音が夜空を裂きました。
矢が木製の壁を貫き、光が散ります。
「盗賊か!」
胸の奥がざわりと波打ちました。
駄目、ここで止まったら――!
「止まらないで、早く逃げてっ!」
そう叫んだ直後、馬車が激しく横転しました。
世界がゆっくりと回転し、重たい雪が降り込んできます。
「……いた……い……」
頭のどこかが痺れるように痛む。
体を起こそうとしたけれど、脚が動かなかった。
視界の端で、男たちの声が聞こえます。
「金目のものは全部持ってけ。女は――」
「――やめて!」
声が震え、叫んだ途端、何かが雪をけり上げました。
次の瞬間、斬撃のような風が走ります。
「ぐっ!? こ、こいつは……!」
風を裂いて現れたのは、一人の男でした。
黒いマントに覆われ、雪を蹴るように降り立つ姿。月のかけらのように鋭い、その瞳。
「俺の領で狼の真似事か。愚かだな」
ただそれだけを告げると、剣が一閃しました。
刃が光をまとい、盗賊たちが次々に雪上へ崩れ落ちていく。
残る一人が震える声で叫びました。
「だ、誰だ……この氷雪の夜に……!」
「ライナルト=ヴァイスベルク。名前を聞いても、二度と口にすることはないだろう」
黒い外套を翻し、男――ライナルトは剣を収めました。
すべてが終わったことを理解した頃には、わたしは完全に立てなくなっていました。
「おい、大丈夫か」
声がして、頬に触れる手のひらがありました。
その手は、雪の中にいるはずなのに、不思議と温かく感じました。
「……あなたは……?」
「そんな状態で質問するな。傷が深い」
低く静かな声。
不機嫌にも聞こえるけれど、その瞳の奥には確かに心配の色がありました。
「立てない。……手を貸してやる」
そう言って、彼はわたしの腕を抱き上げました。
強い腕の中に包まれ、雪の冷たさが少しだけ遠ざかっていく。
「……寒くない?」
「さむ……く、ないです……」
本当は寒さで震えていたのに、口から出た言葉はまるで違うものでした。
胸の鼓動がやけに大きく響いている。
この人の腕の中にいるだけで、雪の世界がどこか柔らかく見えました。
「王都の名残か。……面倒なことに巻き込まれていそうだ」
「え?」
「何でもない。しばらくは俺の屋敷で保護する」
「そ、そんな、申し訳ありません……!」
「助けた責任は取る。礼など要らん」
言葉の調子は冷たいけれど、その手の力は優しい。
わたしは胸の奥でそっと呟きました。
「……やっぱり、25の運命って……少しだけ、温かいかもしれない」
吹雪の夜、凍てつく風の中で、運命の歯車が静かに回り始めました。
~~~~~~~~~~
翌朝。
目を覚ますと、知らない部屋の暖炉が、静かに火を灯していました。
「ここは……」
「俺の館だ。意識が戻ったか」
振り向くと、暖炉の前で黒衣の将軍が腕を組んで立っていました。
朝の光に照らされた彼の銀の瞳が、不思議なほど澄んで見えます。
「助けてくださって、ありがとうございました……」
「礼はいい。だが名を聞いておこう」
「アメリア・クラインです。……子爵家の娘でした」
“でした”と言った瞬間、自分でも驚くほど苦い響きがしました。
わたしの居場所はもう、あの家にはない。
そう気づいてしまったからです。
ライナルトは少し黙ったあと、短く言いました。
「なら、今日からは“客人”だ。まずは体を休めろ」
そう言って部屋を出ていく彼の背中に、胸の奥が強く脈打ちました。
冷たく、けれど真っ直ぐで優しい。
――あの人の背中は、まるで雪の中に立つ一本の木のよう。
風に逆らっても折れない、静かな強さがありました。
車窓の外では吹雪が荒れ狂い、闇を溶かすように雪が降りしきっています。
冷たい風が頬を打ち、耳を刺すような音だけが響く中、胸の奥に残るのは、殿下のあの言葉。
「出ていけ。」
わずか四文字。
けれど、それはわたしの世界を終わらせるには十分すぎるほどの重さを持っていました。
「……全部、終わったんだわね」
小さくつぶやく声は、馬車の音にかき消されました。
誰かの身代わりで生きる人生。
努力しても、信じようとしても――結局、誰も信じてはくれなかった。
白い息を吐きながら窓に視線を落とすと、夜の闇に紛れて遠くの屋根が見えました。
あんなに眩しかった王都の灯りが、今はひどく遠く感じます。
母の形見である首飾りをそっと握りしめました。凍てついた石の感触が、静かに手に冷たさを伝えます。
「25日に生まれた娘は、運命を変える力を持つ。」
……本当にそうなの?
もしかして、変えたのは自分の幸せを壊す運命だったんじゃないかしら。
そんな弱音を思った瞬間、馬車が大きく揺れました。
「きゃっ……!」
次の瞬間、吹き荒れる風と共に、馬が嘶きました。
前方に影――無数の人影が立ち塞がったように見えます。
「な、何事だ!?」
御者の叫びが響いた途端、弓矢の音が夜空を裂きました。
矢が木製の壁を貫き、光が散ります。
「盗賊か!」
胸の奥がざわりと波打ちました。
駄目、ここで止まったら――!
「止まらないで、早く逃げてっ!」
そう叫んだ直後、馬車が激しく横転しました。
世界がゆっくりと回転し、重たい雪が降り込んできます。
「……いた……い……」
頭のどこかが痺れるように痛む。
体を起こそうとしたけれど、脚が動かなかった。
視界の端で、男たちの声が聞こえます。
「金目のものは全部持ってけ。女は――」
「――やめて!」
声が震え、叫んだ途端、何かが雪をけり上げました。
次の瞬間、斬撃のような風が走ります。
「ぐっ!? こ、こいつは……!」
風を裂いて現れたのは、一人の男でした。
黒いマントに覆われ、雪を蹴るように降り立つ姿。月のかけらのように鋭い、その瞳。
「俺の領で狼の真似事か。愚かだな」
ただそれだけを告げると、剣が一閃しました。
刃が光をまとい、盗賊たちが次々に雪上へ崩れ落ちていく。
残る一人が震える声で叫びました。
「だ、誰だ……この氷雪の夜に……!」
「ライナルト=ヴァイスベルク。名前を聞いても、二度と口にすることはないだろう」
黒い外套を翻し、男――ライナルトは剣を収めました。
すべてが終わったことを理解した頃には、わたしは完全に立てなくなっていました。
「おい、大丈夫か」
声がして、頬に触れる手のひらがありました。
その手は、雪の中にいるはずなのに、不思議と温かく感じました。
「……あなたは……?」
「そんな状態で質問するな。傷が深い」
低く静かな声。
不機嫌にも聞こえるけれど、その瞳の奥には確かに心配の色がありました。
「立てない。……手を貸してやる」
そう言って、彼はわたしの腕を抱き上げました。
強い腕の中に包まれ、雪の冷たさが少しだけ遠ざかっていく。
「……寒くない?」
「さむ……く、ないです……」
本当は寒さで震えていたのに、口から出た言葉はまるで違うものでした。
胸の鼓動がやけに大きく響いている。
この人の腕の中にいるだけで、雪の世界がどこか柔らかく見えました。
「王都の名残か。……面倒なことに巻き込まれていそうだ」
「え?」
「何でもない。しばらくは俺の屋敷で保護する」
「そ、そんな、申し訳ありません……!」
「助けた責任は取る。礼など要らん」
言葉の調子は冷たいけれど、その手の力は優しい。
わたしは胸の奥でそっと呟きました。
「……やっぱり、25の運命って……少しだけ、温かいかもしれない」
吹雪の夜、凍てつく風の中で、運命の歯車が静かに回り始めました。
~~~~~~~~~~
翌朝。
目を覚ますと、知らない部屋の暖炉が、静かに火を灯していました。
「ここは……」
「俺の館だ。意識が戻ったか」
振り向くと、暖炉の前で黒衣の将軍が腕を組んで立っていました。
朝の光に照らされた彼の銀の瞳が、不思議なほど澄んで見えます。
「助けてくださって、ありがとうございました……」
「礼はいい。だが名を聞いておこう」
「アメリア・クラインです。……子爵家の娘でした」
“でした”と言った瞬間、自分でも驚くほど苦い響きがしました。
わたしの居場所はもう、あの家にはない。
そう気づいてしまったからです。
ライナルトは少し黙ったあと、短く言いました。
「なら、今日からは“客人”だ。まずは体を休めろ」
そう言って部屋を出ていく彼の背中に、胸の奥が強く脈打ちました。
冷たく、けれど真っ直ぐで優しい。
――あの人の背中は、まるで雪の中に立つ一本の木のよう。
風に逆らっても折れない、静かな強さがありました。
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