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隣人もなかなか良い人です
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彼女は向かいにこしかけて、照れくさそうに、ストレートの前髪をいじる。
「わたし、本物にこだわるたちなんです。レモンティーだったら、ネット通販で産地からとりよせたりしますし。茶葉もブレンドとか、いろいろ自分で試したりします。これは、レモンの皮を入れて、味を濃くしているんです」
「そうなんですね」
彼女は、あらたまって、
「わたし、林田郁子といいます」と、頭を下げた。
圭吾も、あらたまって背筋をのばした。
「川北圭吾さん、ですよね」
圭吾が言う前に、郁子はそう言って、なぜかクスクスと笑い出した。
圭吾が、口を半開きにして呆気にとられているのに、郁子はさらに愉快そうに笑い続ける。
だが、彼女の笑い方は軽やかで、まったく嫌みに聞こえないのが不思議だ。
大声を出さず口もとに手をやり、白い歯をみせない、どこか品のある仕草がそう思わせるのだろう。
圭吾も、思わず苦笑を浮かべてしまう。
「ごめんなさい。でもまだ、凛子さまから何も聞いてないなんて。あんなに親しくしてるのに」
「ぼくと凛子さまの関係を、ご存じなんですか」
「ある程度、ですけどね」
郁子は、また平常なお淑やかな素顔にもどっている。
「芸術家気取り、自活できなくて、凛子さまに食べさせてもらっている、奴隷の身分でしょう」
郁子は、落ち着き払って言うと、ティーカップをかたむける。
「べつに、ぼくはそんな身分ではないですよ」
圭吾は、しどろもどろになって、無作為に手をひらひらさせる。
「いいえ、ちがうんです」
郁子は、横にゆっくりと首をふった。
「川北さんの話ではなく、わたしのことを言ったんですから」
「林田さんの?」
「そうです。わたしは自称、画家ですけど、まったく売れません。才能をみとめてくれたのは、凛子さまだけです」
郁子は、視線を下に向けた。
「美大を出て、バイトをしながら、描きためた絵で個展を開いたんです。ほとんど見向きもされませんでした。コテンパンってやつです」
「わたし、本物にこだわるたちなんです。レモンティーだったら、ネット通販で産地からとりよせたりしますし。茶葉もブレンドとか、いろいろ自分で試したりします。これは、レモンの皮を入れて、味を濃くしているんです」
「そうなんですね」
彼女は、あらたまって、
「わたし、林田郁子といいます」と、頭を下げた。
圭吾も、あらたまって背筋をのばした。
「川北圭吾さん、ですよね」
圭吾が言う前に、郁子はそう言って、なぜかクスクスと笑い出した。
圭吾が、口を半開きにして呆気にとられているのに、郁子はさらに愉快そうに笑い続ける。
だが、彼女の笑い方は軽やかで、まったく嫌みに聞こえないのが不思議だ。
大声を出さず口もとに手をやり、白い歯をみせない、どこか品のある仕草がそう思わせるのだろう。
圭吾も、思わず苦笑を浮かべてしまう。
「ごめんなさい。でもまだ、凛子さまから何も聞いてないなんて。あんなに親しくしてるのに」
「ぼくと凛子さまの関係を、ご存じなんですか」
「ある程度、ですけどね」
郁子は、また平常なお淑やかな素顔にもどっている。
「芸術家気取り、自活できなくて、凛子さまに食べさせてもらっている、奴隷の身分でしょう」
郁子は、落ち着き払って言うと、ティーカップをかたむける。
「べつに、ぼくはそんな身分ではないですよ」
圭吾は、しどろもどろになって、無作為に手をひらひらさせる。
「いいえ、ちがうんです」
郁子は、横にゆっくりと首をふった。
「川北さんの話ではなく、わたしのことを言ったんですから」
「林田さんの?」
「そうです。わたしは自称、画家ですけど、まったく売れません。才能をみとめてくれたのは、凛子さまだけです」
郁子は、視線を下に向けた。
「美大を出て、バイトをしながら、描きためた絵で個展を開いたんです。ほとんど見向きもされませんでした。コテンパンってやつです」
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