53 / 69
隣人もなかなか良い人です
4
しおりを挟む
彼女は向かいにこしかけて、照れくさそうに、ストレートの前髪をいじる。
「わたし、本物にこだわるたちなんです。レモンティーだったら、ネット通販で産地からとりよせたりしますし。茶葉もブレンドとか、いろいろ自分で試したりします。これは、レモンの皮を入れて、味を濃くしているんです」
「そうなんですね」
彼女は、あらたまって、
「わたし、林田郁子といいます」と、頭を下げた。
圭吾も、あらたまって背筋をのばした。
「川北圭吾さん、ですよね」
圭吾が言う前に、郁子はそう言って、なぜかクスクスと笑い出した。
圭吾が、口を半開きにして呆気にとられているのに、郁子はさらに愉快そうに笑い続ける。
だが、彼女の笑い方は軽やかで、まったく嫌みに聞こえないのが不思議だ。
大声を出さず口もとに手をやり、白い歯をみせない、どこか品のある仕草がそう思わせるのだろう。
圭吾も、思わず苦笑を浮かべてしまう。
「ごめんなさい。でもまだ、凛子さまから何も聞いてないなんて。あんなに親しくしてるのに」
「ぼくと凛子さまの関係を、ご存じなんですか」
「ある程度、ですけどね」
郁子は、また平常なお淑やかな素顔にもどっている。
「芸術家気取り、自活できなくて、凛子さまに食べさせてもらっている、奴隷の身分でしょう」
郁子は、落ち着き払って言うと、ティーカップをかたむける。
「べつに、ぼくはそんな身分ではないですよ」
圭吾は、しどろもどろになって、無作為に手をひらひらさせる。
「いいえ、ちがうんです」
郁子は、横にゆっくりと首をふった。
「川北さんの話ではなく、わたしのことを言ったんですから」
「林田さんの?」
「そうです。わたしは自称、画家ですけど、まったく売れません。才能をみとめてくれたのは、凛子さまだけです」
郁子は、視線を下に向けた。
「美大を出て、バイトをしながら、描きためた絵で個展を開いたんです。ほとんど見向きもされませんでした。コテンパンってやつです」
「わたし、本物にこだわるたちなんです。レモンティーだったら、ネット通販で産地からとりよせたりしますし。茶葉もブレンドとか、いろいろ自分で試したりします。これは、レモンの皮を入れて、味を濃くしているんです」
「そうなんですね」
彼女は、あらたまって、
「わたし、林田郁子といいます」と、頭を下げた。
圭吾も、あらたまって背筋をのばした。
「川北圭吾さん、ですよね」
圭吾が言う前に、郁子はそう言って、なぜかクスクスと笑い出した。
圭吾が、口を半開きにして呆気にとられているのに、郁子はさらに愉快そうに笑い続ける。
だが、彼女の笑い方は軽やかで、まったく嫌みに聞こえないのが不思議だ。
大声を出さず口もとに手をやり、白い歯をみせない、どこか品のある仕草がそう思わせるのだろう。
圭吾も、思わず苦笑を浮かべてしまう。
「ごめんなさい。でもまだ、凛子さまから何も聞いてないなんて。あんなに親しくしてるのに」
「ぼくと凛子さまの関係を、ご存じなんですか」
「ある程度、ですけどね」
郁子は、また平常なお淑やかな素顔にもどっている。
「芸術家気取り、自活できなくて、凛子さまに食べさせてもらっている、奴隷の身分でしょう」
郁子は、落ち着き払って言うと、ティーカップをかたむける。
「べつに、ぼくはそんな身分ではないですよ」
圭吾は、しどろもどろになって、無作為に手をひらひらさせる。
「いいえ、ちがうんです」
郁子は、横にゆっくりと首をふった。
「川北さんの話ではなく、わたしのことを言ったんですから」
「林田さんの?」
「そうです。わたしは自称、画家ですけど、まったく売れません。才能をみとめてくれたのは、凛子さまだけです」
郁子は、視線を下に向けた。
「美大を出て、バイトをしながら、描きためた絵で個展を開いたんです。ほとんど見向きもされませんでした。コテンパンってやつです」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる