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文学の少女はいつも胸の中にいます
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マユミは苦笑いを浮かべたが、圭吾の真剣な顔色が変わらないことに気づいて、彼の首から腕をほどいて立ちあがった。
「圭吾、ほんとに彼女がいるの?」
「何度も同じ質問はよしてくれよ。楓に失礼だよ」
圭吾には、向かいの困惑した表情の楓を見ながら言う。
「分かった」
マユミはうなずくと、向かいの楓の席に向かった。
圭吾は、目の前の光景を疑った。
マユミが楓の椅子に腰かけた時、シャボン玉のように、楓の身体は弾けて消えたからだった。
圭吾は、激しく波打つ鼓動を抑えようと、強く胸に手を押しつけ、目を閉じた。
そして、改めて向かいの席にいるマユミを眺めながめた。
スマホを開いて、楓とのメールのやりとりも、電話の発着信の履歴も一件もない。
圭吾は事実を認めた。
楓は、空想のヒロインだったのだ、と。
そして、その空想の産物に勃起しなかった訳も納得がいった。
楓と初めて会った時、散らばった原稿は、彼自身が拾い集め、鞄に入れていただけだった。
これまで会って話したことも、マユミが予備校にいたことも、マユミのマンションに来たことも、圭吾がマユミの名刺を頼りに、ひとりでしていたことだったのだ。
「圭吾、ほんとに彼女がいるの?」
「何度も同じ質問はよしてくれよ。楓に失礼だよ」
圭吾には、向かいの困惑した表情の楓を見ながら言う。
「分かった」
マユミはうなずくと、向かいの楓の席に向かった。
圭吾は、目の前の光景を疑った。
マユミが楓の椅子に腰かけた時、シャボン玉のように、楓の身体は弾けて消えたからだった。
圭吾は、激しく波打つ鼓動を抑えようと、強く胸に手を押しつけ、目を閉じた。
そして、改めて向かいの席にいるマユミを眺めながめた。
スマホを開いて、楓とのメールのやりとりも、電話の発着信の履歴も一件もない。
圭吾は事実を認めた。
楓は、空想のヒロインだったのだ、と。
そして、その空想の産物に勃起しなかった訳も納得がいった。
楓と初めて会った時、散らばった原稿は、彼自身が拾い集め、鞄に入れていただけだった。
これまで会って話したことも、マユミが予備校にいたことも、マユミのマンションに来たことも、圭吾がマユミの名刺を頼りに、ひとりでしていたことだったのだ。
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