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第1章 異動とミステリーサークル

第4話

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「あなたの言動が美帆を傷つけたんじゃないかって。結構騒いでるらしいわ」

「私はただ会社の指示に従っていただけです。売上を伸ばそうとして指導して。部長に迷惑をかけないようにしたいと思って」

 高田部長は苦笑した。

「そんなムキになんないでよ。篠田さん、生真面目すぎるところがあるから。美帆の調子が悪そうなら相談してくれればよかったのに」

 ぶざけないでよ。

 未知子は口の中で叫んだ。

 いつも忙しいと言って取り合わないくせに。
 でも、言ったところで何も変わらない。

 未知子は 何食わぬ顔で、
「わたし、生真面目ですか?」
とだけ言った。

 高田部長は、馴れ馴れしく未知子の肩に手を回した。

「まあまあ。うまくやってよ。佐藤所長はいい人だし。文書課の連中は個性的だけど。根はいいやつらだから」

 高田部長は軽いステップを踏みながら 、喫煙所のある二階に降りた。

 一人取り残された心持ちで、一階まで降りる。
 怒りでわなわなと 指先が震えだす。

 うまくやれだって?

 それでどれくらい 心に血を流したことか。
 どれくらい心に傷を負ったことか。
 どれくらい自分が嫌いになったことか。
 しかも私は他人に恨まれている。
 踏んだり蹴ったり。もうこの世から消えてしまいたい……。

  新宿駅から 東京メトロに乗って麹町へ向かう。

 明日のラッシュが一通り済んでいるので、車内は 比較的空いている。
 横にくすんだ灰色のジャケットを着た 青年が立っていた。
 二十前半の長身。痩せており、茶髪のロン毛をしている。
 首元に何かネックレスをつけている。擦り切れたスニーカーを履いている。
 熱心にスマートフォンに何か打ち込んでいる。

 未知子はできるだけ視線合わせないように背を向けた。
 ダンボールをあみ棚の上に置く。

 つり革にもたれながら、寝不足でヒリヒリと痛む 瞼を閉じた。
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