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第2章 ふしぎな職場と同盟と

第6話

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 麹町の駅から表通りを左折して下り坂を降りた脇に、古びた六階建てのビルがひっそりと建っている。
 未知子も一旦通り過ぎてしまったほどだ。

 地下一階までエレベーターで降りた。
 薄暗い廊下を進んで行くと、会社名とともに 「文書管理という 表札が掛けられている。
 窓口の上には物品受取という札が貼ってある。

「すみません」

 未知子が顔をのぞかせると、カーキ色のブラウスを着た 五十後半の女性が来た。

 古着屋で売っていそうな 服装である。
 丸いメガネから おっとりした 瞳が覗いている。
 中肉中背で腰が曲がっている。

「営業部の篠田さんよね」

「はい。本日付で 文書課に配属になりました」

「私、佐藤です。まあ、堅苦しい挨拶は抜きにして。まあ、どうぞ、どうぞ」

 佐藤についていくと、古びた窓がない事務所に四つの机とパソコンが置かれている。
 その奥の部屋は倉庫になっている。

 未知子は一目でここがかなり個性的な所であるとわかった。
 社員は二人いた。
 フリルのついた白い花嫁衣装のような服を着た三十代半ばの女性。
 熱心に髪を巻き毛にしている。
 一心不乱にスマートフォンでゲームをしている。

 もう一人は、上下緑色のジャージを着た四十代半ばの女性。
 ショートカットをしていて、浅黒い肌をしている。
 足下には手持ちのバーベルが置いてある。
 熱心に「 肉体と精神」という本を読んでいる。

 佐藤は彼女の隣の席を指差した。

「篠田さんは隣の席ね。名前は香取さん。力仕事なら誰にでも負けませんから。マッチョさんって呼んであげてください」

 マッチョは、本から少し 視線を上げて軽く会釈しただけだった。

「それから向こうの席は花田 さん。ゲームとアニメしか頭にないけれど。でも、パソコンにはめっぽう強いから。あだ名はマニアック」

 マニアックは、画面に釘付けになったまま。

「そして私は所長をしている佐藤です。あまり特技がないので。ただの佐藤さんと呼んでください」

「ひらの佐藤さんでいいよ。平社員なんで」

 話を聞いていたのか、マニアックが大真面目に言った。

「娘さんに頭が上がらないからさ」

 マニアックが クスクス笑っている。

「よろしくお願いします」

 未知子はダンボールを机の上に置いた。

「では、そろそろ起きる時間に近いから。午後から仕事の話をしましょう」

 佐藤はしわくちゃの手をこすると自分の席についた。
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