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第3章 美帆と見た夢の果て

第10話

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 こうして二ヶ月あまりが過ぎようとしていた。

 公園では、美しい赤色や黄色のもみじが鮮やかに色づいて水面に浮かんでいる。

「どんな仕事をしているの」

 未知子は訊いてみた。

「ビルの設備管理だよ。毎日二十四時間体制で寝泊まりしながら」

「そうなんだ」

「建物って生き物みたいなものでさ。ちゃんと機械をメンテナンスしてないと簡単に壊れる。異常を見つけたら修理しなきゃいけないし。午前中は空調機のベルトの調整をしてたから。ほら、手がこんなにグリスがついて真っ黒だ。危ない事だってあるしさ。ベルトに指が絡まって。引きちぎれることだってあるらしい」

「大変なんだね」

「ところでどうなんだい。そろそろネックレスの店長さんの事を教えてくれないかな?」

 未知子は一瞬まぶたを 閉じた。

「同盟の繋がり、信じていいかな?」

 彼は頷いた。

 未知子はゆっくりと息を吐いた 。
 それから、ゆっくりとした口調で語り始めた……。



 美帆と出会ったのは、入社式の時だった。

 朗らかでおっとりした、丸い目をしていた。
 二人は同じ百貨店内にある店舗に配属された。
 実際に働きながら、仕事を覚えた。

 まずは宝石の知識や接客を学ぶ。
 販売は立ち仕事である。
 姿勢正しく、ダークグレーのスーツは清潔でさっばりと。
 髪の毛一本でも、乱れは許されない。
 しっかりファンデーションをし、口紅をさす。
 そして、口元には笑みを絶やさない。

 けれども、目はしっかりとお客を観察する。
 客層も、お金に余裕のある女性が中心。
 ショーケースに注がれるお客の視線から情報を汲み取る。
 些細な雑談を交わしながら、手に入れたい衝動を掻きたてる。

 しかし、未知子はどうしても お客に物を売ることが 下手だった。
 一方の美帆の手からは 飛ぶように宝石が売れていく。
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