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第3章 美帆と見た夢の果て

第12話

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 しかし、予想に反して大量の在庫が残ってしまったのである。

 未知子は 経営陣から連日 損失を計上した理由を追及された。
 毎晩深夜一時に帰宅し、 出社するのは朝八時。
 未知子はもう限界だった。
 それでも、担当する店舗に訪れて打ち合わせをしなければならない。

 ある日、未知子は、クラクラしながら美帆の店を訪れた。
 美帆は、未知子を見て肩をすぼめた。
 裏の事務所に通された。そこには女性社員が二人居た。

「こちらが高木さんと木村さん。パート社員の方。すごく頑張ってくださってるのよ」
 四十代の落ち着いた感じの女性が高木。
 二十代前半の大柄の女性が木村である。

「営業の篠田です」

 未知子は頭を下げた。
 二人はじっと未知子を観察していた。

「ごめんね。ネックレスの件だけど。出来る限りのことをやったの。でもね。喜んでくれる人もいたのよ。
 あるカップルの笑顔が素敵だったの。それでね。また新しいデザイン が生まれたの。ほら」

 美帆はねポケットから手帳を取り出して広げた。
 まばゆいばかりに輝くひまわりのブローチの絵が描かれていた。

「どう? いつもみたいに感想教えてよ」

「私に訊かれてもわからないわ」

 未知子は、目尻に指先を押し当てた。
「自分でやればいいでしょう。いい加減、目を覚ましてちょうだい。夢だけじゃ生きていけないの。現実を見てよ」

 美帆の顔が、瞬く間にゆがんだ。

「篠田さん。それ、ちょっと言い過ぎだと思います」
 高木が言った。

 木村も加わった。
「店長だって必死に売ろうとしたんです 。私たちだって親や友達に買ってもらったりしてるんです。そんな言い方、店長に失礼 だと思います」

 未知子は、膝に置いた 手を拳にした。
「なら、はっきり言います 。一度失敗したらレッテルを貼られてしまう 。信頼を回復するのは容易じゃないの。
 這い上がるのはまず無理よ。いくらデザインを描いたって採用は難しいの。私は、もうあなたの夢を守れない」
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