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第4章 モンスターのようなもの
第18話
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アルコールで頬が熱い。
未知子は、帰りの電車のつり革に揺られながらぼんやりと考える。
自分は何のためにこの文書課にいるのか。
ただ、私はこのスクラップ置き場で取り残されて会社人生を終えるの?
こうして調布のマンションの前に立った時、見覚えのある 二人の女性が立っていた。
かつて美帆と同席していた高木と木村だった。
きっと社内名簿で住所を調べたのだろう。
「篠田さんですよね?」
木村の未知子の目の前に立ちふさがった。
「はい、私です」
唾を飲み込んでから、未知子は言った。
「ちょっとこれからお時間ありますか」
高木が言った。
「ええ……」
未知子は言った。
駅近くのファミリーレストランに 入った。
アメリカンコーヒーを三つ頼む。
「今日、店長の仏壇に手を合わせてきました」
高木が言った。
「あなたが追い込んだんです」
木村がにらんだ。
未知子は黙っていた。
しばらく時間が過ぎてから、 木村が言った。
「 私、店長の事をずっと尊敬してたんです。宝石のことが分からない私に、丁寧に教えていただいて。
どんなに助けられたことか……」
「会社の命令だからといって、店長の気持ちを ないがしろにして。それでうちの店長死んだと思う」
高木が詰め寄った。
未知子はうなだれていた。
彼女達は、会社の内部のことなど何も分からない。
販売という表舞台で、夢を追っている。
そこでいくら自分の苦労話をしても通じるわけない。
私がどれほど苦しんでいることなんて。
木村はふんと鼻を鳴らした。
「黙っちゃってさ。きっと、あなたは地獄に落ちると思いますよ」
高木は、おもむろに ズボンのポケットから一冊の手帳を取り出した 。
それは美帆の手帳だった。
「美帆さんのご両親か預かってきました。これを あなたに 預けるそうです。あなたがこれから何をすべきなのか。よく考えてみてください」
二人は、コーヒー代をテーブルに置いて出て行った。
取り残された未知子は、茶色く染まったコーヒーの揺れる水面をただぼーっと眺めていた。
そのまま紙幣を財布に入れると、未知子はレジに向かって歩いて行った。
もう会社を辞めようと心に決めた。
未知子は、帰りの電車のつり革に揺られながらぼんやりと考える。
自分は何のためにこの文書課にいるのか。
ただ、私はこのスクラップ置き場で取り残されて会社人生を終えるの?
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かつて美帆と同席していた高木と木村だった。
きっと社内名簿で住所を調べたのだろう。
「篠田さんですよね?」
木村の未知子の目の前に立ちふさがった。
「はい、私です」
唾を飲み込んでから、未知子は言った。
「ちょっとこれからお時間ありますか」
高木が言った。
「ええ……」
未知子は言った。
駅近くのファミリーレストランに 入った。
アメリカンコーヒーを三つ頼む。
「今日、店長の仏壇に手を合わせてきました」
高木が言った。
「あなたが追い込んだんです」
木村がにらんだ。
未知子は黙っていた。
しばらく時間が過ぎてから、 木村が言った。
「 私、店長の事をずっと尊敬してたんです。宝石のことが分からない私に、丁寧に教えていただいて。
どんなに助けられたことか……」
「会社の命令だからといって、店長の気持ちを ないがしろにして。それでうちの店長死んだと思う」
高木が詰め寄った。
未知子はうなだれていた。
彼女達は、会社の内部のことなど何も分からない。
販売という表舞台で、夢を追っている。
そこでいくら自分の苦労話をしても通じるわけない。
私がどれほど苦しんでいることなんて。
木村はふんと鼻を鳴らした。
「黙っちゃってさ。きっと、あなたは地獄に落ちると思いますよ」
高木は、おもむろに ズボンのポケットから一冊の手帳を取り出した 。
それは美帆の手帳だった。
「美帆さんのご両親か預かってきました。これを あなたに 預けるそうです。あなたがこれから何をすべきなのか。よく考えてみてください」
二人は、コーヒー代をテーブルに置いて出て行った。
取り残された未知子は、茶色く染まったコーヒーの揺れる水面をただぼーっと眺めていた。
そのまま紙幣を財布に入れると、未知子はレジに向かって歩いて行った。
もう会社を辞めようと心に決めた。
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