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(最終回)

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 アルベールは、エミリーの目に涙が浮かんでいるのを見ました。

 彼女の声が震え、手に力が入っていないのを感じました。

「エミリー、本当はアルベール公爵ではない。魔王です」

「……」

「私は魔王として生まれた。戦争や殺戮や破壊を楽しんでもきた。人間を見下していた。だが、あなたを好きになって……」

 アルベールは、エミリーにこう続けました。

「アルベールに化けてあなたに接近した。アルベールに向ける優しさや笑顔や涙に、すっかり魅了されてしまった。そして、夢や希望にもだ。一緒にいるときに幸せを感じた。あなたと一緒に平和と調和の世界を作りたいと思った。エミリー、私はあなたを愛しています」

「……」

「でも、私はこのままここにいることができないだろう。私は本当のアルベールではないからだ。私は魔王。あなたが愛してくれるのはアルベール。本来の自分で愛されることはできないだろうな……」

 アルベールは、エミリーから離れようとしました。

「エミリー、私はあなたと別れるよ。私はあなたを騙し、利用して、あなたの大切な人間まで殺してしまった。私を許してくれ」

 アルベールが立ち上がり、背を向けた時でした。

 小瓶が地面ではじけて割れた音がしました。

 アルベールが振り向くと、エミリーは涙をこぼしたまま、彼を見つめていました。

「戦争がアルベールを殺したの…。くやしいけれど、戦争は最後には、互いに許しあうしかない。魔王だったあなたを今でも恨んでいるわ。でも、戦争はもっと嫌いよ。あなたは平和のために尽くしたわ。今、目の前に映るのは…」

 エミリーは、アルベールの前に歩み寄り、彼の両ほほを手で包みました。

「アルベール・リーフェンシュタール公爵。わたしの……最愛の婚約者です」

 彼は涙を浮かべました。

 アルベールはエミリーを抱きました。

 互いの目を見つめて、温もりを感じました。そして唇にそっと触れて、甘いキスをしました。

 鐘が鳴りました。周りの人々も一緒になって歓声を上げます。

 人々は、色とりどりの服を着て、花や旗を持っています。人々は、戦争の苦しみや悲しみを忘れ、平和の喜びや希望を感じながら……。


☆☆☆

おしまい♪

読者の皆様、この物語を読んでくださって、誠にありがとうございました(^^) 
「おきにいり」に入れてくださった読者様、本当にありがとうございます。励まされました。また、次回よろしくお願いします!
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