20 / 20
20 最終回 いつまでも
しおりを挟む
新しい命が芽吹く春の訪れとともに、小高い丘に
魔王とフローラルの、新しい屋敷ができた。
小さな村全体を見下ろせ、向かいの高台に建つシラスク公爵邸と引けを取らない、邸宅である。
しかし、大理石の白色の、いかつく頑強で目立つような仕上がりではなく、木造の落ち着いた木肌を活かした自然に溶け込む仕上がりになっていた。
庭には季節ごとに咲く花々が植えられていて、自然に湧き出てできた小川が、広い庭の池に注ぎ込む。
室内には木材から、かぐわしい森の匂いが漂い、住民を癒してくれる。
すでにここには、魔王とフローラルはもちろん、フローラルの父やリリアも住んでいる。
父親は、魔王やアーゴイルたちと触れ合ううちに、怪物を殺す冒険者としての仕事に見切りを付けて、庭の手入れに熱心だ。
フローラルは、父親にあの結婚式で着た純白のドレスを着て、目の前で披露することができた。
アーゴイルとアングリーズは店の手伝いを通じて、激しい気性同士で意気投合して、今は魔王の城に暮らしている。
この屋敷に、表敬訪問として、シラスク公爵とクレマンチーヌ、アルボ一家が訪れた。
あれからクレマンチーヌは夫の改心を認め、夫婦として、家族として、再出発をすることに決めたのだと話してくれた。
シラスク公爵一家の馬車を二階のバルコニーから見送りながら、
「わたし、幸せ」
と、フローラルは魔王の頬に口づけをする。
「わたしもだよ。ここからずっと、君を見ていられる。君のお店も見えるし、丘を下れば、すぐに会いに行ける」
フローラルは、ふと、思いついたように、
「わたし、まだ、あなたの本当の名前を知らないかも知れない。あなたとか、魔王様とかしか、呼んだことないもの……」
「わたしの名前は、アルマンドリスク・ハングドリセト・マグシルトステクスネルと言うんだよ」
フローラルは、じっと思案していたが、
「長いから、アルマンド、じゃ嫌?」
「いいよ。ぴったりの名前だね。フローラ?」
「フローラ? わたしをこれからはそう呼ぶの?」
フローラルが甘え声で囁く。
アルマンドは首をかしげてから、苦笑する。
「いや、やっぱり、君はフローラルがぴったりだ。永遠に愛し続けるよ」
「わたしもよ、アルマンド」
二人は夜空の星々に見守られながら、唇を添えた。
魔王とフローラルの、新しい屋敷ができた。
小さな村全体を見下ろせ、向かいの高台に建つシラスク公爵邸と引けを取らない、邸宅である。
しかし、大理石の白色の、いかつく頑強で目立つような仕上がりではなく、木造の落ち着いた木肌を活かした自然に溶け込む仕上がりになっていた。
庭には季節ごとに咲く花々が植えられていて、自然に湧き出てできた小川が、広い庭の池に注ぎ込む。
室内には木材から、かぐわしい森の匂いが漂い、住民を癒してくれる。
すでにここには、魔王とフローラルはもちろん、フローラルの父やリリアも住んでいる。
父親は、魔王やアーゴイルたちと触れ合ううちに、怪物を殺す冒険者としての仕事に見切りを付けて、庭の手入れに熱心だ。
フローラルは、父親にあの結婚式で着た純白のドレスを着て、目の前で披露することができた。
アーゴイルとアングリーズは店の手伝いを通じて、激しい気性同士で意気投合して、今は魔王の城に暮らしている。
この屋敷に、表敬訪問として、シラスク公爵とクレマンチーヌ、アルボ一家が訪れた。
あれからクレマンチーヌは夫の改心を認め、夫婦として、家族として、再出発をすることに決めたのだと話してくれた。
シラスク公爵一家の馬車を二階のバルコニーから見送りながら、
「わたし、幸せ」
と、フローラルは魔王の頬に口づけをする。
「わたしもだよ。ここからずっと、君を見ていられる。君のお店も見えるし、丘を下れば、すぐに会いに行ける」
フローラルは、ふと、思いついたように、
「わたし、まだ、あなたの本当の名前を知らないかも知れない。あなたとか、魔王様とかしか、呼んだことないもの……」
「わたしの名前は、アルマンドリスク・ハングドリセト・マグシルトステクスネルと言うんだよ」
フローラルは、じっと思案していたが、
「長いから、アルマンド、じゃ嫌?」
「いいよ。ぴったりの名前だね。フローラ?」
「フローラ? わたしをこれからはそう呼ぶの?」
フローラルが甘え声で囁く。
アルマンドは首をかしげてから、苦笑する。
「いや、やっぱり、君はフローラルがぴったりだ。永遠に愛し続けるよ」
「わたしもよ、アルマンド」
二人は夜空の星々に見守られながら、唇を添えた。
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました
さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。
裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。
「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。
恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……?
温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。
――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!?
胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる